第109話 襲撃者たち

「ま、待てっ」


 俺が慌てて立ち上がった時、三人の男が殺気をギラつかせながら黒剣の男に向かって走り寄ってくる。

 その奥でも、複数のフードで顔を覆った男たちが四方から会場のメレルに向かって走って行く。


 ……な、なんだ?


 訳が分からない。男たちは突然魔法を撃ち、演台が弾ける。演台の上にいたメレルは魔法を避け下に飛び降りる。そこにスタッフが駆け寄った。


 突然の事に観客たちはわっと逃げまどい、辺りに恐慌が巻き起こる。そんな中、君島はカバンから短槍を取り出す。この人込みで薙刀は厳しいと判断をしたのだろう。

 俺は何が起こったのか全く理解できなかったが、小太刀をすぐに納刀し、君島の方へ向かう。


 黒剣の男は、瞬く間に襲い掛かる三人を切り捨て、走り出す。すぐに正面には他の男たちが立ちはだかる。


「どけっ!」


 黒剣の男は走るスピードを落とさずそのまま突っ込んでいく。向かい受ける剣士の目は完全に怯んでいたが、その後ろから魔法士が火球が放つ。


 それでも男はスピードをさらに上げ、火球に突っ込んでいく。火球は男に当たることなく弾かれたように軌道を変え、あらぬ方向へ飛んでいく。そのまま一息で剣士の横を通り過ぎ両断し、魔法士に肉薄する。


 ……すごい。


 じゃない! なんなんだ? フードで顔を隠した集団がルーテナの人たちに襲いかかり、黒剣の男がそれを倒しているようにしか見えない。俺は……間違ったのか?


「大丈夫か?」

「はいっ!」


 君島に声をかけると、緊張したような声で答える。君島もとうとう人間に刃を向けている。くっそ。複雑な気持ちになるが、この世界で生きていくなら遅かれ早かれ向き合わないといけない事だ。


 フードを被った男達は明らかにメレルを狙っていた。君島は必死にメレルを守ろうと短槍を振るう。同時に、必死にプラントリングからツタを伸ばし、手傷を負った敵をツタでグルグルに縛り付けていく。


 敵も君島を厄介と判断したのだろう。三人の男が君島に向かう。


 ……コノヤロー。


 俺は力を集中させ、逃げてくる観衆の間を縫って君島を襲う男達を後ろから斬りつける。卑怯もへったくれもない。俺は少しカッとしている自分を意識する。


 俺の参入したことで敵は一気に瓦解していく。傷も浅く、残った男は敵わぬと見て逃げていく。

 今は逃げるものを追っていく場合じゃない。再び黒剣の男に目を向ける。


「カバンを! 取り返してっ!」


 その時、メレルの悲鳴が上がる。


「よし。撤退だッ! 時間を作れっ!」


 一人の男がメレルの物と思われるカバンを片手に、逃げようとするのが見えた。間に他の剣を持った男が入り。追おうとしたメレルが立ち往生をする。黒剣の男はメレルの周りに居る奴らと戦っている為、逃げる男を追えないようだ。

 俺と君島が逃げる男を追いかけようとした時、男の前にフードを被った男がこちらに向けて魔法を放つ。


 ブワァー。


 男から真っ白な煙のようなものが吹き出す。


 ……毒?


 俺は焦るが、前にいる黒剣の男は、魔法で風らしき魔法で防いでいる。ドームのように煙を入れない空間を作り、メレルを囲っていた。

 俺はそれを見てその場で後ろに君島をかばい。見様見真似で必死に風魔法で煙が来ないように押し返す。周りで煙にまかれた人がゲホゲホとむせ返っている。俺は少しづつ煙から逃げるように後ろに下がりながら風を出し続ける。


 ……くっそ。


 煙が晴れる頃には、襲撃してきた奴らはすでに逃げていた。


 ……。


「大丈夫か?」

「はい……ありがとうございます」

「……俺達は勘違いをしていたようだ……」

「むしろ……仲間だったんですね――」


 突然の襲撃に黒剣の男もメレルを守るような動きをしていた。ただそれが、ストーカーの否定には成らないのはわかるが、俺達はフライングをしてしまったらしい。

 謝罪をしないといけない。そう思い、黒剣の男に歩み寄ろうとする。


 パシンッ!


 その時、乾いた音が響く。メレルが怒りに顔を染め、黒剣の男の頬を張る。

 衝撃の瞬間に俺と君島は固まったように歩みを止める。


「取り戻してきてよっ! 知ってるでしょ。あのカバンには……」

「……すまない」

「謝らなくていい! 早く。……槍をっ!」

「……すまない」

「……なんで……貴方は……もう……あっちに行ってよ!」

「……」


 メレルが叫び、男は黙ったまま項垂れたままだった。


 わけが分からない。


 今……たった今、黒剣の男に命を守ってもらっていた筈だが。


 ふと、メレルがこっちを見る。

 その目は、濡れていた。


「ご、ごめんなさい……。貴方達……そう、連邦の方なのね」

「え? あ、ああ……すいません」

「何が……かしら? 貴方達には助けてもらったけど、謝られることはないわ」

「その。そこの男の人が、すぐに気がついて駆けつけようとしていたのですが……。邪魔してしまって。きっと、それで、その……カバンも……」

「……邪魔、を? ディベルの? ……貴方が?」

「は、はい。邪魔と言っても……一瞬だとは思うのですが」


 ディベル? 黒剣の男なのだろうか。やはりこの二人は面識が有ったようだ。完全に俺たちの勘違いだ……。

 そのディベルは、俺の方を見て呟く。


「連邦天位だ」

「天位? ……なるほど。それなら……でも、貴方があのカバンを取られた事の言い訳には成らないわ」

「……分かってる」

「すぐに追って頂戴」

「……俺がお前から離れることは……」

「ほんと、勝手なのね! 貴方はいつも……」


 訳が分からないが、もしかしたら俺が邪魔をしなければあのカバンを取られることは無かったのかも知れない。それを思うと気が咎める……。

 目の前でメレルはディベルをにらみつけている。


 俺にはどうしても目の前でミレーさんが悲しんでいるようにも思え、何かしなくてはという気になってしまう。


「その、カバンに何が?」


 再びメレルは俺の方を向く。


「私の……全てが……」

「……え?」


 やばい。なんか重そうな気がする。それ以上踏み込むのを戸惑う。


 その時、ようやく街の兵士たちが集まってくる。広場の奥の方で起こった爆破は陽動の一つだったのではないかと説明をされる。俺たちは君島の捕らえた二人の男を引き渡す。黒剣の男と交わった相手は全て死んでいた。よく考えればよく斬られなかったと、少しゾッとするものがある。


 首都であるこの街でも、街の警察的な仕事は州兵がやっているようだ。それでも俺の噂は聞いているようで、腕章を確認すると速やかに話は進んでくれる。


 どうやら、襲撃犯は「エバンス」というルーテナの組織の一つのようだった。


「ルーテナの中でも、諍いような物があるのですか?」

「それは……。やはり同じルーテナでも考え方が変わるので、諍いが無いわけじゃないですが。エバンスとは接点すら……」




※明日難しいかもです。書けたらアップしますが、だんだん自転車操業に。

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