第79話 参戦

 レグレスは戦いから少し離れた所にジェヌインを止める。


「俺は遠くから見てるから。がんばってね先生」

「え? レグさん???」

「抜刀は禁止ね。ほら、皆待ってるぜ」


 レグレスはなぜか参加するつもりもないようだ。目の前で戦っている状態でそれにかまっている暇もない。俺はジェヌインの背中から飛び降りると皆の方に走っていく。


 戦いはレグレスの言うように人間たちが優勢な感じだ、みると今までに見たことのない人間達が集団の中心になって魔物を追い詰めているようだ。それとカートン達のときと違うのは、魔法士が揃っていることなのだろう。スペルセスやヤーザック、他にも見たことのない女性の魔法士がいる。

 桜木も数個の虫眼鏡を頭上に浮かばせ、手数の多い攻撃で魔物を圧倒しているし、妙にイケメンの双剣を使った男なんて、かなりの余裕もありそうで、そうとうな実力を感じさせる。


 確かに俺の参戦は今更感もあり微妙かもしれない。

 そう思いつつも、俺は刀を抜き、君島の横に付く。


「大丈夫か?」

「はい! 先生もお元気そうで」


 君島も少しは余裕がありそうだ。

 抜刀した状態での斬撃にどの程度魔力が乗るのだろう。少し不安を感じつつも俺も戦列に混じる。


「本当に来おったな」


 形勢も安定してきている。後ろの方でスペルセスがもはや魔法を撃つのを止め俺に話しかけてきた。


「やっぱレグさんが?」

「面白い男だのう」

「すごい人ですよっ!」


 俺は興奮気味に答えながら、戦っていると、妙に視線を感じる。……確かにこんなところで突然現れたら、何者だって思うよな。そんな状況に納得も出来るが、これが済んでから説明をすればいいよなっ。

 流石に居合を使わないと、時間の凝縮もほとんど無い。階梯がかなり上がったとはいえ、俺の階梯アップによる能力の底上げは少なめだ。必死に居合に近い集中が出来ないかと気持ちを刀に乗せていく。

 仁科や君島もいる。1対1の構図にならないのも助かる。俺はなんとか生徒たちと呼吸を合わせハイオークに対応する。



 ◇◇◇



 ハイオーク共をこいつらに押し付けて自分らは逃げようとしていたブライアンだが、仲間たちのミスで逃れるタイミングを逸していた。そうなれば当然必死に魔物たちと戦うことになる。しかしそれが返って良かったかもしれない。このままの勢いだと1人も欠けること無く敵を殲滅してしまう勢いだ。

 ブライアンは、自分達3人の前衛が居なければ、押し切られると目論んで居たが、甘く見すぎていた。背中がゾクゾクするような、ヤバい魔法が飛び交う中、魔物はドンドンとその数を減らしていく。


 ――くっそ。賢者が2人とか。こんな田舎でッ!!!


 ベルガーも自慢の怪力でハイオークを寄せ付けない。後ろからはアムルが余裕を持って魔法を撃つ。流石に夫婦での連携が完璧だ。

 転移したての子どもたちも十分に前衛の役目を果たしていた。その中で、大量のレンズを宙に浮かべ光魔法を多角的に敵に当てる姿が圧巻だった。


 自分の目的は、天位の強奪だった。一癖も二癖もある連中を前に自信が揺らぐ。


 ――ん?


 戦いの中、一頭の騎獣に二人の男がまたがりこっちに向かってくる。何事かと注視していると後ろに乗っていた男が刀を抜き近づいてくる。


「先生!」


 男を見た子どもたちが歓喜の声で迎えている。すぐさまブライアンもそれが、噂の天位だということに気がつく。パペットマザーもチラチラと、男の方を眺めている。


 ――先に天位の実力が見れるのはラッキーだな。


 そう思い、戦いながらも男の様子を覗き見る。だが、おかしい。その男の戦いを見て、皆が違和感を抱く。それはパペットマザーも一緒だった。


 ――あれが、天位……だと???


