第110話 事情聴取

 メレルさんは被害者なのだが、見てると州軍の人たちはまるで犯罪者を扱うような態度だ。


「お前がキュレットの代表だな。……ふん。森の聖女だったか? 大した名前名乗りやがって」

「わ、私が自ら名乗ってるわけじゃありません」

「ふん、どうだかな。建物の破壊に本当に関係ないのか?」

「だから先程から言っております。私どもは何もやってません」

「やってないのにこんな大掛かりな襲撃など起こるわけがないじゃないか。おおかたルーテナ同士の覇権争いとかがあるんじゃないのか?」

「なっ、なんてことを。私達はあくまでも平和を求めて活動しているんす。そんな、人間同士で争うなんて……」

「どうだろうな、あれだけ死体が転がっていて何を綺麗事を」

「そ、それは……私達の団体とは関係ない人たちの仕業です、それに私の仲間達だって多くが怪我をしているんです」

「知らん。とりあえずお前たちは街の治安を乱したのは確かだ。しばらく勾留させてもらう」


 話を聞いていた俺は思わず口をはさむ。


「すいません、彼女らは襲われただけで、なんの瑕疵も無いかと……」

「え? いや……。ルーテナじゃないですか」

「ルーテナ? 確かにそのエバンスというのもルーテナだと聞いていますが。それにしたって」

「神を悪しき物と認定する連中ですからね。危険な奴らに間違いないです」

「そんな……」


 いや、この世界の人間の大半が「GS」を信奉しているのなら当然の反応なのかも知れない。地球でも多くの人が宗教が原因となり死んでいる。人の心の拠り所となる宗教は、それだけに大事な核となり、それを守るためにはどこまでも残虐になれる。

 

 それでも、あれだけの人を集めていたんだ。市民権が無いわけじゃ無い。それ故に、兵士たちの反応もすこし過剰になるのかも知れない。


 メレルを拘束しようという発言に、チラッと横を見るとディベルが黙ったまま兵士を見つめている。……いや。ちょっとやばいでしょ。元々不機嫌な顔がさらに悪化している。兵士は、それでも強気な態度のままだ。


「ちょっと。ちょっと……このくらいにしましょう!」

「いや、シゲト様。しかしこれは連邦軍じゃなく州軍の管轄ですので……」

「あの、そういうんじゃなく……ここでそんな揉め事を起こすことは得策じゃないと」

「えっと。どういう事ですか?」

「ほら、あまり強硬なことをすると、彼らも態度が固くなります」

「そうですが、私達がそんな弱気で――」


 俺と話していた兵士が、ディベルに気がつく。ジッと睨みつけてくる男に、兵士もムッとする。


「なんだ! その目は!」

「……」

「確か、森の聖女には凄腕の警護が居ると聞いていたがな、お前か?」


 おいおいおい。やばいんだって、その人!

 俺は必死に、ディベルに掴みかかろうとする兵士を止める。


「ちょっ。やめて下さいって!」

「おい! お前もキュレットの一員だなっ! シゲト様。なぜ止めるのです」

「だから、こんな強そうな人怒らせてどうするんですか」

「何を言ってるんですか。連邦天位の貴方が居て――」

「この人が本気出したら、俺でも止めれるかわからないんだよ!」

「……へ?」

「やばいんですって……」


 俺が必死になって止めていると、ディベルがニヤリと笑う。


「シゲト、と言ったか」

「は、はい……」

「謙遜はするな。充分に俺と戦えそうじゃないか」

「いやあ……どうでしょう」


 ディベルの目は完全に戦闘狂の目になっている。あの一瞬の攻防しかやってないが、カートンやゴードンと比べても明らかに強い。感覚的にはレグレスに近い嫌な圧を感じる。


「失礼ですが、もしかして……大天位とかじゃ……?」

「残念ながら大天位には届いていない……3つほどな」

「……やべえっすね」

「あの打ち込みをするお前が言う言葉じゃないさ」


 俺と二人の会話を聞いて、州兵たちもディベルの事にようやく理解を示す。


「13位……黒髪、黒服? ……まさか……夜嵐……」

「嘘……だろ……」


 あれだけ高圧的だった州兵がジリっとディベルから離れる。

 この国の連邦天位の最高位が47位だ。13位のディベルが本気に成れば、誰も止められないという事だ。

 ディベルは、怖気づく兵士たちをみて、再び笑みを浮かべる。


「どうした? 挑戦してみないか? 天位への置き換わりに」

「い、いや……」

「ん? 先程までの威勢はどこへ行った? ルーテナがどうしたと?」


 顔は笑っているが、内心怒りにまみれているんじゃないか。

 ディベルは執拗に兵士たちと目線を合わせようとする。


「やめなさい!」

「……ち」


 見ていたメレルがディベルを止める。やはり、この男を止められるのはメレルしかいないのか。ディベルは不機嫌そうにメレルを見つめるが、何も言い返せない。

 俺にはこの2人の関係が良くわからなかった。


 一気に勢いを失った州兵は、投げやりのように他の犠牲者の人たちに調書を取っていく。メレルとディベルには俺と君島で話を聞く。


「本当に、知らない人たちなんですか?」

「……はい」

「あのカバンに入っているものが、狙われたという事は?」

「それは……たぶんそうかも知れません」

「その、貴女の全てという?」

「はい……」


 俺がそれを聞いても何かわかるかは分からないが……。


「それは、なんですか?」

「……槍です。ゲイ・ボルクという……」

「うーん。ごめんなさい。槍の名前とか良く知らないのですが。高価なものなんですか?」

「え? あ、そうですね。私の、婚約者の遺品ですので……」

「ああ、それは値段を付けられない、ですね」

「……あの、もしかして、転移してきてそんな経ってない方ですか?」

「あ、わかりますか? そうなんです。だからルーテナと言われても実は良くわかってなかったりして」

「なるほど、それでですか……」

「ん? なんか変なこと言いました?」

「いえ。なんとなくです」


 うーん。なんか情報らしい情報は無いか。遺品の槍じゃあプライスレスだし。やっぱりルーテナ同士の諍いなのだろうか。思想を持った人たちは思いが強い分、同じ思想の仲間同士で内ゲバが起こり易いというのは歴史でも証明されている。


 一応二人の泊まってる宿を聞いておく。もし見つかったら連絡先を知っておきたい。横で君島が意味深に視線を送ってくるが、これは連邦軍所属の兵士としての役目だ。心を鬼にして聞く。


「俺は、宿など取ってないぞ」

「……はい?」

「メレルの部屋の前で座ってる」

「……え?」


 ……やっぱりこの人はストーカーなのだろうか。

 当然のようにディベルは応え、当然のようにメレルがそれを聞いていた。




※執筆スピード遅くなり申し訳ないっす。もちょっと頑張らないとですが。大したことでも無いのですが、ちょっと子の入院なども決まったり、しばらくバタバタしそうで申し訳ないっす。出来る限りがんばります。勢いづけば結構進むのですが。一回悩むとなかなか進まなくなってしまって。

 次回は視点変えようかなとも。


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