第15話 確認

翌日。


朝礼が終わってみんなが各々の生活を始めた頃だった。


宮仕達が自分の仕事に着くのを確認すると、フェイは昨日の倉庫へとバレないように向かった。


倉庫に着き、棚を見てみる。


床には動かしたような跡がある。


この棚を動かして出入りしているようだ。


フェイも跡に沿って棚を動かした。


すると隣の部屋に続く扉が出てきた。


扉を開けて中に入ると、むっと言う湿気と共に微かな異臭に包まれた部屋に入った。


灯りを灯して見てみる。


すると部屋の中からは物々しく設置された断頭台が現れた。


手入れされているのか血などはこびりついていない。


しかし、使用感のある断頭台だった。


昨日の物音はこの断頭台を動かしていたもの?


フェイは周囲を見て回った。


小さい祭壇が備えられた隣に樽が置いてある。


フェイは樽の中を確かめようとした。


重い樽の蓋を開けると異臭が飛び出し、フェイは鼻と口を覆った。


灯りを近づけ樽の中を見る。


中には体育座りになってしまわれている体と、体から切り離された頭を体が抱えるように納められていた。


先日声を上げていた女性の遺体のようだった。


日数が経って腐食が始まっている。


フェイは胸が苦しくなった。


その場に座り込みしばらく動けなくなった。


周りを見渡すと樽はもう1つある。


中を確認しない訳にはいかない。


フェイは起き上がると、もう1つの樽も開けた。


中には同じように切断された体と、それを抱えるように頭が納められている。


昨日いなくなった女性だった。


フェイは樽の蓋を閉じて、その部屋から出ると、棚を戻し自室へと戻って行った。


やはりここでは殺人が行われている。


慈愛と称する殺人が。


死の闇、光の潰えた無間の闇に生きる者。


苦しみによって死に呼ばれる者。


彼等彼女等を救うのも救世院の務め。


癒える事の無い死ぬまで続く苦痛や苦悩からの解放…。慈愛…。


それしかなかったのか…本当にそれしかなかったのか…マザー…。


フェイは自分の見てきた人達を思い出した。


彼等彼女等の囚われている死の闇、抜け出すのは容易ではないこと。


そして殺された彼女達はその死の闇を超えることは出来なかったであろう事。


フェイはその事について考え込んだ。


そして夕食の時間が来た。


イドニス「皆様、今日もお疲れ様でした。


今日も一日を過ごす力が私達に与えられた事を感謝します。


今日も安息の夜が来ますように。


そう言うとイドニスは目をつむり顔の前で手を合わせ額に付けた。


それでは頂きます。」


食堂一堂「頂きます。」


マザー…。フェイは深刻な面持ちで夕食が喉に通らなかった。


これが、救世院のいつもの風景なのか…。


マザー…。こんな日を一体いつから繰り返しているんだ…。


光の潰えた死の闇に囚われた人々、その救いだと言った。


フェイは何が正しい事なのか、考える事が出来なかった。


食事を終え、自室に戻るとフェイは考え込んだ。


出来事をノートに取る事もしなかった。


そしてまた眠れぬ夜を過ごす事となった。

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