第128話 モンスターパレード 1


 建物から舞い上がり上空を埋めた黒い鳥の魔物はそのまま周りに広がりつつも、すぐ真下に居た堂本達に向かって急降下を始めた。それは、あとから追ってきたデュベル達へも同じように向かっていく。


「うおおおお」


 向かってくる鳥を見上げた佐藤が両手広げる。


 ――佐藤哲也はトゥルームという精霊位五位の守護精霊を得ていた。このトゥルームという精霊はいわゆる無属性の魔法の適性を与えてくれる。通常無属性の魔法と言っても実際には属性傾向は存在し、ただその属性を調べたりする術が無いため無属性という枠にいれられる。

 だがこの精霊は上位精霊という事もありフェールラーベンの纏めた精霊位典にも、その属性は判明し、記載されていた。

 


 佐藤はありったけの魔力を両手から注ぎながら障壁を作る。ドコドコと矢のように黒い鳥が突っ込んでくるが、佐藤の作り出す見えない障壁にぶつかり遮られる。更にそこへ後ろから来る鳥が止まれずに突っ込み鳥同士が衝突していく。


 天空神殿の神官達は佐藤の属性を「魔力障壁」と呼んでいたが、佐藤は自分の能力を「バリアー」と呼んでいた。自慢のバリアーで鳥の突撃を止めた佐藤はさすがにほっとしたように息を吐く。


「す……すごい」


 ケルティが上を見てつぶやく。上空が衝突した黒い鳥で暗くなっていた。佐藤は堂本にトドメを頼むと、ドームに向けて堂本が雷撃を放つ。


 ……。


 堂本が生き残った黒い鳥を感電させながらふと横を見ると、巨大な竜巻が黒い鳥を纏めて吹き飛ばしている。後から追ってきたデュベルだった。


 黒い鳥の襲撃を跳ね除けた堂本たちだったが、校舎から漂う嫌な感じは止まらない。デュベルもこのまま建物の中に入っていいのか躊躇しているようだった。


「先輩……中に、桜木が……」

「分かってる……」


 モンスターパレードが起こってるという事は、校舎の中はどんどんと魔物が群れているはずだ。それでも中には桜木が居る。さすがの堂本もその難しさを感じプレッシャーを感じていた。


 ドゴーンという音とともに校舎の正門の扉が弾け飛ぶ。そして中から大型のゴリラの様な魔物が顔を出す。ゆっくりと周りを見渡しながら目の前に居たデュベルに目を留めた。


「ゥゴオオオオォォ!」


 ゴリラの雄叫びが辺りに響き渡る。その雄叫びが呼び水となり、校舎の一階部分のガラスが割られぞろぞろと猿の魔物が飛び出してくる。猿たちはレンガの塀を乗り越え塀の脇に居た堂本たちへも襲いかかる。


 堂本が襲いかかる猿達に雷撃を飛ばすが、数が多すぎる。流石に威力がバラけ、猿の勢いを殺すのがやっとだ。すぐさま刀を抜き対応する。その堂本の隣に辻が近づき、堂本の背中に手を触れる。


「堂本、ブーストをかけるぞ」

「頼む」


 ――辻大慈もまた上位精霊を守護精霊としていた。その名はカルー。その守護を得た者は身体強化系の魔法を得られるという精霊だった。仁科の回復魔法に特化したノットという精霊と同じく、身体強化に特化した性質があり、他の攻撃系の魔法は使えない。かなり近接特化の精霊だった。


 だが、その身体強化の魔法は他人にも付与することが出来る。他人への魔法の付与は、どうしてもその個人の魔法抵抗の性質があるため自分へかけるものと比べれば恩恵は減るが、こういう時は少しでも強化されるのは強い。


「くっそ。速えな。猿めっ!」

「哲! 鷹斗! ケルティをフォローしろっ」

「おう」


 乱戦になる中、ケルティも必死に戦うが猿のスピードに身を守るのに必死だった。それを見て堂本が佐藤と仁科をフォローに回す。

 堂本達三人はレグレスのフォローを得て七階梯まで上げていたが、仁科はそれと比べると一つ少なく六階梯だった。その影響もあり、三人ほどの余裕はない。ケルティの側でお互いカバーをし合う事で何とかしのいでいた。そこに佐藤も加わる。


「堂本、これは埒が明かない。どうする?」

「……建物中にケルティと仁科は厳しいな」

「くっそ、外で待たせるのも危険だぜ」

「ん……」


 チラッと横を見ればデュベルが恐ろしいまでの正確さで一振り一振り魔物を屠って行くのが見える。だが、その目に余裕はない。堂本達の場所からは見えないが、巨大なゴリラの魔物が校舎前に立ち、じっとデュベルの戦いを睨めつけていた。


 ……。


 ……。


「メレル。下がるぞ。……ゲイ・ボルクは諦めろ」

「……なんなのこれ?」

「わからん。だが、この魔物の数。モンスターパレードか? 街中だぞ?」

「モンスターパレード……まさか。そんなっ」


 デュベルは戦いながらもジリっと後ずさりしていく。ゴリラの魔物はデュベルから目を離さずにジリっと前に踏み出す。デュベルは自分の強さには十分に自信を持っていたが、この猿の集団を纏めていると思われるゴリラの強さは分からない。未知の魔物への警戒感を維持しながら猿の魔物と戦っていた。


 両脇から二匹の猿が襲い掛かる。デュベルは黒剣を煌めかせ一息に切り伏せる。と。その刹那、ゴリラが動く。嫌な顔をしつつもデュベルもそのタイミングを十分に警戒をしていた。

 向かってくるゴリラから視線を外さず、数本の風の刃を牽制に飛ばしながら体勢を整える。


 ゴリラは飛んでくる風の刃を物ともせずに突っ込み腕を振り上げる。後ろにメレルをかばうデュベルは下がることは出来ず、ゴリラの大質量を細身の黒剣で受ける。ゴリラは両手に魔力集中させさらに連打を繰り返す。

 デュベルは拳を受けながら、その魔力の濃さに驚く。


「くっ。剣を受けるか化け物め」


 一方のゴリラも自分よりはるかに体重の少ないデュベルが自分のパンチを弾く姿に驚きを隠せないでいた。


「ゥォォオオオオオ!」


 ゴリラの雄たけびに周りの猿たちが反応する。


「きゃあ!」


 後ろに回った数匹がメレルに襲い掛かる。慌ててデュベルがカバーに入ろうとするがゴリラはそれをさせない。必死につむじ風をメレルの周りに発生させるが一匹の猿がそれをかいくぐる。


「メレル!」


 猿の一撃を受けた血しぶきをあげながらメレルがゆっくり崩れる。





※戦いシーン苦戦しまくり! 予定と違う流れになりそうで必死に戦っております。

と、こんな時間になんとか。遅れましたがどうぞ

 佐藤と辻の特性を全然考えていなかったので悩んで悶絶していましたw


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