第121話 堂本とデュベル

 しばらくして女性の講演が終わる。だが、終わった後も多くのファンのような人々が会場に残り、まるでアイドルの握手会などのような状態になっていた。


 それを遠巻きに見ながら、人が捌けていくのを待っていると、スタッフのような仲間たちが「今日はこれで終わります」と大声で叫びながら群衆を止め始め、次第に人が散り始める。


「あ、じゃあ、俺ビトーと待ってます」


 そういう仁科とビトーを置いて、堂本達三人が女性に近づいていく。

 だいぶ近づき、辻が声をかけようとした時目の前に、先程居た浮浪者が突然立ちはだかる。


 三人とも冒険者として階梯を7まで上げ、天位になった堂本以外の佐藤と辻も、順位で言えば三桁になりそれなりに自信も付いてきていた。

 だが、その三人にしても浮浪者の接近に全く気が付かなかった。


「な、なんだよ」

「……これ以上近づくな」

「ん? 何だお前は。俺たちはそこの子に用事があるんだよ」

「冒険者風情が何の用だ」

「あ? 冒険者風情? お前だって浮浪者みたいなカッコウでなにいってるんだ。気持ち悪いな」

「何?」

「お前。あの子のストーカーだろ? 他の男が近づくと嫉妬しちゃうんだろ?」

「なっ! きっさま」


 辻の男を馬鹿にしたような口ぶりに、デュベルもカッとする。

 だが、辻の会話を聞いていたのだろう。メレルが声をかける。


「嫉妬? その男が? あり得ないわ」

「ん? いやいや。気を付けたほうが良いぜ。こういう奴が一番危ねえんだ。むっつりで平静そうな顔をしながら、裏では嫌らしいことばかり考えているんだぜ」

「……貴様本当に死にたいようだな」

「止めなさいデュベル」


 色めき立つデュベルを女性が止める。それを見て辻は意外そうな顔をする。


「あれ? ミレー。そいつ知ってるのか?」

「……ミレー?」

「え? あ。いや……違ったのか? 俺たちの知り合いにさ。ミレーって子が居て、お姉さんに凄いそっくりなんだ。……だから、本人かなって声かけようと思ったんだが……ごめん。人違いだったか」

「ミレーの知り合い? ……そう。あなた達も教国の関係者かしら」

「え?」


 ミレーの名前を聞いたメレルはすぐに警戒心を顕にする。それに合わせ、デュベルのねとつくような殺気が辺りに広がる。その殺気に当てられ、辻と佐藤が思わず後ずさりする。

 先程からじっとデュベルを見つめていた堂本が口を開いた。


「いや。俺たちは数ヶ月前に転移して着たんだ。その時に天空神殿でミレーに世話になった」

「なるほど。貴方達転移してきたばかりなのね? ……デュベル、下がりなさい」

「……なぜ?」

「なぜって……彼らは問題ないでしょ? そんなギラギラした殺気を振りまかないで頂戴」

「……」


 メレルの言葉に黙るものの、デュベルの視線もまた堂本に張り付いていた。


「転移してきたばかりにしては、やりそうだな……」

「浮浪者に言われてもいまいち嬉しくないな」


 デュベルも堂本もお互いににらみ合いながら向かい合う。


「……気に入らねえな。その目」

「俺も気になるぜ。お前の匂いがな」

「ちっ……やるのか?」

「……さあな」

「……俺とやって天位を手に入れみるか?」

「いや。その称号はもう間に合ってる」

「ほう……楽しませてくれそうだな」

「そんなサービスはしねえよ」


 にらみ合う堂本とデュベルの間で殺気がぶつかる。流石にメレルが慌てて止めようとする。


「ちょっと! 本気でやめて!」

「ほら、お姫様が止めろと言ってるぜ。良いのか?」

「なに、すぐ終わるさ」


 デュベルはそう言うと手のひらの上にシュルシュルと小さいつむじ風を渦巻かせ、堂本を挑発するように見せつける。それを見た堂本はデュベルを威嚇するように自分の周りににバチバチと放電現象を起こす。

 それを見たデュベルは更に嬉しそうに笑う。


「雷か……久しぶりだな」


 二人を見た佐藤と辻が、もう止められないとばかりに後ろに下がる。


 威嚇のための放電現象にもひるまないデュベルに対し、堂本は放電に混ぜ込む様に体から火を上げる。それでもデュベルは嬉しそうな笑顔は消えない。


「ほう。雷と火? 珍しいな」

「もう少しあるぜ」


 バチンッ!!!


「止めてって言ってるでしょ!」


 ヒートアップする二人の間にメレルが飛び込む。そのままデュベルの頬を張った。

 デュベルは不機嫌そうにメレルを見つめる。


「貴方は私の邪魔をするためにここに居るの?」

「……違う」

「強そうな相手を見つける度に嬉しそうに牙を剥いて……本当に……どうして男って。……どうしてそんななの?」

「……」

「戦えば誰かが傷つく。私達は魔物だけを守ろうとしているわけじゃないのよ? すべての命を大切にしようって……貴方はいつも、私の演説を聞いてるんでしょ? ねえ」

「すまん」

「……」


 メレルの勢いにディベルが黙り込む。堂本も気まずそうに魔法を引き下げる。

 そしてそのままメレルに話しかけた。


「ちなみに……」

「なに?」

「ミレーを知ってるようだが、よく似てるな。姉妹なのか?」

「……そうね。おそらく双子だと思うわ」

「おそらく?」

「教会の孤児院の前に捨てられていたのよ。私達。だから……おそらく。なのよね」

「……そうか」

「それにしても天空神殿って、随分出世したのね、あの子……」

「出世なのか?」

「そうね、聖職者としては上に登る事は名誉だと考えるものよ」

「そうか……」


 実際、天空神殿や、ヴィルブランド教国にあるエンビリオン大聖堂などの「聖地」として扱われている施設へは、それなりに認められた者しか働くことが出来ない。

 ミレーも、天空神殿に居ると言うだけで、聖職者の中ではエリート扱いになる。


「ちなみに、お前らはエバンスとは別の組織なのか?」


 更に続いた堂本の言葉にメレルが露骨に不快感を見せる。


「やめてよ。あんな人達と一緒にするのは」

「ルーテナなんだろ?」

「そうよ、私達もルーテナよ、でもルーテナって言っても考え方のはかなり幅があるのよ。あんな過激な人たちとは全く別と思って頂戴」

「……そうか」


 エバンスには亡くなった婚約者の遺品の槍を盗まれたのだ、メレルとしても全面的に敵対していると言ってもいいだろう。それと同じかと言われれば、当然不快な気分になる。

 それを感じてか堂本もすぐに話しをひっこめる。


「邪魔したな」


 話が終わると堂本達は、その場を後にした。




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