第122話 どこに

 立ち去る堂本達の後ろを眺めていたデュベルにメレルが近づく。


「そんなに強い人と戦いたいの? もう。そんな物欲しそうな目で見ないの」

「……そんなつもりはない」

「デュベル。もう六年よ……。そんな、いつまでも古い約束に縛られなくても良いのよ」

「……なんの事だ?」

「……あの人と、約束したのでしょ? 戦いを受け入れる条件が……」

「お前には関係ない」

「貴方はすぐそうやって……」

「お前はいつものように俺の事など無いものと思え。俺は好きにするだけだ」

「……」


 メレルから話しかけられたこと、そしてその内容に困惑をしながらデュベルは突っぱねるようにメレルから離れていこうとする。そんなデュベルに、メレルがため息をつく。


「話しは終わってないわ」

「なんだ」


 立ち止まり振り返るディベルにメレルが続ける。


「もう……それならそれで……もう少し清潔にしてっ!」

「清潔? 髭は剃ってる」

「……お風呂に入って」

「俺の目が離れる時間は少ないほうが良い」

「私が恥ずかしいの!」

「わっ分かった……なんとかしよう」




 ◇◇◇




 堂本達は、そのまま一度宿に戻り情報を整理する。仁科が連邦軍での話を堂本に伝える。


 宿と言っても、祭りのためにホテルなどは殆ど埋まっていたのだが、冒険者ギルドで、偶然に民泊を募集していた掲示があったため抑えた部屋だ。大部屋の雑魚寝だがほかに宿の空きは期待できない。急いでそこに転がり込んだ感じだ。

 普段は賃貸で貸し出していた部屋のうち開いていた部屋を、オーナーが周年祭で集まる人々に提供している形で、料理などは持ち込みや自分たちで作らなければならない。


 適当な食材を前に、ビトーが宿屋経営者という事で皆の料理を用意していた。


「連邦軍の方には伝えました。でも、何故かモンスターパレードを起こすことなどをおおっぴらには出来ないようで、表向きはエバンスの人たちが何かを企んでいるという事で捜査はしてくれるようです」

「そうか、そこは俺達の方も同じか。神殿ではむしろモンスターパレードを人工的に起こせるようなことは言うなと釘を差された」

「言っちゃいけないんですか?」

「教義として、異世界からの扉を開くようなことは神しか出来ないということのようだ。魔物も他の世界からやってくるなども、教会としては受け入れがたい話になるらしい」

「天動説と地動説の話みたいな感じですかね」

「ああ、そうだな。しかしエバンスはルーテナの過激派ということで教会としてはキッチリ対応の方はするといっていた」


 軍も教会も動くというのは良い情報ではあるのだが、問題は桜木だ。仁科としては桜木を無事に取り戻さないとすべてに意味がなくなる。

 当然堂本もそれは分かっている。


 やがてビトーが用意できた食事を運んでくる。食事をしながらも、手に入れた街の地図を眺め、皆で相談する。



「ビトー他に何か言ってなかったか?」

「他に?」


 広い街、知らない街。手に入れた情報も少ない。

 だんだん話が詰まってくる中、佐藤がビトーに聞く。


「うーん」

「何だっていいんだ。ほら奴らの会話とかででも」

「……あの嫌な男が雷が得意だって」

「ああ、仁科と戦った男だろ?」

「そう」

「他に、なんか会話とかでさ」

「その男が、教国のスパイを見つけて殺したって」

「お、おう……」

「どんな組織だって、その心酔者だけで成り立ってるわけじゃないって」

「うーん」


 ビトーの話に佐藤が嫌な顔をする。自分の妹と同じような年ごろの子が、普通に人を殺すような話をしているのを見て、日本との価値観の違いを心苦しく感じていた。

 だが、それを聞いていた堂本は、興味を持ったようにビトーに尋ねる。


「心酔者だけで成り立ってるわけじゃない? ルーテナの話だな?」

「たぶん。だからスパイもいるって」

「その男も、ルーテナに心酔してるわけじゃないのか? ……暴力の使いどころとして雇われでもしたのだろうか」

「分からないけど、1人だけ特別だった」

「特別? ううむ……」


 考え込む堂本を辻や佐藤が黙って見つめる。堂本は学校では剣道部の部長として県大会の個人戦の優勝をするほどの運動神経を持ちながら、勉強の方でも学年一位を争うようなそんな何でもできる男だった。

 行き詰った今、この状況を打開できるのも堂本しかないと知らず知らずのうちに期待してしまう。


 仁科が堂本に尋ねる。


「先輩? あの男が何か?」

「ん? いや、少し引っかかってな……。組織に潜入した教国のスパイを見つけた実績。スパイがもし下手をしていなかったとしたら。その情報がどこからか入ったのじゃないかと」

「……教国とあの男が繋がっていると?」

「そうだ。仁科、確かリュードの街は、神殿が二つの国境を挟んだ形で建っていたよな?」

「そ、そうですね」

「仁科はずっと、国境のゲートで見張っていたんだろ?」

「はい。でも。僕がリュードの街に付いた時にはもう国境を越えていたのかも……」

「それでも、桜木が攫われた話は連邦軍にも入っていてその警戒はしていたんだろ?」

「そう、ですが……そんな事って」

「ディディーも言ってたな――」


――絶対など存在しない。月に嘱があるように。太陽の中にも黒点が存在する。味方が敵で。敵が味方であることも、時として起こりうる――



 ドン! ドン!


 日も沈み、外では周年祭の前夜祭を祝う花火の音がし始めていた。


「もう一度神殿に行くぞ」




※書き上げ即投稿です^^; 

 話の流れは決めてあるのですが、どこからだれから、どう書くか、悩みまくってます。


 カクヨムコンが始まりましたね。とりあえず、僕は代表作「ゴーコン」をエンタメ総合部門で投入してみます! 読者選考通りますように、もしよろしかったらお手に取って読んでみてください。

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