 確かに太刀筋など洗練された物は感じる。だが、刀に纏わられる魔力もそこまで強さを感じ無ければ、刃速も微妙だ。ハイオークに対しても、他の子供達と連携してなんとか処理しているように思える。

 間違いなく天位の実力無く何かの偶然で置き換わりが行われたとしか見えなかった。

 それだけに、天位の強奪が可能に思える。

 ブライアンは頭の中でひたすら男とサシで戦うための算段を探り始めていた。


 戦いながら、周りの面々は途中から現れた男に意識を取られていた。

 危なげ無く戦っては居たが、特段秀でた強さを感じられない天位に、戸惑いと同時に野心を持つものも居る。

 やがて、ベンガーの大剣が最後のハイオークにとどめを刺す。



 ◇◇◇



 魔物が討伐され、皆がホッとするはずの場面であったが、場には異様な緊張感に包まれる。それもこれも、重人がこの場に居ることに端を発する。

 だが当の本人は抜刀無しで戦えた自分がうれしくて、舞い上がっている。やがて、何か空気のおかしい事に気が付く。


  な、なんだ?


 俺は全身で突き刺さるような視線を味わっていた。11階梯を迎え、こんな俺でもそれなりにベースも上がっているようだ。中級でも上位のハイオークと向かい合ってもなんとか戦える。正眼の構えの状態でも多少の集中は発生していると思うのだが。それでもこれは嬉しい。

 魔力切れをあまり考えずにも、生徒たちと一緒に戦えた。それだけで二週間以上も頑張っていた甲斐があるというものだ。


 だが。


 生徒たちの護衛なのかとも思った知らない冒険者達は、戦いが終わってもその臨戦態勢を収めない。ギラギラの闘志を俺に向けていた。

 知らない冒険者……。 ようやく俺は一つの事に思い当たる。


「彼らは?」


 横に居た君島に尋ねる。


「ブライアンさん……あのエルフのような方は階梯上げにいらっしゃった冒険者で。あちらの夫婦の方は、この先の村が故郷のようで」

「そうか。でもたぶん。俺かな?」

「え?」

「天位が目的だろうね」

「……やっぱり」

「やっぱり?」

「なんとなく、皆そうなのかなって」


 そうか。まあ色々と理由をつけても不自然感は有ったんだろうな。でもやっぱり。レグレスとの階梯上げの日々で自信は付いてきていた。命の駆け引きにもだいぶ麻痺してきてしまっているのもあるだろう。これだけの闘志を向けられてもあまり気にならない自分にすこし驚く。


 ふと視線を感じ、後ろを振り向く。レグレスがあのいつもの「なんでも知っている」そんな笑顔でウィンクをしてくる。


 ……まったく。それでもあの笑顔を見る限り悪い未来は見えていないのだろうが。


「とりあえず確認させてくれ。あんたがシゲトか? 最近天位になった」


 最初に動いたのはエルフのように耳の尖った男だ。君島の言っていたブライアンが彼だろう。


「ああ。シゲトは俺の名前だ。何の因果か天位になってしまったようだ」

「実力以上の名声は荷が重いだろう。どうだ? 少し軽くしてやろう」

「いや。まあこのお陰で連邦軍にも就職できたんだ。少し位重くても我慢するさ」

「ふっ……見させてもらったが。やはり天位を名乗るにはまだ早いんじゃないか? 過ぎた名は、寿命を削ってしまうぜ」

「君の名前は、なんと言ったっけ?」

「ブライアンだ。これから天位になる男だ」

「ふうむ」


 自信満々にブライアンが言い放つ。確かにこの中じゃ抜群にいいセンスをしていた。だが、そんなブライアンの発言に焦ったようにアムルが噛み付く。


「何言ってるんだ若造が! 天位はうちのベンガーが貰うんさ!」

「おいおい。何を言ってるんだ? お前たちはこのままディクス村の様子でも見てくればいいじゃねえか。無駄なことに顔を突っ込んでも良いことねえぞ」

「無駄なこと? えれえボケかますんじゃねえ! みたろう。あんな美味しい天位、見逃してたまるかってんだ」


 美味しい天位とか言われた俺は苦笑いを浮かべるしか出来ない。見渡せば他にも見知らぬ顔もいる。少し地味な感じの冒険者もポツンと一人いるが彼もしらない。そしてスペルセスと一緒にいる金髪の魔法使いも初めて見る顔だ。


 俺の困惑をよそにブライアンとアムルの口論もヒートアップする。




※おはようございます。章の終わりまで、と言っても四話程ですか。お休みなしに更新をして、その後三章の準備という事で一週間ほど休みをもらおうかなと予定しております。

三章かなり未定なところもございますので、近況ノートにでも募集しましたが「こんな話を読みたいなあ」なんて書いてもらえれば、いろいろ参考になりますので♪

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