第119話 探索
ホジキン連邦150周年記念式典。
毎年、この日には周年祭が行われているため、国民達はみな「周年祭」と呼んでいるが。今年は150周年ということで国としても力の入り方は違う。
各州都でも祭典は行われ盛り上がっているが、各州の代表なども一同に首都に集まり式典の豪華さは近年まれに見るものだ。
町では前日の午後から前夜祭と称して、十字のメインストリートでは屋台が立ち並び、世界各国から観光客も集まっていた。
「あれ?」
朝食を食べている時、メラを飛ばしていた君島が突然つぶやく。俺は食べ物が傷んだりしていたのかと、慌てて聞く。
「どうした?」
「あ、いえ……なんとなくなんですが……」
「ん?」
「さっき人混みの中に、堂本君がいたような……」
「堂本が?」
「上空を一気に飛んでいるだけなので、一瞬だったんですが……ちょっと今は見つからないです。人が多すぎて」
「ん~。リガーランド共和国って隣国だっけ? これだけの祭りだもんな、来ていてもおかしくないか」
「そうですね」
「でもまあ、ここまで来る要人の護衛できたのかも知れないが、ゆとりが出来ての旅行なら上手く行っているようで安心だな」
「ふふふ、先生からすれば堂本くんたちもまだ生徒なんですね」
「いや……アイツラはあいつらでもう独り立ちしてるだろう。なんとなくだ」
そうでなくても人口の多い街だ。更に周年祭を目当ての人々が集まり町の宿は埋まり、城壁の外では自分たちで魔物の警護を交互にしながら幕を貼り野営をしている者も相当数いるようだ。
そんな中で堂本を探すのはほぼ無理だろう。
なんかの情報で俺が連邦の天位として雇われている情報を聞きつけ、訪ねてきたら会えるように、貴族街の門等に情報を通しておいても良いかも知れない。
……ん。ちょっと待てよ……。
「どうしました?」
俺の顔を見て気になったのだろう。君島が聞いてくる。
「いや。まあ……仁科や桜木は知ってるから良いんだが……」
「?」
「ほら、俺と君島が一緒に……」
「ふふふ。大丈夫ですよ。それに、先生が居なかったら私は今こうして生きているの怪しんですよ? 私の命は。先生の物」
「いやまあ、それは言いすぎだろ?」
「ん~。でも先生」
「なんだ?」
「また君島って呼びましたよ。止めるっていったいたのに」
「お、おお……そうだな」
そう。「ゆず」そう呼ぶようにしているのだが。もう少し慣れないとな。
◇◇◇
「やはり、下水は違うな……」
「でも、条件的にはありそうじゃないか?」
「この世界の下水は川の水を地下に通しているのが多い。と言うことは入り口と出口は開いている。ディディーは魔物の流れが決められるところは使わないと言っていた」
「たしかにそうだが……」
「いや、魔法の力を逃さないように地下を使うというのは合っている気がする。もう一度街の中に戻って考えよう」
「……そうだな」
ディディーの話から堂本は、エバンスがモンスターパレードを人工的に起こす事を画策しているのだと推測していた。ディディーの反応からしてそれが正しいのだろう事は分かるのだが……。
「首都と言うだけある。広するぜ」
「人も多すぎるな……」
周年祭目当ての観光客も多く、街の中はまっすぐに歩くのも難儀するような状態だ。
しばらく考えていた堂本が仁科の方を向く。
「鷹斗」
「は、はい」
「やはり、この規模の街を俺たちだけで調べるのは無理だ。連邦軍に状況を説明して捜査を頼めないか?」
「え? ……この州の連邦軍の人に知り合いは居なくて……」
「だが、連邦の州軍所属だろ? 冒険者の俺たちが行くよりは話が通じるのではないか?」
「そう、ですね」
「佐藤、ビトーと一緒に付き合ってくれ」
「良いぜ。お前らは?」
「……俺は教会に情報を流してみる。天現の守護を持つ俺の話なら無碍にしないだろう」
「なるほどな」
「もし時間があれば州軍の方も頼む」
「良いけど、ホテルに戻るまで合流は出来ないぞ? スマホも無いからな」
「それは仕方ない。一応ここの広場を起点にしよう。何かあればここで。夕方以降はホテルで。それでどうだ?」
「ああ……時間が無いもんな」
その後、仁科と佐藤とビトーの三人が連邦軍の駐屯地に行く。貴族街にある本部でなく、新市街にある駐屯地だ。
三人で訪れると、仁科の州軍の身分証を見せるとすぐに応接室のような部屋に通される。
やがて、一人の細身のメガネを掛けた男が入ってきた。
「連邦軍のアノニムだ。君がタカト君だね。話は聞いている」
「話……とは? 桜木の?」
「サクラギ……ミキさんの事だね。天戴の。そうだ。カプトの街でエバンスに誘拐されたという話だな」
「そ、それじゃあ先生も? あ……重人先生も知ってるんですか?」
「……いや。おそらくそこまでは話が通っていないと思う。周年祭の準備もあるから、そこは州軍と連邦軍で捜査はしている。今は情報としてはピークスから入ったものだけだ」
「ピークスさんは?」
「まったく。あれはディグリー将軍の魔動車の運転をしないといけないのに」
「え……そんな大事な仕事が有ったのに」
「まあ、今は途中で合流してるだろうが……それで、それからどういう話になってるんだ?」
「はい。それが……」
仁科は、途中であった老婆からこの街でモンスターパレードを起こそうとしている話をする。それからその魔法陣を展開する場所として、どこか地下室がある場所が怪しいとも。
「モンスターパレードを人工的に起こすだと? ……ありえんな」
「しかし、それを研究したという老婆が」
「老婆ねえ……名前は聞いているのか?」
「たしか……ディディーと呼ぶように言っていました」
「ディディーねえ……知らな……ディディー?」
「はい……」
「まさか……ギャロンヌ・ディ・ディ……か?」
「え? いや。それはわかりませんが。なんか気の強そうなお婆さんでした」
「ギャロンヌ……くっそっ」
胡散臭そうに聞いていたアノニムが突然立ち上がり、焦ったように額に手を当てて何かをブツブツと呟く。
「いや……あるのか? ……賢者会議に上げるべきか……」
何かを考えていたアノニムが何かを諦めたような顔で仁科の方を向く。
「少し待て……流石に俺ではなんとも……上に問い合わせる」
「は、はい」
そう言うとアノニムは部屋から出ていった。
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