第3話 ある日、頭の上に数字が


 鏡の前で目をこらして確認する。

 違和感に気が付いたのは朝の歯磨きをしている最中だった。


「頭の上に……数字?」


 俺の上に『1』が浮いている。

 手で触ってみるが触れる感じはなかった。


 身体を左右に揺らしてみる。

 鏡に映された表示でもないようだ。


 なんだろうこれ。


 顔を洗い終わると着替えてリビングへ向かう。

 そこには母と父と妹がいて、皆の頭の上には数字があった。


 父は『2』

 母は『1』

 妹は『1』


 うーん、やっぱあれかなぁ。

 これって最近の小説に出てくるあれだよな?


 確か『経験人数』だったか。

 いやまて。他にも『好感度』とか見た覚えがある。


 そもそもこれって他の人にも見えてるのか?


 席に座りつつそれとなく話を振る。


「今日はなんだか頭の上に数字がある気がするなぁ」

「はぁ? まだ寝ぼけてんの? 叩いて直してあげようか?」

「結構です」


 生意気な妹だ。だが、これこそが我が妹だ。

 いつも通りでお兄ちゃんは嬉しいぞ。


 目玉焼きに醤油を垂らし、白米片手にがっつく。


 時計を見ると時間が迫っていた。

 急いで掻き込んで終わらせると、鞄を掴んで家を出た。


 学校までの道のりに多くの数字を見かけた。


 ほとんどが『1』だったが、稀に『2』があったりして一人だけ『3』もいた。


「わかんないなぁ。なんの数字だ」


 多分だけど好感度ではない。

 経験人数も違う気がする。


 俺、童貞だし。


 もしかして交際している人数とか?


 想像すると興奮する。

 あの一見普通のおじさんが三人と付き合ってるなんて。


 道にちらほら同じ学校の生徒が現れ出す。


 やはりどの子も『1』だ。

 奇妙なのは『0』がいない点である。


 少なくとも誰でも一つは持っている何かなのだろう。


 答えが見つからず悶々とする。

 今日は授業に集中できないかもしれない。


「……あれ?」


 トラックがフラフラしながらこちらへ向かってきていた。

 しかもかなりの速度だ。


 運転席を見ると運転手はうとうとしている。


 危険を感じた俺は電柱の陰に身を潜めた。


 トラックが十字路を越えようとしたところで、一方の道から女子生徒が飛び出した。


 嘘だろ!?


 反射的に助けに向かおうとするが、ここからではどうやっても間に合わない。

 それでも男気溢れる俺は僅かな希望を胸に駆けた。


「きゃぁぁあああああああ!?」

「危ない!」


 風のように素早く飛び出す影。

 それは女子生徒とトラックの間に割り込んだ。


 ドンッ。


 轟音が響きトラックは停止。

 女子生徒は何が起きたのかも分からず青い顔でへたり込んでいた。


 トラックを止めたのは男子生徒だった。


 隣のクラスの鈴木だ。

 学年一のイケメンなので間違いない。


 彼は負傷している様子もなく、それどころか片手であの重量を止めていた。


 頭の上を見ると数字は『99』である。


 そこで俺はこの数字が何を意味しているのか理解した。


 多分、レベルだ。

 鈴木がすさまじい力を発揮したのにも納得が行く。


「怪我はないかい」

「はい!」


 女子生徒は美少女だった。


 なんだよ、レベルかよ。

 つまんね。


 鈴木と女子生徒の恋が始まりそうだったので、さっさと学校へ行くことにした。


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