第131話 モンスターパレード 4
一方。
式典会場の壇上では、大統領が言葉をつまらせ新市街の方を見ていた。
「な、なんだ……あれは?」
新市街の方で湧き上がった黒い霧は、すぐに下に向かって落下し、しばらくすると見えなくなった。だが現場では、わずかに周りに広がった物が周りに広がり人々を襲い始めていた。
ブルグ・シュテルンベルク前の観衆はまだ自体に気づいていいる者も少なく、そんな大統領の様子に何事かとざわめきが起こる。
警備兵達も、新市街の方で何かが起こっているのかは感じていたが、実際に何が起こっているのかは分からず戸惑っていた。
そんな中、俺の後ろに立っていた君島が、小さい声でささやく。
「先生! 鷹斗君が!」
「え? なぜ仁科が? あそこで、か?」
「はい。堂本くん達も一緒です。大きな建物から次々に魔物が溢れています」
「魔物が? 何が……」
生徒たちがあそこで戦っている。それを聞いた俺は居ても経っても居られなくなる。だが、今は大事な式典の最中。下には多くの観衆も注目している。
くっそ。どうすれば。
俺は悩みながら周りを見ると、少し後ろの方に居るスペルセスと目があう。そう言えばさっきスペルセスが何か俺に言いたげな感じがあったが……俺は少し嫌な予感がした。
何かを知ってる?
しかし確証はない、どうするかと逡巡していると、再び君島がつぶやく。
「ああ……メレルさん!」
「メレルさん? どうした?」
「今、魔物に……大慈君と哲也君が、凄い。頑張ってる……」
「……君島、そのまま見ててくれ」
俺は君島にささやくと、少し後ろの方に3人で並ぶ賢者に向かって歩く、周りの兵士たらは、俺が突然持ち場を動いたことに驚いて注目が集まる。なんとか持ちこたえてスピーチを続けていた大統領が俺に気づき、チラチラと困ったような顔をこちらに向ける。
近づいてくる俺を、スペルセスは険しい顔で俺を見続けていた。
「……すいません、新市街の方で魔物が大量に発生しているようです」
「確かか?」
「はい、君島のメラで確認しました」
それを聞くと、スペルセスはふうとため息をつく。
「……やはり、あの黒い霧は……」
「そうです、鳥の魔物のようです。現場で仁科が戦っているのが見えたと言っています。俺もすぐに向かいたいのですが……」
スペルセスの隣に立っていた若い賢者は、俺の言葉を聞いて困ったように口をはさむ。
「もう少しで大統領のスピーチも終わります。式典もそこまで長い――」
「フーディ師、やはりギャロンヌの魔法陣が発動したと考えるべきじゃないかな」
「しかし、スペルセス師……」
ギャロンヌの魔法陣? 何の話だろう。やはりスペルセスは何か情報を持っていたようだ。
「シゲト、実は先日ヌシが出会ったルーテナの襲撃、あの襲撃したエバンスと言う組織が人工的にモンスターパレードを起こそうとしているのではないかと言う情報は有ったんだ」
「モンスターパレードを、ですか?」
「そして、そのエバンスにミキが攫われたという情報も入っている」
「え? ……桜木?」
俺はスペルセスの言葉に一瞬何を言っているのか理解できず、言葉につまる。
だが、スペルセスは真一文字に口を閉じたまま、黙ってうなずく。
「し、しかし。……いつです? いや、あそこに居るんですか?」
「分からないとしか言えん。連邦軍で捜査はしていたのだが、まだ情報が集まっていないんじゃ」
「そんな……なんでもっと早くっ」
俺の生徒が攫われたんだ。真っ先に俺に伝えるべきじゃないのか? 俺は愕然とスペルセスを見つめる。スペルセスは硬い表情のまま俺の視線を受け止めていた。
すると、もう一人の年配の賢者が話しかけてくる。
「大事な式典の直前だ、不安にさせるような情報は慎むべきだと判断された」
「慎む? 判断された? 誰がです!」
「そういう物だ。君の生徒は連邦軍が全力で捜査をしている。君が行った所で変わらないだろう」
「で、ですが……いや……そういうことですか」
「すまん、シゲト」
「いえ……」
俺も子供じゃない。国や政治家のやることの意味などすぐ推測できる。そうだ。確かに事前にその話を聞いていれば間違いなく俺は桜木を探しに行っていただろう。見つかる見つからないは別として。
