第9話 救世院の幸福
日が暮れた頃、また宮仕が部屋を叩いた。
コンコン
宮仕「フェイさん、お食事の時間です。
食堂までお越しください。」
そう言うと宮仕は部屋を回って行った。
フェイは食堂に向かった。
今日も昨日と同じほどの人がいる。
フェイは空いている席に座った。
隣には生業で一緒に傘を作った女性がいた。
鶏の照り焼きとライスが運ばれてきた。
食事が運び終わると、イドニスは夕礼を始めた。
イドニス「皆様、今日もお疲れ様でした。
一日を過ごす力を与えられた事を感謝します。
今日も安息の夜が来ますように。
そう言うとイドニスは目をつむり顔の前で手を合わせ額に付けた。
それでは頂きます。」
食堂一堂「頂きます。」とまばらに声が聞こえた。
今日もまたオルガンの演奏が流れる。
宮仕は食事を取りながら修養者の様子を聞いて回った。
今日も暖かな夜を迎えた。
食事が終わると救世院の世は更けていった。
フェイは食器を片付けて食堂に残った。
テーブルには中年の男性が1人座っていた。
フェイはその男性に話しかけた。
フェイ「ここ座ってもいいですか?」
修養者の男性「ええ、どうぞ。」
フェイ「ありがとうございます。」
修養者の男性「あなたは確か最近救世院に入って来られた」
フェイ「ええ、フェイと言います。
訳あって今は救世院に預かってもらっています。」
修養者の男性「そうですか、私はここに来る前は店を営んでおりました。
妻と子供に恵まれて幸せな日々を送っていました。」
フェイ「ほお、それが何故ここに?」
男性は息を詰まらせ涙ぐむと言った。
修養者の男性「悪質な金貸しに捕まってしまったのです。
店が傾いたおり、悪質な金貸から金を借りてしまったのです。
それからお金の返済で、店の仕入れは出来なくなり、出来なくなったお金の返済の代わりにと妻と娘は貸金業者に連れて行かれてしまいました。」
フェイ「それは大変な思いをしましたね。」
修養者の男性「私にはどうする事も出来ませんでした。
店も妻も娘も戻ってこない。
生活はおろか、やつらに復讐する事もできない。
私はここでどうにもできない苦痛に苛まれながら後悔の日々を送っています。」
フェイ「なんと言ったらいいか。
耐えられない時もあるものです、いつか救われる日が来ると信じましょう。」
修養者の男「あなたにはこの苦しみは分からない!
そう言ってあなたを責めても仕方がありませんね、失礼しました。」
修養者の男性は沈痛の面持ちで机に顔を伏せた。
フェイは部屋へと戻り思いを馳せた。
ここには想像以上に深刻な事情を抱えている人がたくさんいる。
イドニスの言っていた通り、非道を受けた人間が復讐の業火に焼かれながら苦しんでいる。
この世は暗い、か。
世の闇は暗くて重くて深い。
そこから抜け出すのは容易な事ではなさそうだ。
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