第2話 エルフ襲来

 あれから一か月くらい経過しただろうか。一通りの衣類や生活用具がそろっていることを確認すると、美奈は森になっている果物を鑑定しながら収穫したり、鹿のような動物を魔法で狩っては調理機能付きアイテムボックスに収納し、それなりに不自由ない食生活を送っていた。


「このアイテムボックス便利すぎるわ」


 鑑定で茶葉のもとになる葉を風魔法で乱獲してアイテムボックスに収納するだけで、蒸したり乾燥したりして記憶にある現代クオリティの品質のものが簡単に加工されてできてしまうのだ。これなら生活用具や衣類、なんなら家電機器も自動で作ってくれる万能錬金アイテムボックスでも、頼めばできたのではないだろうか。


「まあ一度は死んだ身なのだし、贅沢言うものではないわね」


 贅沢どころかイメージのみで発動する魔法と一流シェフやパティシェ並のアイテムボックスのせいで、当初の目的を忘れて山林ログハウス生活を満喫し、すっかり当初の使命を忘れていた美奈だったが、その平穏は突如破られた。


 バリーン!


 ガラスが壊れたような音とともに、以前張った結界が破れれたことを感知した。


「遠見!」


 監視カメラをイメージして外の様子を脳裏に浮かべると、そこには耳が尖った金髪碧眼の美しいエルフが3人ほど立っていた。


『まえに駆除したはずだが生き残りがいたのか』


 先頭にいる鋭い目をした男エルフがエルフ語と思しき言葉で話すのが聞こえた。どうやら言語理解はエルフも含むようだ。


『気を付けて、結界を張れる程度の魔法は使えるようだわ』


 傍にたつ女エルフが警戒を促すと、男エルフは馬鹿にしたように


『おいおい、人間相手に何を警戒するっていうんだ?魔法が使えても十分の一以下の魔力だろう』


 そう言うと、右手に燃え上がる炎を現出させたのが見えた。


『面倒だ、汚物は燃やすに限る』


「ちょっと!エルフは火は忌諱するのがお約束でしょう!」


 たまらず美奈は声を上げてつっこんだが、今、気にすることではなかった。


 急いで床を貫通して地面に穴をあけて飛び込んだ直後、上から凄まじい熱風が押し寄せた。上を見ると今まで生活していたログハウスがものすごい勢いで燃えていた。


『これでよかろう、帰るぞ』


 興味をなくしたように3人のエルフが去っていくのが監視魔法のイメージから伝えられた。美奈はそのまま結界魔法とクーラーをイメージした空調魔法により、ログハウスが完全に燃え尽きるまでその場で待機し、事なきを得るのであった。


「あれが聞いていた凶暴なエルフ族ね。すっかり忘れていたわ」


 穴から抜け出し、一か月過ごした焼け落ちたログハウスを前に、ようやくここに来た当時のやりとりを思い出した美奈であった。

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