第5話 私の常識は非常識?

 旅の途中で色々な事を聞けた。


 まず、魔法が使える人は貴族以外では珍しいこと。鑑定魔法はさらに数人程度しかいないほど希少であること。収納魔法に関しては聞いたことがないようだ。イメージで魔法が発動するからには、時空概念がないと使えないのだろう。


 野営の際に結界を張り出来立ての食事を出すと、アランさんは愕然とした顔をして何度も「高位司教以上でしか使えない結界を…いやそれより何故料理が出てくる」と、あり得ないという言葉を繰り返していたが、数日経つと安全に過ごせて料理もおいしく、森の過日をアイテムボックス機能で加工したスイーツ付き、更には水も使い放題という状況にもなれたようで、しきりに感謝をされた。


 現在通っている道は、当初の目的通り帝国と商業国家を結ぶ交易路のようで、アランさんは商業国家から行きは塩を帝国に届け、帰りは帝国産の武具を仕入れる交易商をしているようだ。海産物は届けないのかと思ったが、冷凍技術が確立されていない文明レベルのようで、一部宝飾商が真珠や珊瑚などを扱うのみのようだった。


 地球のシルクロードのような感覚だが、絹織物などはフィリス公国でしか扱っておらず、時折ある北方エルフ侵攻のため、現在は贅沢品よりも実用品の方が需要があるそうだ。なるほど、人間余裕がなければ文化振興も遅れるってことなのね。


 通貨は、鉄貨・銅貨・銀貨・金貨で、それぞれ10円、100円、千円、1万円程度の価値のようで、その上の白金貨・黒金貨は貴族や豪商しか扱わないので一般には流通しない貨幣らしい。白金貨はプラチナで、黒金貨はアダマンタイトでできているそうだ。


 逆に私の事も聞かれたときには、特に包み隠すこともなかったので正直に山奥のログハウスで両親と住んでいたこと、エルフに襲われて両親がなくなり、住んでいた家も燃やされてしまったこと、穴に隠れて危険やり過ごして一人で南下してきたことを話した。


 私の話を聞くと悲しいことを思い出させてしまったと思ったのか、涙を浮かべて街についたあとに当面の生活立ち上げの面倒をみようと言ってくれた。正直言ってこの素体のベースとなった子の両親に肉親の情はわかなかったが、不自然のないようにうつむいてごまかした。


 一人でも大丈夫だよというと、君みたいな子が一人でいたらあっという間にゴロツキに襲われて娼館行きだ、鏡を見たことがないのかと言われた。鏡ですって?当然この世界に来た後には見たことない!と言うのは憚られたが、どうやら私はそれなりの見た目のようだ。

 実際にはそれなりどころではなかった。

 産めよ増やせよを使命とした素体が、普通の容姿にするわけがなかったが、その辺りの神様的存在の思惑は都合よく忘れることにしていたので、何のためにそうあるのかの論理的結論には至らなかったのだ。


 見た目もさることながら、更なる付加価値として強力な魔力を物語る碧眼の瞳が問題だった。帝国・公国なら貴族に、商業国家なら豪商に囲われ、優秀な子を産む道具にされることうけあいだ。道徳観念を問題にしなければ、ある意味、神様の思惑通りの結果を生む境遇と言えた。

 まして高位司教以上しか使えないはずの結界や、流通概念を破壊するかのような収納魔法の存在が露呈しようものなら、国同士で奪い合いが起きてもおかしくなかった。



 そんな境遇に置かれることを不憫に思ったのか、フードなどで目を隠すように言われたので、カラーコンタクトのイメージや色素のイメージで髪と瞳を茶色に見えるようにすると、そんなこともできるのかと呆れられてしまった。

 とにかく、やることなすこと何もかもやばいらしい、なんてことでしょう。


「だいたい、囲うといってもあと4~5年はしないと子供過ぎるでしょう」


 そういうと、アランおじさんは困ったようにあらぬ方向に目を向けながら何かを言おうとしては口と閉じることを繰り返していたが、何かをあきらめたように、


「・・・そうだといいな、ミナ嬢ちゃん」


 と、少し不安になるような言い方をして、その話は終わりとなった。


 そうこうして常識を修正する日々を過ごしている内に、ようやくラウルの街の外壁が見えてきた。3メートルほどの外壁に囲まれ、門番の前に待ち行列ができているのが遠見の魔法で伺えると、ようやく文化的な生活を送れるようになるのかとほっとするのであった。

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