第130話 モンスターパレード3

 佐藤と辻の二人は見事なコンビネーションで徐々にゴリラを押していたが、なかなか致命的なダメージを与えられないでいた。


「くっそ、上級だって斬れるように成ってるはずなのに。何だこいつ」


 特にゴリラの外皮が硬かった、胸の毛のない部分に刃が当たればそれなりに斬ることが出来たが、ゴリラもそれを知ってか弱点部分をうまくカバーしている。

 お互い決め手のない中、後ろからデュベルの声がした。


「手伝おう」

「お、遅えよおっさん」


 昨日の堂本とのやり取りで、デュベルが天位であることは分かっていた。今この場では何にも代えがたい。ようやく前線に戻ってきた天位に二人もホッとする。


「お前らはそこの獣と戦ってる男を手伝ってやれ」

「これ、一人でやるのか?」

「問題ない」

「分かった、頼む!」


 デュベルは事も無げに言い放つ。実際に先ほどの一人でメレルをカバーしながらの戦いとは違う、ゴリラに集中できれば問題なく対処できると感じていた。

 だが、それを聞いた堂本は良い気はしない。虎の魔物を追い込んでいたが、ここで一気に追い込みをかける。


「その必要は、……無い」


 宙を舞う虎の頭部に追撃の火球を放ちながら堂本がデュベルに答える。ようやく堂本も目の前の魔物をしとめる。その魔物の強さは予想以上で、明らかに上級の強さを持っていた。


「そのゴリラ、手伝うか?」

「無用」


 デュベルは剣を構える。周囲には小さなつむじ風が立ち始める。


「離れてろ」


 つむじ風と言っても一つ一つが小さな竜巻だ。デュベルはその中に水魔法を付け足しグルグルと回す。空気だけの物より、水魔法を足すことで質量を持ち、つむじ風の威力も変わっていく。そのつむじ風がゴリラの動きを阻害し、削る、そして黒剣がやってくる。相手にとってはたまったものじゃなかった。


 ただ、堂本たちもだからと言ってのんびりとデュベルの戦いを見ているわけにはいかない。校舎からはどんどんと魔物が溢れてくる。堂本達だけじゃない。溢れた魔物が次第に街の中に溢れていった。


 戦いながら佐藤と辻がぼやく。


「こんなんで、中には入れるのかよッ!」

「入るしか無いだろ」

「だけどよお、あんなゴリラみたいなのが大量に出てきたら俺達じゃ無理だぞ」

「むう。だけど、ゴリラレベルのはさっき堂本が戦っていたやつくらいじゃないか?」

「そうだけどよ、数が多すぎる」


 次第に街も異常に気がつき始めていた。連邦軍の多くの兵士たちは式典で一般群衆を貴族街に入れているため、そちらの警備に回っていたが、それでも新市街を放置すれば空き巣などの被害が出る。

 新市街の方は州軍がメインで警らをしていた。

 


「ど、どうしたんだ!?」


 通りの向こうで二人の男が魔物と戦っている俺たちを見て叫ぶ。その声にケルティが彼らに危険を告げようとした瞬間だった。建物の上から猿の魔物が飛びつく。不意を突かれた男達は剣を抜くことも出来ずにその生命を刈り取られる。


「何てことを……」


 男達の悲鳴を耳にしケルティが眉を寄せる。そのケルティは元々は魔法士職だ。接近戦では魔物との戦闘は厳しく、堂本達が戦う後ろで魔法を使って援護をしていた。


 そしてすぐ前では仁科の必死の治療が続いていた。ケルティが見る限りメレルの様子はだいぶ落ち着いてきている。傷口も血で汚れては居たが殆どふさがりかけているのも見えた。


「なんとかなりそう?」

「傷口はだいぶふさがりましたが、血は失ってるからでしょうか、意識はまだ」

「そうね、でも呼吸は安定しているわ」

「でも一度安全な所まで連れてったほうがいいですよね」

「……サクラギさんは……?」

「美希は……」


 仁科がケルティの一言に、言葉をつまらせた時だった。一瞬日が陰る。仁科がふと上を向いた時だった。

 大柄な鷲の様な魔物が仁科めがけて急降下してきていた。


「け、ケルティさんっ!」


 仁科はメレルの回復に手が離せない。堂本たちも周りの魔物を食い止めるのに必死になっていた。ケルティが慌てて魔法を放とうとする。


「ピュゥウウウウ」


 襲いかかる鷲の魔物の横から、もう一匹の真っ赤な鳥の魔物も急降下してくる。それを見てケルティの顔が絶望に染まる。


「くっ。もう一匹!」

「あれは……」

「え?」


 しかしそれとは対照的に仁科の顔がぱっと明るくなる。



 後から出てきた真っ赤な鳥の魔物は急降下をしながらも突然に、ぐぐっと火に包まれる。そしてそのまま鷹に体当たりをした。体の大きさは鷲の魔物と比べるとだいぶ小さく、威力としてはそこまであるわけでは無かったが、鷲の魔物はその炎を明らかに嫌がる。羽毛が燃えることで飛行能力の低下を恐れるのだろう。

 仁科達へ向かっていた降下を止め、バサバサと舞い上がる。


「メラッ!」


 そう、その火に包まれた鳥はまさにメラだった。メラは鷲の魔物が空へ舞い上がるのを見るとその炎はすぐに収まり、満足げに仁科の肩に舞い降りる。

 視界の隅にそれを見た堂本達が仁科が鳥に親しげにしているのをみて尋ねる。


「鷹斗、そいつは? 大丈夫なのか?」

「君島先輩の……ペット? です!」

「君島の? まじか」

「ピィイイ!」

「お? おう……」


 メラは仁科の肩でキッと上空を見つめる。鷹の魔物は仁科達の上をグルグルまわりながら様子を見ていたが、面倒だと感じたのか違う獲物を求めて飛び去っていく。


「メラ。ありがとう! 君島先輩と先生は?」

「ピィイイ!」

「……う、うん、分からないけど……来るのか?」


 メラの反応は分からなかったが、君島の意識とメラの意識が繋がっていることは知っていた。


 ――先生が来る。


 仁科の心にも希望が灯る。


 ……


 一方、ゴリラと戦うデュベルも山場を越えていた。

 縦横無尽に動く黒剣に、もはやゴリラは付いていくことが出来ずに居た。必死に魔力を混め外皮で防御をするが、黒剣はその自慢の外皮も少しずつ刃を通していた。


「ゴゥオオオオオオ!」


 配下の猿も既にその数を減らし、ゴリラの声に反応出来るのも残っていなかった。魔物たちもグループのようなものがあるようだ。今は四足の獣の魔物があたりに群れていたが、それらはゴリラの雄叫びには反応しない。

 何とか応じた猿も、デュベルに近づくことも出来ず堂本達が仕留めていく。


「グゥォォォォオオオ」


 追い詰められたゴリラは、最後の力を振り絞りデュベルに攻撃をしかける。攻めに転ずれば隙も生まれる。デュベルは冷静に、表情を変えず黒剣をゴリラの胸に突き立てた。

 突き刺さった黒剣は、つむじ風とともにぐるりと円を描く。


 崩れ落ちるゴリラに背を向けるとデュベルはメレルの様子を確認した。


「ごめんなさい……心配かけました」

「気にするな」

「……ふふふ。珍しい顔ね」

「……気にするな」


 デュベルは、ようやく目を覚ましたメレルに、不器用に微笑んでいた。

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