第127話 現場へ
堂本たちは、ブルグ・シュテルンベルクへ向かう人の流れに逆らいながら必死に新市街の方に向かっていた。やがて後ろから民衆の歌う歌が聞こえてくる。
「……これは国歌か?」
「そうですね、確か連邦国国歌だったと」
それでも式典が始まる時間だ。多くの人たちはすでにブルグ・シュテルンベルクの前に行っている為、少しづつ人の流れも緩まってきた。エバンスが式典に合わせて動くのかは全く分からなかったが、それでも式典が始まる事で時間的な焦燥感を皆感じていた。
ようやく貴族街と新市街を分けている門にたどり着く。
門から中に入ろうとする人たちを押し分けなんとか目的の方向へ進んで行く。門さえ越えてしまえばあとはそこまで混んでいるわけではなかった。むしろ、朝まで飲んで家で寝ているものや、起きているいるものは貴族街へ行ってしまっているため祭りの前の混み合っていた街と比べてかなり閑散としていた。
新市街に入ると、ケルティが学院がある方へ皆を誘導する。ここまでの過程で学院に魔法陣のための設備がある話は皆に周知してある。一行は小走りに道を進む。
前夜祭の残した傷とでも言うのか、至る所にゴミなどが落ち、街はかなり汚れていた。
五人がメインの大通りを進んでいると前からはメレル達キュレットの一団が歩いてきた。少し後ろにはあのデュベルも付いていた。
そのデュベルはメレルの方に向かってくる堂本等に警戒してスッと前に出てくる。その動きに思わず堂本が足を止める。
「……」
「……」
堂本とデュベルが視線を絡める。
「……何か用か?」
「何もねえよ」
堂本には堂本の、デュベルにはデュベルのプライドが邪魔をし、お互いに視線を外すことができなくなる。それでも一瞬の膠着後、急がねばならない堂本はデュベルを無視して先に進もうとする。
「……また、逃げるのか?」
「こっちは急いでるんだ。少し身綺麗にしたくらいで相手にしてもらえると思うな」
「なっ!」
堂本の辛辣な皮肉にデュベルが答えようとしたその時だった。得も言われぬ嫌な感覚が二人を襲う。二人が思わずその嫌な気配がする方を振り向いた時だった。そちらの方からドーン!と大きな爆発音がした。
「くっ……遅かったか」
「何事だ?」
焦る堂本に、デュベルが尋ねる。堂本はそれにこたえずにメレル達一団を迂回するように走り出した。
置いて行かれたデュベルに、メレルが近づく。
「デュベル。この気配……ゲイ・ボルク?」
「なに? そうか。槍を使ったのか。しかしなぜあいつらが?」
「取り戻して。お願い」
「……くっ。仕方ない」
「皆、先に行ってて」
デュベルとしてもゲイ・ボルクが奪われたことを自分のせいに感じていたところもあったのだろう、慌ててデュベルとメレルも堂本たちを追っていく。取り残された一団はあっけにとられつつもメレルを見送った。
◇◇◇
ケルティは、学院の位置は教わってはいたが初めての街で完全に分かっているわけでもなかったが。だが、嫌な気配は感じる。堂本たちもケルティに道を聞くことなく、嫌な気配のする方に向かって走っていた。
「気を付けろ。やばそうだ!」
すでに皆顔には緊張感をみなぎらせている。やがて、学院と思われる敷地が見えてきた。広いキャンパスというより、都市部の限られたスペースに経っている大学の様に、階数の高めの大きな建物がデンっと建っている。その建物から異様な気配が漂うのを感じていた。
五人の正面には、レンガ造りで囲まれた壁があり、その真ん中に片側だけが開いたままの大きな門があった。そして中から一人の男が出てくるところだった。
その男を見て仁科が叫ぶ。
「あ、あいつ! あいつです! 美希を攫った……」
「あいつ……がか?」
「はい!」
まさに門から出てきた男はナハトだった。ナハトも真正面から学院に向かって走ってくる仁科を見て嫌な顔をする。
建物内ではモンスターパレードの魔法陣が起動している。やがて出てくる魔物達から少しでも遠くに逃げたいナハトは、左右を確認し、左側に逃げようとする。
それを見て、堂本が一気にスピードを上げた。
ナハトも順位自体は高めだったが、魔法師タイプだ。スピードでは堂本に太刀打ちは出来ない。すぐに堂本から逃げ切れないことを悟る。
後ろから仁科の声が飛んだ。
「先輩! そいつは雷をっ」
「問題ない」
その余裕を感じさせる堂本の返事に、ナハトのプライドが傷つく。
「問題ない、だと? ちっ 死ねよっ」
追いかけてくる堂本にナハトが振り向きざまに電撃を放つ。堂本は風魔法の要領で空気抵抗を避けるために体を空気の層で覆っていた。その層を更に厚くし、その周りに水で膜を張る。バチバチとほとばしる電撃は堂本を避けるように流れる。
「なっ」
一切のスピードを緩めること無く堂本は既に刀を抜いている。驚愕に目を見開くナハトに向かって更に一歩前に詰め、再び電撃を放とうとした腕に斬りつける。ナハトも慌てて腕をひこうとするが、気がついたときには既に遅い。
血しぶきと共に腕が宙を舞う。
「ぐぅっ」
斬り下ろした堂本は、そのまま返す刀を跳ね上げる。ナハトが必死に後ろに飛ぶが、刃はナハトの脇腹に深く入り込む。切り上げられ更に血しぶきが上がる。……追撃は止まらない。バランスが崩れるナハトに今度は刃の峰で肩口を殴るように振り下ろす。
一瞬だった。仁科達が追いついたときにはナハトは息も絶え絶えに成っていた。
大の字に成って仰向けに倒れているナハトの首筋に、刃をピッタリと当てる。
「桜木はどうした?」
「はぁ、はぁ……サクラ、ギ?」
「美希だ」
「……ああ……ミキは……建物の中だ……はぁ、はぁ」
「無事だろうな」
「がはっ。……知るか……ぺっ」
ナハトは堂本に向かってツバを吐き出すが、それもまた堂本の風魔法に押されて飛び散る。
「……死ぬか」
「くそ……お前が……死ね」
ナハトが最後の力を振り絞り、無事に残る左手を堂本に向ける。堂本は悲しげに眉を寄せると、そのまま自分の左手をナハトの右手に向けた。
「無駄だ」
バチバチとした雷撃がナハトの左手から上がる中、堂本はそこに雷撃をまとった左手を重ねる。堂本の左手からはナハトのそれよりも太い電撃が立つ。
それは生き物のように、ナハトの電撃を飲み込んでいく。
「う、嘘だろ……」
堂本の電撃は、そのままナハトを食い破るように襲いかかった。
「がぁあああ」
電撃を受けたナハトは二度三度と弾けるように痙攣をしたあと動かなくなる。
ギリッ……
堂本自身、対人戦は初めてだった。ましてや人を殺すのも。
襲いかかる慚愧の念を受け入れ目を閉じる。だが、辻や仁科が気づかないくらいの間だ。一瞬後には目を開け、次の行動へ移る。
堂本が顔を上げた時、再び大きな音がしたと思うと窓や扉の中から大量の黒い鳥が舞い上がる。
「なっ……」
黒い鳥はまたたく間にあたりを黒く染め上げた。
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