第78話 合流
帰りも行きと同じ様なスピードで進んでいく。それでも魔物の気配があればレグレスは俺に狩りをさせた。少しでもやっておくと良いと言うことだが。ジェヌインだって1日ずっと全力疾走が出来るわけではない。適度に休憩もさせるし、スピードも早足くらいの負担のないスピードで進む。
何より、大食漢のジェヌインだ。俺が仕留めた魔物をムシャムシャと食べていく。はじめは骨までボギボギと噛み砕く音がキツくて堪らなかったが、最近ようやく慣れてきた。
そして、日が陰り始めると適当な場所で野営をする。
ジェヌインが居るというのもあるのだろう、レグレスは平気で火もおこすし、仕留めた魔物の肉を串に刺して焼いたりもする。たまに近寄ってくる魔物が居れば、俺が斬りに向かう。
焚き火の前で焼きたての肉にかぶりつく。レグレスは魔物の肉を豪快に切り分けて焼くものだから、本当にマンガ肉みたいな塊を渡される。厚みがある分中がだいぶレア感があるが、齧っては焼いて齧っては焼いて、中々楽しめてしまう。
11階梯に到達した時から、レグレスが少し秘密を教えてくれるようになり、そこから色々な話をしてくれるようになった。こんな話神殿で聞かれたら抹殺対象になる恐れすらあるから生徒たちにだっていえやしない。だが俺自身が、元来の知的好奇心に負け質問を繰り返してしまっていた。
「モンスターパレードの原因ってなんなんですか?」
「ん~。次元の歪みで俺たちがこの世界にやってきたよね?」
「そう聞いていますね」
「先生の精霊もそういう歪みでこの世界に来ちゃったって話もあるよね」
「はい……え? 魔物も?」
「うん、俺達みたいな人間的な生物じゃなく、魔物のいる世界でも歪みが起こらない事を保証することは出来ないわけだ」
「だ、だけど神が自分の世界の人間たちを救うために次元の穴をここに繋げてるって」
「うん。そうだね」
「……嘘って事っですか?」
「それを知りたくて色々世界を歩き回っていたんだよね、かなりの間」
「それで、解ったんですか?」
「自分では確信はしてるよ」
「おお」
「おそらく、神は、別の同じ様な存在と。この世界の覇権争いをしている」
「え?」
「ふふふ。仮説だけどね。魔物が勝つか、人間が勝つか」
覇権争い……。言われてみるとこの世界を人間たちと魔物たちで切り取り合っているのは分かる。だけど。そんなことがあるのか? それにそうだとしたら……。
「……じゃあ、僕らは事故じゃなく故意に呼ばれたという事ですか?」
「いや、それは流石に事故だと思う。本当に次元の歪みというのは何らかの原因で起こるというのは嘘じゃないと思うな。俺がこの世界に来たときだって、そんな神のような特別な力が働いた感じはしなかった」
「そういえば、レグレスさんはこの世界の生まれじゃ無いって言ってましたもんね」
「うんうん。割とレアな世界からの転移なんだよ。同郷の友に会ったこともないしね」
「へえ」
そう言えば天空神殿でミレーがそんな事を言っていたかも数百年に一度開く祠もあるとか。でも特別な力を感じられなかったということは、レグレスがやってきた世界は魔法とかが元々あるような世界なのかもしれないな。
「レグレスさんの世界も魔法があったんですか?」
「うん、分かる?」
「神とかの特別な力は感じられなかったと言っていたから」
「そうだねえ。ま、言ってみればあっちの世界で俺は勇者として戦い続けていたしね。それがあったから、転移してきたときには既に戦える素養はあったんだよ」
「勇者?」
「そうそう。結構荒れた世界だったからねえ魔族との戦争も絶えなかったし、物心ついた頃から戦っていたよ」
「この世界とあまり変わらない感じなんですか?」
「そうだねえ、変わらないと言えば変わらないけど……ランキングとか変なシステムはなかったね」
「システムとしてああいうのが存在するって不思議ですよね、階梯だって」
「あ、実は階梯とは呼ばなかったけど、レベルという概念はあったんだよ。うん。この世界の上限の10階梯とは違ってもっと高くまでレベルは上げられるんだけどね」
「へえ。レベルまであったんですね」
「うんうん。ま、今日はもう寝ようか。先生先に寝てよ。時間を見て起こすから」
「あ、はい。お願いします」
こうして、レグレスとの会話も重ねながら俺たちはドゥードゥルバレーに向かって移動を続ける。
道は順調に進んでいく。街や村の周囲は割と魔物が集まりやすいようでジェヌインは少し街道を外れた森の中を進んでいく。森の中を進めば邪魔な木や葉っぱもあるが、ジェヌインはブルドーザーの様に細い木々なんかは、平気でなぎ倒していく。
やがて上り坂を上がりだす。森から外れ草原になっている所に出たとき、登っている丘に見覚えがあることに気がつく。
たしか、この丘の上で煙が見え、更に進んだところでカートン達に遭遇したんだった。ということは、だいぶ街に近づいてきているのか。
ジェヌインは足を止めずに一気に丘を登りきり、そのまま下りになる。
下りになるととたんにスピードが上がる。俺はジェヌインの獣具に必死に掴まる。普段のスピードと違い揺れも大きくなる。振り落とされる恐怖に必死になってしがみついていると、ふと道が平らになった。
……あ、この先は……。
「レグさん。この先の街にイノシシみたいな魔物が集落を作って住んでいたんですよ」
俺はなんとかそれを思い出し、レグレスに注意をする。向かい風とジェヌインの足音で聞こえにくいためどうしても大声になってしまう。
「うん。大丈夫だ。ほとんど出払っていると思うから」
「え? 出払ってる?」
「人間たちと戦っているのさ」
「それって……」
「うん。君の大事な生徒たちも居るからね。でも。それは大丈夫だよ」
大丈夫? 大変なことってコレの事か? いやでも「それは大丈夫」か……なんだ?
訳のわからないままレグレスはジェヌインを駆る。横を見れば村の壁が見えてくる。俺たちは壁を右手にそのまま森の中を進み続ける。そして村の端まで来たとき、すっと手綱を操作する。
ザザッ!
街道まで出たジェヌインはそのまま道をすすむ。
「この先で戦っているが、先生は抜刀術は禁止で戦ってくれよっ」
「居合無しで行けるんですか?」
「もうなんとかなると思うよっ。無茶は出来ないけどね。それより魔力を温存するほうが大事だから」
「魔力を?」
「うん。先生が参加しなくても勝てる戦いにはなってるからっ」
レグレスの話の最中にも先の方でドーンといった破裂音などが聞こえる。魔法なども使っての戦いになっているのだろう。やがて人が入り乱れて戦うのが見えてくる。オレたちの事を見つけた君島が「先生!」と叫ぶのが聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます