第4話 Side商人:ファーストコンタクト
あたりが静かになり呼びかけに気が付いたのか、馬車から中世風の商人の姿をしたおじさんが恐る恐る顔を出した。周りに狼たちがいなくなり、かわりに12~3歳くらいの少女が立っているのを確認すると、不思議そうに問いかけられた。
「お嬢ちゃん、グラスウルフの群れはどうしたんだい?」
当面の危機が去り、中年の男は目の前の少女がはっとするような美少女であることに気が付くいた。腰まで伸ばした紫銀の髪に、強い魔力の象徴ともいえるエルフと同じ碧眼の瞳を持つ愛らしくも美しい顔立ち。
とてもこんな辺境を一人旅するような出で立ちには見えず、突然消えたグラスウルフの群れとあわせ、まるで夢でも見ているような気分だ。
「襲われているようでしたので、かわいそうだけど駆除しました」
獰猛なグラスウルフがかわいそう?いやまて、駆除といったか?鳴き声ひとつ血痕すら残らずどうやって?
「死体は見当たらないようだけど追い払ってくれたのかい?」
そうか、なにかしらの手段で追い払ったのだろう。そう結論付けると、目の前の少女は小首をかしげて、とんでもないことを言い放った。
「いえ、魔法で即死させました。鑑定したところ食べられるようでしたので、全部アイテムボックスに収納しました。ご覧になります?」
年齢不相応でありながら見た目には相応しい丁寧な口調であったが内容に驚嘆した。
目の前の少女は、グラスウルフの群れを害虫と同じかそれ以下の手間で倒してしまえるほどの魔法を操り、しかも街に数人いればいい鑑定魔法の使い手であり、大容量の収納魔法をつかえるようだ。
ごくりと喉を鳴らしながらうなずくと、はい、とばかりに傷一つない眠るようなグラスウルフの死体が目の前に出現した。わかったもういいというと、目の前のグラスウルフが消え去った。
常識からは考えられないことだが、先ほど目の前の少女が言ったことは全て事実だとわかると、
「ギルドに依頼していた護衛が逃げてしまって先ほどの有様だったんだ。お嬢ちゃんみたいに小さな子に頼むのは心苦しいんだが、ラウルの街まで護衛を頼めないかな」
これを逃す手はないと護衛を頼んでいた。突然の申し出に驚いていたようだが、快く引き受けてくれた。
「実は街までの道がわからずに途方にくれていたんです。私もご一緒させていただければ助かります!」
本当に年の割にしっかりした子だ。うちに息子がいたら嫁に来て欲しいくらいだが、残念ながら子供はできなかった。おっと、そういえば自己紹介もしていなかったな。
「ラウルの町で商人をしているアラン・ローランだ、よろしく頼むよ」
右手を差し出すと、小さな手で握り返して名前を教えてくれた。
「七瀬…あ、逆かな。ミナ・ナナセです、よろしくお願いします」
目の前の少女は、花が咲くようにな笑顔を浮かべた。
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