第4話 異世界クラス転移


 その日、王宮内は浮き足立っていた。

 念願の勇者を召喚する準備が整ったからだ。


「まだか。まだ勇者は来ぬのか」

「もう少しだけお待ちを。もう間もなく魔術師達が異世界より勇者を召喚いたします」


 この国は敵対する魔族によって存亡の危機に瀕していた。

 だが、もはや敵に身を差し出すしかない絶望的な状況下で一筋の希望が差し込んだ。


 賢者が大書庫より『異世界召喚』なる古き術を見つけ出したのだ。


 召喚されるのは強大な力を有した異世界の存在。

 かつての人々は彼らを『勇者』と呼んであがめ奉ったそうだ。


 王の間に報が入る。


「召喚は成功いたしました」

「まことか! ただちに勇者をここへ呼ぶのだ」

「それが」


 報告を行っていた魔術師が言葉を濁す。

 王はすぐに何らかの問題が発生したことを察した。


「実は一名ではなく三十名でして」

「そんなに。だが、数は多いに越したことはない。はよう連れて参れ」

「お待ちください。まだ問題がございます」

「まだあるのか!?」

「彼らは異世界人ゆえ我々とは異なった常識の元で生きております。ですので、王の御前であっても多くの無礼があるかと存じます」


 王は苛立っていた。

 前置きはいい早く連れて来て魔族を退治してくれと吐き出したかった。


 騎士が逃げてくるように入室する。


「勇者様がお見えになられました」

「よし、通せ」


 兵が扉を開けようとすると、外側から力を加えられ一気に開け放たれた。


「逃がさへんで。まだ話し合いが終わってないやろ。それで、勝手に連れてきた落とし前どうつけるつもりや」

「ひぃひぃいい、すみません!」


 ガラの悪い男が騎士に迫る。


 男の背後には奇妙で派手な服装を身につけた男達が並んでいた。

 その中心には、威圧感のある小綺麗な男が静かに様子を見ている。


 王は『勇者ってこんな感じなの!?』とイメージとのギャップにドキドキしていた。


「責任者ださんかい」

「あ、あそこです」

「なんや王様みたいな恰好しとるな」


 王様は『馬鹿、そっちで処理しろ』と心の中で悲鳴をあげる。


 ガラの悪い連中はぞろぞろと部屋の奥へと踏み入る。

 王の前で止まった彼らは武器を持った兵にも臆した様子はなかった。


「よ、よくぞ参った。余はこの国の国王である」

「誰が勝手にしゃべ――兄貴?」

「てめぇは少し黙ってろ」


 小綺麗な恰好をした男が前に出る。

 王は話ができそうな相手が出てきてほっとする。


「あんたがこのシマの頭か。ウチは勇舎組のもんだ。若頭の松本といやぁ少しはわかんじゃねぇのか」

「い、いや、知らぬ」

「召喚つったか。どういうカラクリだ? ちらっと表を見たが、どうにも日本じゃねぇ雰囲気だ。納得のできる説明をしてくれねぇか」


 王様は魔術師に目配せし説明しろと促す。


「では、まずは我が国に伝わる古文書を」

「てめぇ!?」


 ぱんっ。乾いた破裂音が部屋に響く。

 魔術師は懐に手を入れたまま床に倒れた。


 ガラの悪い男が黒い何かを握っていて、その先からうっすら煙が漂っている。


「はやまっちまったな」

「すいやせん。ハジキを取り出すのかと」

「悪いな。若ぇのが急いじまった」


 松本と名乗った男は申し訳なさそうに軽く頭を下げる。

 今死んだのはこの国で最も知恵ある賢者。


 王様は恐ろしさにガクガク震える。


 魔術で対抗する暇すら与えなかった。

 彼らは恐ろしく強い。


 だが、同時に強い希望もあった。


 彼らなら魔王と魔族を倒せるかもしれないと。


「貴殿らに頼みたいことがある。もし叶えてくれるなら望みをなんだって叶えよう」

「ほう、そりゃずいぶんデカい話だな」


 松本はどかっと床にあぐらをかいて対話の姿勢をとる。

 王も彼らを真似て床にあぐらをかいた。


「我が国を救って欲しいのじゃ」

「で?」

「敵は魔王と魔族。奴らを倒してくれるのなら武器も物資もなんだって用意する」

「つまり戦争か」

「そうじゃ」


 松本はのっそりと立ち上がる。


 そして、ぱんぱんっと乾いた音が響く。


「自分のシマも守れんようなゴミが戦争なんかすんじゃねぇよ。おう、今日からこのシマは俺らのものだ。文句がある奴はいねぇな?」


 この日、国は滅んだ。


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