第111話 共和国へ


 仁科とピークスは、結局共和国の許可が降りるのに時間がかかり、それから三日ほど国境のゲートで待ちぼうけを食らう。ビトーのように一般市民は許可が要らないために出入りは自由になるので追加の申請が要らないのは助かった。


 その間に、ビトーから聞いた情報を連邦軍に回す。

 情報を専門家が精査し、国内での対応を決めて行くのだろう。仁科とピークスは、このまま共和国内で桜木の足跡を追うつもりだった。


「ピークスさん。国境ってここしかゲートは無いんですよね」

「ん? 他にも共和国へ繋がる街道には国境のゲートは設置してあるよい」

「いや、そうじゃなくて……その、森の中からとか共和国に普通に入れそうじゃないですか?」

「うーん。まあそれをやると神民カードが傷つくからな。普通はやらんわい」

「カードが傷つく?」

「ああ、それと、森じゃセベックは厳しい」

「そう、ですね……」


 おそらく他国へ行く場合、神民カードをチェックされる機会は多くなるのだろう。確か犯罪や何か問題があるとカードの色が変わったりすると聞いたが……。そんな所まで神の目が届か無くてもいいのに。と、仁科はため息をつく。


 ビトーの話によると、丁寧な扱いとは言えないが、そこまで乱暴な扱いではなかったという。桜木も「姫様」の様な呼ばれ方をしており、そこまで殴られたりとかも無いようだ。


 連中の中に居た、ナハトと言う男が仁科に大ダメージを与えた男のようだ。途中追跡をしていた州軍の精鋭達もそのナハト一人にやられたという。

 エバンスの組織員達とも少し違い、かなり自由にやっていたようだ。実力的にも相当順位も高いのだろうと思われた。


 桜木が国境を通過してから三日も経っている。仁科はその間ずっと眠れない夜を過ごす。

 三日目の昼頃、ようやく国境に許可が届いた。


 連邦側の国境の詰め所に、共和国の兵士が許可が出たことを教えてくれる。呼ばれて2人が行くと、一人の女性が迎えてくれた。


「お話は伺っております。共和国のボロック教会に所属しているケルティと申します」

「ん? なんで教会の人間が?」

「エバンスの活動と聞きまして。教会としてもルーテナの中でも特にエバンスは危険視しておりまして」

「なるほどねい」

「連邦軍の方にどこまで捜査に許可を出すかで少し共和国の上層部が揉めていたようでして、私どもが一緒に行動するということで許可を出してもらったんです」

「むう、じゃあ感謝をすればいいのかねい。だがもう奴らが通って三日も経っている、急いで動きたいんだよい」

「分かっております。そこら辺の情報も教会の方で抑えるように指示は出してありますので足手まといにはなりません」

「頼むよい」


 ケルティは、マーティン人の女性だ。強い意志を感じるキリッとした顔で、聖職者と名乗ったもののかなり冒険者よりのアクティブな格好をしていた。


 ヴィルブランド教国としても、唯一神を崇めるだけあってルーテナの存在は目の上のたんこぶとなる。それだけに教会も今回のことに仲介者として介入することを決定したようだ。


 ケルティも急いで国境に来たようで、セベックにまたがっていた。それ故の格好なのだろうが、教会の人間なら国とは関係のない中立な対応をしてくれるのだろうと、ピークスも共和国内での案内を委ねることにした。



 お互い簡単に挨拶をしてすぐに近くの村に向かう。

 道すがら、二人はケルティからこれまでの情報について聞いた。この世界の通信網はウィルブランド教国にしかその技術がないため、全ての通信は教会や神殿を通る。その為すぐにエバンスの動きを教国側が察したのもあるが。各村へ逃亡している魔動車の情報はすでに集め始めていた。

 だが、予想以上に美希を攫った魔動車の情報が無いという。

 おそらく連邦領内でも、道中の道々で休憩し、深夜にそっと村の外周を進むというやり方は同じなのかもしれない。その話をすると、なるほどと、ケルティも納得する。


 最寄りの村へ着くと、すぐにケルティは俺達から聞いた情報を教国の情報網に流す。道中すれ違った行商人や旅人の情報もあればエバンスの道筋を辿れる。


 国境近くのその村はそこまで大きい村でもなく、ドゥードゥルバレーで建築していた様な小さな教会があった。奥へ向かうケルティに仁科が尋ねる。 


「あのすいません。村の小さな教会でも通信はできるんですか?」

「え? ああ。そうですね」

「そういった通信みたいなのは冒険者ギルドでも出来るのですか?」

「いえ、遠距離の通信は今の所我々にしか伝えられていない技術ですので、冒険者ギルドも各国家も、何か遠距離の通信をしたい時は教国のシステムを使います」

「そうなんですか……」

「なにか?」

「えっと……知り合いに連絡を取れるかと、少し思って」

「大丈夫ですが、有料にはなります、1文字あたり――」


 どうやら通信は、音声通話でなくメールのような文字を送るシステムらしい。神の子フェールラーベンが、神民カードのランキング情報などのシステムを作った最に作った技術を利用したものらしいが。


 仁科は紙とペンを渡され、それに送る文字を書くように言われる。そんなに安いものでは無いため、必死に短くわかり易い文章を考えようとする。

 ピークスも興味深げに横からそれを覗く。


「ん。先生に状況をつたえるのなら、ちゃんと俺が連邦軍の経費で送るぜい」

「あ、そうなんですか?」

「一応俺も任務扱いにしてもらわないとだからない」

「そう、ですね……でも、違うんです」

「先生じゃないのかい」

「はい。僕らと一緒にこの世界に来た先輩たちが、この共和国に転移してきているので。連絡取れないかなと」

「ふうむ。なるほどねい。だけどそいつらだって、この世界に転移してきて数ヶ月だろい?」

「そうですが……堂本先輩なら……天現の守護を受けた人なので」

「はい? 天現……だと? お前達、天現と、天戴が一緒に転移してきたのか?」

「は、はい。あ、天戴は二人いました」

「……まじか……何が、起こったんだい……」


 天現も天戴も、とても希少な守護精霊だ。そんな守護を得て転移してくる者などなかなか居ない。そもそも同じ精霊が複数の人間に同時に守護をするなんてことはないため、一世に一人がその守護を得られる。それを一度の集団転移で三人も出ているというのは、考えようによっては異常だった。


 なにかが起こっているのか? ピークスは得体のしれない不安を感る。



 仁科は必死に悩んで、ようやく一枚の手紙を書く。その間にケルティが通信を終わらせて戻ってくる。

 渡された手紙に目を通したケルティが目を見開く。


「なるほどキョウヘイ様と同郷でしたか。これ、を?」

「は、はい。共和国の冒険者ギルドの本部に送って下さい。連絡が取れればと」

「了解しました。それでは少々お待ち下さい」


 やがて、通信を終えたケルティが戻ってくると、再び三人は次の村に向かってセベックを走らせた。



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