第129話 モンスターパレード 2
倒れていくメレルを見てデュベルがゴリラに背中を見せた。
メレルに襲い掛かった猿に黒剣を突き立てた時、ゴリラの拳がうなりを上げデュベルに迫る。
「おっさん!」
デュベルたちの戦いに慌てて駆けつけた辻が声を上げながらゴリラの拳の前に出る。そしてそのまま両の手で力いっぱい振るった太刀は、何とかゴリラの拳を止める。
突然の横やりにゴリラが不機嫌そうに唸る。
「ォゥゥゴォォォオオオ!」
「うるせえ!」
身体強化した辻がさらに斬りかかるがゴリラの拳に弾かれる。ゴリラは対象を辻に向け一気に攻撃の手を繰り出す。辻も必死に対応するが二撃三撃と受けるとすぐに防戦一方になる。
「うぉお。おっさん、何してるの!」
デュベルが一人で捌いていた相手だ、なんとかなると思っていた辻は、何も出来ずに追い詰められていくのに焦り、デュベルに声をかける。これでも身体能力はマックスにあげている。
だが、当のデュベルは倒れたメレルを抱きかかえたまま動かない。
堂本達は皆デュベルとメレルに向かって移動していたが、堂本は群がる猿の処理に手一杯になっていた。
「哲!」
「分かってる!」
慌てて佐藤が辻のフォローに回る。佐藤はグーに握った両手にそれぞれ小さめのバリアを発生させた。いろいろ試した結果、拳から50cmぐらいのバリアが一番力が乗る。そのまま横からゴリラに向かって殴りつける。
ゴリラの方は明らかに届かない佐藤のパンチに一瞬警戒するも無視してそのまま辻に拳をむけようとする。
ゴンッ。
力の乗った一撃がゴリラを襲った。首がカクリと折れ、ゴリラは慌てて佐藤の方に向改めて注意を向ける、そこにもう一撃顔面にバリアの塊が直撃した。
ゴンッ。
首が折れながらもゴリラの目はまっすぐに佐藤を見る。佐藤はゾクッっと嫌な予感に襲われ、慌てて前面に分厚くバリアをはる。ゴリラは全身をバネのように引き絞り渾身の一撃を放つ。
!
ゴリラの一撃は佐藤のバリアを……抜け、佐藤に襲いかかる。
「ふざけるなっ!」
ゴリラが佐藤に向けば、自然と辻に隙を見せることになる。辻の魔力量ではゴリラには深い傷を与えられそうもないが、明らかになめられていた。それを良しとしない辻は歯を食いしばり、魔力をひねり出す。
「ウォおおお!」
ガリガリとゴリラの胸を辻の刀が滑る。振り上げた刃は少量の血しぶきをあげた。
佐藤は、バリアと辻の攻撃で勢いを削がれたゴリラのパンチをなんとか避ける。
「よしっ! 少し斬れた!」
「行けるのか? 二人で」
「やるだけやる。だ!」
そしてゴリラは辻も無視できなくなる。堂本の援護を期待したい二人だが、ちらりと確認すると堂本は堂本で新たに出てきた翼の生えた虎のような魔物と戦っていた。
もう二人とも何度も命の綱渡りをするような戦いは経験していた。躊躇することなくゴリラに向かっていく。
……
……
デュベルは倒れ込むメレルをぐっと抱きしめていた。
「はぁ、はぁ……」
「大丈夫か? いま治療薬を――」
「もう……回復薬じゃ無理よ……デュベル、もう貴方は十分に……」
「黙れ!」
デュベルは必死の形相でカバンからポーションを取り出す、それをメレルの口元に持っていく。メレルも逆らうことをせずそれを口にするが、どう見ても命が削られていくのをなんとか押し止めるのがやっとの様だ。
「……くっそ。しっかりしろ」
「ロシュの……所に行くだけ……」
「黙れと言ってる!」
「本当に……貴方はいつも自分勝手で……げほっ」
苦しみながらも呆れたような目を向けるメレルを見つめながら、デュベルは、思いつめたような顔をする。そしてカバンの奥を探り一本の古びた瓶を取り出した。
「それは……」
「アッキャタだ、これで治せない物はない」
「それは……ロシュが飲むべきだった……私じゃない……」
「そ、それは……」
「ふふ……もう、貴方のことを恨んでは居ない……わ」
「いい、しゃべるな、これを飲むんだ」
「……駄目……」
「メレル!」
アッキャダはこの世界での最高の霊薬として知られていた。だが今ではその製法は失伝しており、現在では殆ど残っていない伝説の薬だった。
――六年前、メレルのフィアンセであったロシュフォールが不治の病にかかり、生き残りを賭けてアッキャダを持っていたデュベルとの戦いを受け入れた。
勝てばアッキャダを手に入れ病を治す。負けたら自分の代わりにルーテナという危険な活動をしているメレルを守る。
ロシュフォールにとっては放っておいても自分が死ぬことは分かっていた。愛する婚約者を守るためには、夜嵐と恐れられたデュベルとの戦闘も賭ける価値はあったのだ。
天位となり、挑戦者たちを返り討ちをし続けていた当時のデュベルは、次第に「夜嵐」と恐れられ、戦いを挑まれることも減っていた。もはや命を削る戦闘に中毒になっていたデュベルにとってロシュフォールと戦えることは何にも代えがたい魅力的な提案だった。
勝っても負けてもロシュフォールの為になる戦いではあったが、自分の人生の集大成として当時のデュベルはそれを約束し受け入れた――。
そのロシュフォールが欲したアッキャダを今差し出されたとして、メレルはそれを受け入れることが出来るか。
否だ。
命を賭けたロシュフォールが飲めなかった霊薬を、何もしていない自分が飲むことは受け入れられなかった。
「余計なことを考えるな。俺はそのために居る」
「だから……もう、貴方は…………自分の人生……を」
「俺は……俺は、お前を守るのが人生だ……」
「ふふふ……訳がわからないわ」
「くっそ……」
回復薬でなんとか意識を保っているが、メレルはデュベルに優しく微笑む。デュベルはどうしていいか分からずに必死にアッキャダを飲ませようとする。
「どいてくださいっ!」
「な、何だと!」
と。そこに仁科が走り込む。両腕の袖をまくりメレルのえぐられた傷に手を伸ばそうとする。
「何をする!」
「回復魔法を使います! 一応回復特化した上位精霊の守護を持ってます」
「何? ほ、本当か?」
「こんな時に嘘言いません。全力で回復しますので。その、おじさんは先輩たちを助けて下さい」
「出来るのか?」
「やらなきゃ死んじゃうでしょ!、僕らも。皆。早く」
そう言いながら、仁科はメレルの傷に手を当て回復魔法をかける。傷口が光に覆われゆっくりと治癒が始まっているのを見て、デュベルもようやく警戒を解く。
「良かった、魔力抵抗が少ない。階梯もそんなに上がってないんですね」
「……ありがとう、ルーテナですからね、私は」
「うん、おじさん、そこのゴリラを!」
「わ、分かった。頼む」
デュベルも重い腰を上げる。
ようやくその目には希望が浮かんでいた。
※またまた遅れましたが。どうぞ。
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