第3話 旅立ち

 思わぬ襲撃を受けて事なきを得たものの、家無し生活に戻ってしまった。


 以前、遠見の魔法であたり一帯を見た感じ、山々が連なるだけで人里どころか平原すら見えなかったが、焼け落ちる前にログハウスにあった大雑把な地図によると、北一帯は森林地帯で、南下していくと平野が広がっているようだ。


 そう、よく考えたら森林などはエルフが住んでいそうな地域なわけで、山奥のログハウスなど危険地帯ど真ん中に放り込まれたようなものだったのだ。神様らしき存在も、存外気が利かない。


 南東にいくと海に面した商業都市国家ロスタリア、南中央一帯はルーデルドルフ帝国、南西には小さめのフィリス公国があるようだが、地図も一部地域のものであったしGPSのように「いまここ」という表示が付くわけではないのでどの程度の距離があるのかはわからなかった。


「出所不明な人間でも不自然なく入国できるという条件を考えるとロスタリアを目指すのが無難かな?」


 しかしあのような襲撃を受けた後では、大国の方が安心安全という考えも浮かんでくる。折衷案としてロスタリアとルーデルドルフの境界で交易を行っている街なら行ったり来たりできるだろう。


「問題は方角すらわからないことね」


 そう溜息をついたが、口にしたことで、鉄の棒の周りに魔法で電子の流れを作って磁力を流してやれば少なくとも北か南かは判別がつくことが思い浮かんだ。絶対役に立たないと思っていたフレミング左手の法則万歳。


 アイテムボックスからナイフを取り出し、浮遊させて電流を回りに流し込むと期待したように一定の方角を指した。浮いたナイフの切っ先方向に進むという、なんともシュールな絵面だったが、こうして旅立ちの一歩を踏み出したのだった。


 ◇


 半月ほど歩いたところ草原地帯が見えてきた。感覚的には一日20km歩けていたとして、東京から名古屋あたりまでの距離で済んだろうか。


 実際にはこの惑星が磁力を持っていたとしても、地球と同じくN極が北を指し示すとは限らず、木星のようにN極とS極が地球と逆だったら、逆に森林地帯真っ只中に突き進むことになっていたことになるのだが、知らないということは幸せな場合もある。


 今日も今日とて浮かべたナイフをしるべとしてテクテクと歩いていると、車輪が通った痕跡のような輪つ道を見つけた。ついに文明の痕跡を見つけほっとしたのもつかの間、叫び声が聞こえた。


「遠見」


 声が聞こえた方向を望遠すると、馬車のまわりに大型犬くらいの大きさの狼が15頭ほど群れているのが見えた。山で狩りなれていたこともあり、助けてあげることにした。


「水球!からの~雷!」


 狩りを始めた当初は動物の顔を水球で覆い窒息させていたのだが、結構長く苦しんでいたのを見かねて、そこから這わせた水に電流を流して脳死という、ある意味よりえげつないコンボを生み出していた。


 あっという間に死体と化した狼を鑑定するとグラスウルフ(食用)と出た。森に生息していた狼は倍くらい大きく、鑑定結果もフォレストウルフ(食用)であったので少し種族が違うのかもしれないが、食用であることに変わりはないと判断すると、アイテムボックスに収納した。


「あの、大丈夫ですか~?」


 そんな緊張感のない声をかけつつ、馬車に近寄って行くのであった。

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