第144話
大統領との会談の後、少しゆっくりな日々を過ごす。
俺の「家族」という事で、桜木と仁科、おまけでビトーも貴族街への通行証をもらい、俺のアパートへも来ていた。
ちなみに、堂本は、何度か君島の薙刀の技術などの教えを請い、君島もそれに応えていた。今はすでに街を離れ、階梯上げと槍の練習をと修行の生活に戻るようだ。
デュラム州の連邦軍の将軍を務めるディグリー将軍も式典には参加していた。どうやらカミラと一緒にここまで来たようだが、何でもディグリーの専属の魔動車の運転手のピークスという兵士が仁科を手伝い、仁科が桜木を追っていく時に一緒に同行してくれていたようだ。
だが、将軍の専属の運転手ということで、リュードの街でピックアップされ既に首都を目指して出発していた将軍に合流するために引っ張られたようだ。
リュードの街で、仁科に声をかけることも出来ずに居たことを申し訳無さそうに謝っていたが、仁科にとってはかなり助かったようでしきりにお礼を言っていた。俺としても同じだ。仁科が一人でどうしていいか分からないときにピークスが手を貸してくれたというのは感謝してもしきれない。
俺からも礼を言う。
ディグリーや、カミラも、そこまで長くデュラム州を開けている訳には行かない。オレたちより先に帰路へつく。
「シゲト、とくにミキはもう少し休ませてあげたい。急がなくていいゆっくり帰ってこい」
カミラも桜木の事件は知っていた。
それだけに、急いでデュラム州に帰ってこないでも良いと言ってくれる。
今回ここまで来たルートとは別に、温泉地で有名な街などもあるようだ。迂回して楽しんできても良いぞと言われ、スペルセスが嬉しそうに旅の計画を立てていた。
そのスペルセスも、桜木と仁科と君島が七階梯に成るまでは付き合うつもりのようだ。国の頭脳として仕事はいくらでもあるはずなのだが、元々自由人なのだろう。
それでも出発の日まで出来る限りの仕事をすると言って、ブルグ・シュテルンベルグにこもる日が続いていた。
「それもしても……やっぱり天位って凄いですねえ」
アパートの部屋で、メラに餌を上げながら桜木が言う。
「まあ、優遇されてるよな」
「堂本先輩たちの借りた一軒家より、部屋多いですしね。……寝室が三つってどこの貴族ですかあ?」
「でも、まあ、桜木だって順調に階梯を上げれば天位に成れるって話だろ?」
「そうですけどぉ……連邦の天位で良いんですかね?」
「ははは、まあ大統領はそれなりに期待していたぞ」
「でも連邦軍。私を見つけられなかったしぃ……」
「うーん……」
そこら辺も日本のように、街中に監視カメラがあるとか、そういう条件もない。実際犯罪の検挙率だってかなり低そうに思える。
「でも、守護騎士の制度って、連邦だけだぜ」
「ん~。鷹斗君が守ってくれるの?」
「そ、そのつもりだよっ」
「……へえ」
仁科は、なんとなく顔を赤らめながら必死に伝える。
そんな仁科を、桜木はじっと見つめる。
「ふーん」
「な、なんだよっ!」
「でもさ」
「俺じゃ不満なのか?」
「ううん。鷹斗君も天位目指そうよ」
「え? いやいやいや。俺の精霊だとそこまでは無理だよっ」
「でもさあ。頑張るだけ頑張ろうよ。十階梯まで成った時に、天位に届かなかったらそれはそれでしょうがないけど……」
「俺の精霊は、癒やし系だからっ!」
「でも、あのゾンビアタックは、すごかったじゃん!」
「え? ……いやいやいやいや。あれ超痛いんだって。知覚麻痺させてたけど完全じゃないしっ! またやれって言われたってさ」
「私のために。その時はやってくれるでしょ? 守護騎士さん?」
「う、うう……やる」
「ふふふ」
「でも、簡単に拐われたりするなよなっ」
「うん。でも拐われたらまた助けてねっ」
「助けるけどっ! 拐われない」
「分かってるって~」
なんとも、微笑ましい光景に俺は思わずニヤけてしまう。
そんな俺の横に君島が座り、ギュッと腕を組んでくる。思わず君島を見れば、君島は幸せそうに俺の肩に頭をつけてくる。
あの後、大統領から池田の情報などは貰えたわけだが、一向に小日向の情報は入っていないという。
この国にも当然のように諜報機関というか情報を集める組織はあるようだ。そちらの方で小日向の動向を調べてくれると言ってもらえてはいるが……。
俺たちは自治区の話は殆ど知らなかったが、その時に聞いた話だと、予想以上に環境は悪いらしい。
犯罪者などの刑罰としての強制労働の場として扱われている場所でもあり、転移者で要注意とみなされた人間を更生させる為にそこへ送られる。地球のように犯罪を犯したものにもちゃんと人権を尊重して扱われるような世界ではない。
もしかしたらかなりキツイ日常を送っているのかもしれない。
……そんな事を考えると、こうして平和を享受している自分に少しだけ……少しだけ罪悪感を感じてしまう。
君島との事で、許せない事もやってしまったが。それもこれも精霊の影響のせいもあると思ってる。そう考えると小日向は犠牲者なのかもしれない。あれから日が立つにつれ、そんな思いも芽生え始めていた。
……無事に、開放されて出てきたら……出来る限りの事をしてあげたい。
やつは俺を拒絶するかもしれないけどな。
……
「ちょっと、先生も先輩も、何好々爺みたいな顔でみてるんですかっ!」
「ほら、青春だなあってな」
「うわあ、そんな老人みたいなこと言わないでくださいよ、先生だって君島先輩と……ねえ?」
「おっおい。俺たちは関係ないだろ?」
「関係ありますって」
「ま、まあ。良いじゃねえかそこは」
「あ。逃げですか? 逃げですね」
……
……
とりあえず、今は。俺の手の届くところにいる生徒たちを守っていこう。
こうしてこの世界を楽しむ家族と一緒に毎日を充実させていこう。
※ありがとうございます。
これで、この章は終了となります。前編後編に分けて二章分の長めの話でしたが、何とか着地まで書けてホッとしております。個人的にはそれなりに納得できるものがかけたなとは思っております。
ここまでお付き合いしていただいた読者様には感謝です。
今後ですが。小日向の話を書きたいと思っているのですが。なんとなくそれはこの作品のエピローグに使うべきなのかと。もしかしたら違う話を一章分考えるかもしれません。
それでですが。この作品。ファンタジア文庫様から、書籍化の準備を始めております。僕の方も改稿作業など、書籍化に向けての作業が忙しくなっております。
そのため、次章の開始はちょっと未定にさせてください。
書籍の方は、だいぶ内容もいじらせてもらっております。無くした設定もあれば新しく入れた設定もあり、こちらを読んでいた方でもなるべく楽しめるようにと頑張っております。
今後、何かお知らせできることがあれば近況ノート等にお知らせを書いていく予定ですので、作品フォローのみで、作者フォローがまだの方がいらっしゃいましたら是非、お願いいたします。
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