第124話 式典の朝
キーンコーン。
君島と朝食を食べているとドアのチャイムの音がした。俺は立ち上がろうとする君島に手で制して玄関へ向かう。
一応この国のそれなりの地位の人が使う集合住宅の為、玄関を開けてすぐに部屋があるような間取りでは無い。廊下を小走りに歩いていき玄関のドアを開けた。
「はい」
「あ、シゲト様……え?」
「ん?」
ドアを開けると軍服に身を包んだ若者がそこにいた。しかし玄関を開けた俺を見て、若者は驚いたように固まっていた。
「はい。シゲトですが。どうしましたか?」
「え? あ、はい。申し訳ありません。えっと、今日は式典に出席して頂くということで、お迎えに……」
「あれ? まだ時間はあるよね?」
「は、はい。まだまだ余裕はありますが一応下のエントランスで待たせていただくことをお伝えしようと思いまして。そ、それで式典の説明などがありますので、早めにきていただきたく……三十分後くらいでも宜しいでしょうか」
「ああ、三十分後ね、大丈夫だよ、うん」
「それでは、三十分後に下でよろしくお願いいたします」
「はい。わざわざありがとう」
「と、とんでもございません。それでは失礼いたします」
若者は微妙に慌てながらお辞儀をして出て行った。
リビングに戻ると何事かと俺の様子をうかがっていた君島に、迎えが来ている話をする。
「それにしてもなんか……挙動不審だったな……」
「だって先生。連邦天位がそんなエプロンして玄関から出てくれば……」
「え? ……な、なるほど、そうか、俺だな」
「ふふふ」
食事を終えると準備をする。ここのところの習慣で朝空を飛んでいたメラも部屋に戻す。
式典に着る制服などは現地で着付けをしてくれるということだった。二人で私服のままエントランスへ降りると、エントランスには他にも迎えと思われる兵士が数人直立不動のまま待機していた。
先程俺たちの部屋に来た兵士がすぐに近寄ってきて、共にブルグ・シュテルンベルクへ向かう。向かいながらも今日の予定などを説明してくれる。
なんとなく、マネージャーというか、俺達の今日の担当なのだろう。
「そう言えば、今日は貴族街も通行自由になるって話でしたよね」
「はい、そうですね。あと……一時間ほどで開放されると思います。本神殿など年にこの日しか入れないのでだいぶ混みますよ」
「ああ、なるほどね。普段は参拝出来ないのか……」
「そうですね、そのために新市街にも神殿が建てられているのですが、庶民の方にはやはり本神殿でお祈りしたい気持ちはあるようです」
まだ朝の時間帯、街は嵐の前の静けさのように人もまばらで、前夜祭で散らかった道を片付ける人達の姿が見える程度だった。
ブルグ・シュテルンベルクは数日前から式典の準備がされており、城の前はかなり広い公園のようになっている。そして城自体は高い土台の上に建っているため、幅の長い10段程の階段があり、その上の高台が正門まで50m程の広いスペースになっている。式典はそこで行われる。
一般の人たちは段の下から見ている感じなのだろう。
俺たちは、式典の最終準備をしている人たちの脇を通り、案内の兵士の先導のもと城の中に入っていった。
◇◇◇
貴族街への門の前はたくさんの人だかりが出来ていた。
堂本達はその人だかりの中で開門の時を待っていた。もしエバンスと対峙した時は戦いにもなる。ビトーは宿で待つことにし、ケルティと共に四人で出向いていた。
「昨夜アレだけ騒いで良くもこんなに集まる」
「そうですね。でも前夜祭で燃え尽きている人たちも多そうですよね」
確かに、宿からここまでの道中ではまだ飲み続けているような団体や、路上で寝ている人たちも居た。周年祭の本番のために早々に切り上げている人も多いのだろう。
ケルティのケイロン魔法学校時代にお世話になった先生が、今ではホジキン連邦の教会のエリア長として働いているという。その人を頼るようだ。
やがて時間が来て、門番が貴族門を開放する。
大声で式典終了後、速やかに再び出ていくことを告げられ流れるように人々が門をくぐって行く。堂本たちも同じ様に進む。