ただでさえ、天位の所持数の少ない連邦国だ。式典にこうして並べて国民に誇示したいと考える事は、上の人間なら当然考える。
……くっそ。下らない。実に下らない話だが、大人の事情というやつを理解してしまう自分もいる。しかも桜木は天戴と言えど、まだ州軍所属だ。しかも愚連隊のようなデュラム州軍。大事の前の小事に連邦天位を動かすなんてことは当然避けようとするのだろう。
止めどなく湧く苛立ちの中、そんな事をしてる場合じゃないと思い直す。
「今すぐ行かせてもらいます」
「そうじゃの、ワシも行こう。ヴァーグ師。大統領に式典の中止を進言してもらって良いかな」
スペルセスが初老の賢者に伝える。そのヴァーグはため息をつき、諦めたように答える。
「……致し方無いじゃろう。フーディ師はすぐに防御対応を支持してくれ」
「わかりました。ラインは貴族門で?」
「間に合えばな。襲撃警報陣も起動するように伝えてくれ」
「はい!」
スペルセスが俺に付いてくる旨を伝えると、年配の賢者が何やら若い賢者に指示を出し、そのまま大統領の方へ向かう。若い賢者も城の中に走っていった。
「スペルセスさん。良いんですか?」
「これでもシゲトに言えなかった事を申し訳ないと思っておるんだ。……ミキの居場所が分かったのなら、迎えに行こうぞ」
「そうですね」
「マイヌイ。命の保証は出来んが、良いか?」
「問題ありません」
「頼むな」
スペルセスはそのまま壇上を進み、階段から降りていく。大統領の拡声器を使いヴァーグが俺たちに道を開けるように伝える。かなりの群衆が集まり、スペースを作るのは厳しいかとも思ったが、なんとか皆が必死に開け道を作ってくれる。
その後ヴァーグが市街地に魔物が発生しているという話を国民に伝える。
人々のどよめきの中を。俺はスペルセスの後を追い、君島とマイヌイとで群衆が開けた隙間を小走りで進んでいく。
◇◇◇
「なんで付いてきてくれねえんだよっ!」
「これ以上メレルを危険に晒すことは出来ない」
「だけど、おっさんだって中に用事があってここまで来たんだろ? 皆で行けば俺たちだってメレルさんを一緒に守れるしって言ってるの!」
「……悪いな。危険を賭けてまでやることじゃない。見ろ。魔物がわき続けているではないか」
「そうだけどよ……」
堂本達が校舎の中に入ろうとした時、デュベルがそれを断る。デュベルの強さを期待していた辻が必死に付いてきてくれるようにと説得するが、デュベルは耳をかそうともしない。
前方で魔物を退けながらもそれを聞いていた堂本がちらりと後ろを見る。
「……辻、無理に来させないで良い」
「だけどよっ!」
「おっさんには、ついでに仁科とケルティを守っててもらう。あの二人も中に入るには厳しい」
「……デュベルだ」
「……メレルの治療をしたんだ、一つ頼まれてほしい」
「なんだ?」
「俺達の連れがもう一人、宿で留守番をしている」
「分かった。守ってやる」
「頼んだぞ」
俺たちの連れ……ここに来て辻もようやくビトーの事を思い出す。確かに堂本たちでこの場の魔物は食い止めていた。しかし少しづつ街に魔物が漏れ出している。宿にいるビトーが襲われたらひとたまりもない。
襲われない確証もない。
「そ、そうだな……だが俺たち3人で?」
「ずっとそうしてきただろ。フォローを頼む」
仁科は自分が足を引っ張るという現実に悔しい思いを抱いていた。だが、メレルの事もある。付いていくことで先輩達の負担に成ることも避けたかった。思いつめた顔の仁科に、堂本が優しく微笑む。
「お前は十分役に立っている。適材適所ってやつだ。桜木は任せろ」
「……はい。でも、先生がきっと」
「式典に参加しているんだろ? 急いだほうが良い……その鳥も見ているんだろ?」
「はい。きっと君島先輩も」
堂本はメラの方に向き、語りかける。
「先に行っているぞ。結月」
そして、佐藤と辻に声を掛け校舎の中に向かっていく。
※すいません、いつもギフトとか超感謝っす。頑張って更新しますので!
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