第120話 捜索 2
堂本と辻は新市街にある神殿へ向かっていた。
この神殿は首都制定時に旧市街地を貴族街として整備したために、旧市街地にあった元の大聖堂に一般市民が立ち入れなくなっていた。その為、新たに新市街に建立された神殿だった。
それでも首都の神殿ということでかなりの規模があり、そんな事情を知らない堂本達はこれがこの街の神殿なのだろうと考えていた。
神殿で神民カードを提示するとすぐに中に通される。
やはり、教会関係では天現の守護を得た堂本は特別扱いをされる。
「いやはや。流石天現様の守護を得ただけはあります。七階梯で既に天位でございますか……大天位は確定と言っても良いですね」
「ありがとうございます。実は今日は急ぎのご相談がありまして」
日本に居た頃から人から褒められたりすることには慣れていた堂本は、司祭の甘い言葉も気にすることなく、これまでの経緯を話す。
しかし、話を聞くにつれ、司祭の顔が曇りだす。
「……キョウヘイ様はまだこの世界に来て間もないですから……知らないのかも知れませんが……」
「なんでしょうか?」
「その、魔物が神の術と同じ魔法でこの世界に現れる何ていう話しは……口にしないほうが良いかと……」
「む……」
そこで堂本も思い当たる。ディディーが今の研究を始めたことで異端として教会から除名された話をしていたことに。
堂本も一般的な日本人と同じで、宗教といえば先祖の墓のある寺の檀家であり、それでいて家には神棚もある。典型的な宗教観を持っていた。その為、宗教のシビアな異端への警戒感というものに気が回らないで居た。
「そのエバンスという団体に関してはこちらも把握しております。しかし、そういったモンスターパレードを起こすなんという事はあまり外で吹聴致さないように願いたい」
「しかし……」
「お願いいたします。クレドール様といえば天現でも第一席の精霊。貴方様は私どもの聖フェールラーベンを除けば、この世界の最高の精霊と共に歩む方です。どうか、ご発言には重々お気をつけいただきたい」
「……わかりました」
その司祭の必死の顔に、堂本も事の重大さに気がつく。
――宗教というやつは……。
その難しさに自分の考えの甘さを噛みしめる。
それでも、司祭はエバンスが何かテロ行為のような物を行おうという準備はしているということを受け、教会の方でも出来る限り警戒はすると約束してくれる。
司祭としても、堂本達がこの世界に来たばかりで、一般常識を知らないからこその発言だと考えたようだ。「天空神殿はちゃんと教えていないのか……」そんな事をぼやきながら二人に神の何たるかを語る。
異端な発言を下としても、天現の守護を持つ者を安易に切る事も出来ない。
実際、この教義に関しての問題が今回の事態をややこしくしていた。
賢者などの有識者層では段々と崩れ始めている常識だったが、それを口にすることでの教国から異端扱いされる恐れが非常に強かった。「天位」と同じく「賢者」も教国の認定での名誉職であり、毎月教国から多額の賃金が支払われている。そうして教国はこの世界の知識層を抑えることに成功していた。
連邦の賢者会議でもギャロンヌ・ディ・ディの名が上がったが、それを出すことで教国側の不興を買うことを恐れ、結局表には出ていない。
それを知らない堂本達は、教会に話を持ってきてしまったのだが。
話が終わると司祭に礼を言い神殿を後にする。
「……難しいな」
「ああ。教義なんて俺は分からねえぞ」
「神が介入するまでこの世界は暗黒の呪われた世界で、少なくとも魔物は元々この世界に居て、それを俺たち人間が浄化の役目を担い、この世界で生きることを認められている、か」
「分かりやすいっちゃ分かりやすいけどな……どうする?」
「ううむ……一度広場に戻ってみるか……」
二人が、仁科たちが戻っているかと先程の広場に戻ると何やら人が増えていた。
「現在、ホジキン連邦では、五十年前に失われたデュラム州の領土を取り戻そうと必死に魔物の駆除をしております。しかし、現状を見てみれば、モンスターパレードを生き残ったヴァーヅルより北の取り戻した村々は、殆ど住人が戻っていないと言います。パレードに埋もれた街や村を取り戻したい気持ちはわかります。しかし、本当に今取り戻す必要があるのでしょうか。不必要な奪還は、多くの人間の犠牲者も出ます。魔物の命も無駄に失われることになります。もう一度よく考えてみてください。本当に今、あの地を取り戻す必要があるのでしょうか!」
二人が近づいていくと一人の女性が設置された段の上から演説をしていた。
「おい、堂本あれ……」
「……ミレー?」
「だよな? あれ、なんでこんなところに?」
「しかし、発言を聞いているとルーテナっぽいぞ? 教会の人間がそういう発言をするとは思えないな」
「う~ん。さっきの事もあるしな、他人の空似か?」
二人は目の前で繰り広げられる集会に戸惑いながらも足を止めて聞き入る。
ミレーによく似た女性の前には大勢の人だかりが集まり、女性の話に同調したように声を上げている。二人は遠巻きに集まりを眺めていた。
「……ん?」
少し離れて居ると、辻が同じ様に遠巻きに眺めている浮浪者が居るのに気がつく。
ボサボサの肩まで伸びた長髪に、所々に穴の空いた黒い服を着て、不機嫌な顔で壇上の女性を見ている。そして、周りにもチラチラと目線を動かしている。いかにも怪しい。
「おい、堂本……アイツやばくないか?」
「アイツ? ……ああ、確かに目つきも何か恨みでもありそうだな」
「だよな……」
「だが、今は知らないやつのストーカーに対応している程暇じゃないぞ」
「でもよ、ミレーちゃんだったら知らない人じゃないだろ?」
「本当にミレーなのか?」
「だからさあ、とりあえずこの講演が終わったら声かけてみようぜ」
「……好きにしろ」
その時、広場の反対側からちょうど仁科と佐藤とビトーの三人が堂本たちを見つけ近寄ってくるのに気づく。
ちょうど、連邦軍への報告を終えたのだろう。仁科が堂本に話しかける
「お疲れさまです。連邦軍の方は行ってきました。州軍の方にも行こうと思っていたんですが、それは連邦軍の方で動いてくれると言うので……」
「なるほどな、こっちも教会の方を終えて今さっき、広場に戻ってきたところだ」
「それにしても、随分賑わってるなあ、なんだ? 講演か?」
仁科の後ろに居た佐藤が人の多さをボヤきながら演者の方を見る。
「あれ? ミレーちゃん?」
「やっぱりそう見えるか?」
「ああ、声も喋り方もそっくりだしな……だけど、なんだ? ルーテナ?」
「そうなんだ、聖職者の発言じゃないよな。だから講演が終わったら話しかけようと思っていたんだ」
「まあ、俺達の面倒を色々見てくれたしな、挨拶くらいしようか」
こうして五人は街の隅で女性の講演が終わるのを待っていた。
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