中央の通りを歩いていると左手に大きな神殿が見えてくる。
「なるほど……確かにこっちは歴史を感じる建物だな」
「そうですね、連邦締結前の小国時代からある神殿ですので。建物の大きさ自体は新市街の神殿のほうが大きいのですが、やはりこちらのほうが歴史の重みを感じます」
「神殿に向かう人も多いのだろうな」
「年に一度しか本神殿に入れないので、敬虔な信者の人たちはこのために一年待つものもいるようです」
ケルティの言うように人の流れがそのまま本神殿まで続いていく。神殿でも恒例の事なのか聖職者達が外で人を誘導していく。ケルティは中に入ると横の事務所の方に四人を案内する。
「すいません。グリベル司祭をお願いします」
「グリベル様ですか。今はもしかしたらもうブルグ・シュテルンベルクの方に行ってしまっているかもしれませんが……少々お待ち下さい。えっと貴女は?」
「ケルティと申します。ケイロン魔法学校でお世話になった者です。こちらのキョウヘイ様を紹介したくて」
「キョウヘイ様ですか?」
受付の女性はケルティに紹介された堂本を見る。日本で美男として見られていた堂本はこの世界でも女性からはいい男として見られることが多い。堂本が「こんにちわ」と声をかけると少し顔を赤らめる。
「キョウヘイ様は天現……クレドール様の御加護を得た方ですので。是非先生にと思いまして」
「クレドール様ですか? 分かりましたすぐに連絡をとってみますのでお待ち下さい」
「ありがとう。おねがいします」
教国の連邦国の教会を統括するグリベルは、教国の代表として神殿長とともに式典への出席が予定されていた。その為既にでかけてしまっている恐れもあった。
ケルティはまだ間に合ってくれよと、祈りつつ職員の動くを目で追っていた。
そんな祈りが通じたのか、程なくして式典に出席するための法衣に身をまとったグリベルがやってきた。
「おお。ケルティじゃないか。久しぶりだな」
「先生、お久しぶりでございます」
「すまんな、もう式典に向かわなくてはいけないので時間があまりないのだが。クレドールの守護を得た方を紹介したいと聞いたが……」
「堂本恭平と申します。よろしくお願いいたします」
「おお、貴方が……私はグリベルと申します。もしよろしかったら貴族街への滞在許可を申請いたしますので、式典が終わりましたらまたじっくり――」
「先生。実はキョウヘイさんの紹介は先生を呼び出すための口実でして……」
「ん? どういうことだ?」
「実は――」
これまでの話を手短に説明する。グリベルも天戴の守護を持つ桜木が攫われた情報は知っていた。だが、そこまでの話だとは考えていなかったようで話を聞くうちに顔色を曇らせる。
「いやしかし……ううむ……」
流石にグリベルも頭を抱える。
グリベルはケルティの学生の頃をよく覚えていた。嘘を付くような子でも無く、真面目で誠実な性格だとも認知していた。先日も教義を覆すような事実を目の当たりにしたグリベルには他の司祭と同じようにその話を突っぱねる事が出来なかった。
「分かった……。すぐに転移の受け入れ陣へを確認する。いじられていればすぐに分かりますので」
「ありがとうございます。私たちもご一緒して?」
「いや……しかし、受け入れ陣は我々にとっては神聖な場所。本来は教会関係者しか入っては行けない場所だからな。……キョウヘイさんとケルティ、二人なら……」
「そ、そうですね。分かりました。キョウヘイさんもそれで宜しいですか?」
「仕方ない。辻、佐藤、仁科は待っていてくれ」
「わかった」
だが周りを見ればどんどんと神殿に入ってくる人で聖堂内がごみごみし始めていた。とりあえず三人は神殿の外で待っていることになった。
話が決まると、グリベルが足早に神殿の中に入っていく。途中他の聖職者にも声を掛けられるが、軽く流しながら地下へと堂本達を案内する。
やがて、重厚な扉の部屋の前までやってくる。懐から一本の鍵を出したグリベルがそれを鍵穴に差し込む。
ギィ……。
重さを感じさせる扉が開く。
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