第77話 ギャッラルブルー鉱山 2

 ほかの人たちより階梯の上がりやすい体質? をしていると言われるがそれでも階梯が上がればそれなりに次の階梯が上がるまでにかかる時間は増えるらしい。レグレスはまだ上がると言うが、徒労に終わらないかという不安はあった。


 それでも転移して間もないというのもあるのだろう、そこまで階梯が10までだという常識に凝り固まる前という事もあり、レグレスの話を前向きにとらえて頑張ることにする。


 鉱山の入り口は、かなり巨大な間口になっており、数本のトロッコのレールが走っている。トコッロ自体はモンスターパレードの時に蹴散らされており、破壊されたトロッコが散らばっていたりしていた。


「なんでもいっぱい入る鞄があるのに、どうしてトロッコなんて使ったんですかね」

「鉱山とかは大抵そうだね、ほら。ミスリル原石なんて1つでそれなりの値段がするだろ?」

「やっぱり高いんですか」

「高いね、でもそんなの鞄に入れて持ち帰られたら鉱山の管理してる人間としたら困るだろ?」

「なるほど」

「だから鉱山って、鞄類の持ち込みは禁止されていることが多い。トロッコや小型の魔獣を使った荷獣車で掘り出したものを運ぶのがほとんどだな」


 魔法が使える世の中だと、それに対応した問題が出てくるのか。面白いが、そういうのを色々と勉強していかないと騙されたり被害にあったりするかもしれないな。


「今日はこっちに行こうか」


 どういう基準かは分からないが、レグレスの言うように数本ある鉱山の穴を進んでいく。メインの通路にはそれぞれトロッコの線路が付いているので道に迷うことは無い。


「それにしても、ダンジョンみたいですね」

「ん? ダンジョンだよ? ここは」

「あ、そうなんですか」


 馬鹿みたいな感想を言ってしまったと思ったが、ここはすでにダンジョン化しているという。モンスターパレードの発生地点には必ず起こる現象で、パレード発生から数十年から百年ほどで次第にダンジョンとしては不活化していくらしい。

 この鉱山がモンスターパレードの発生源と言われているのもそれがあるからだという。


「じゃあ、ダンジョンの奥に宝とかボスとか居たりするんですか?」

「宝は無いと思うけどなあ。ボスは居るかな?」

「え……大丈夫ですか?」

「僕ら2人なら? って感じかな? でも最深部はまだ早いかなって思っている」

「そ、そうですよね」

「でも、ダンジョンのボスを倒すとドドッと階梯が上がると思うから、あの子たちが強くなったらみんなで挑戦するといいよ」

「は、はあ」


 きっとあの3人はどんどん強くなる。いつか必要な時が来たら来るのかもしれない。


 これもレグレスの仮説らしいが、魔物もこの世界のオリジナルの生物ではなく、他所から詰め込まれた物じゃないかという事だった。人間がスポット的に巻き込まれてこの世界に来るのと、違う形があるのかもしれないと。

 百年ほどでダンジョンが消滅すると聞くと、穴ならそんな期間開いているのはに違和感はあるが、今のように無尽蔵に魔物が湧いている状態を説明するのもなかなか難しい。

 


 3日後。

 突然体が熱く火照りだす。間違いない。階梯が上がった証拠だ。嘘じゃなかったのかと半ば驚きを交えてレグレスを見る。


「うん。上がったんだね」

「それにしても……なんで?」


 スッとレグレスの雰囲気が変わる。微笑みを浮かべた表情はそのままなのに何か迫力というか威圧されるような気分になる。


「俺の守護精霊はね、シグノ……調律する者と言われる精霊なんだ」

「調律?」

「うん、世の中のね。そして特徴として未来視の能力を与えてくれる」

「未来……予知ですか?」

「そうだねえ、予知とはちょっと違うかな。でも似たような物だと思う。予知は確定的な未来は見えないが、俺のは見えるんだ。自由に何でもと言うわけじゃないけどね」

「それで、僕の階梯が10を超えることを?」

「そそ、持ち込みスキルも最高だしね。これは素晴らしい転移者が来たなあって、手伝いに来たんだ」


 手伝いに? 俺は何でも素直に受け入れる程子供でもない。俺を強くすることの理由、見返り、そんなものを考えてしまう。


「この世界には良きものもいれば、悪しきものもいる。今は良きものの荷重を増やしたいんだよ。将来に備えてね。だって先生の人の良さときたら。ふふふ」

「でもそれって、何か大変なことが起こるんですか?」

「起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。それは人が知るべきことじゃないと思ってるんだよね。でもまあ、常に心に備えることは必要だよ」

「でも、そんなんじゃ分からないですよ」

「分からなくて良いんだよ。分からないから人生は楽しめる。そうじゃないかな?」


 レグレスの答えは何か煙に巻かれるようなそんな答えだ。きっと教えてはくれないんだろう事は理解できた。


 ……だが。


「レグさん。神民登録はしていますか?」

「ふふふ、さすがだね。うん、しているよ」

「……ランキングを、教えてもらって良いですか?」

「う~ん。しょうがないかな。誰にも言わないって約束してくれよ」

「は、はい」


 ズバリ聞いてみたが、それを答えてくれるとは当然考えていなかった。レグレスの反応に一瞬たじろぐ。

 笑顔のままレグレスはズボンのすそをたくし上げる。そしてふくらはぎに神民カードの紋があるのを見せてくれる。


「え? なっ、でも……納得は出来ます」

「ふふふ、内緒だよ?」

「……やっぱり偽名だったんですね」

「いや、そのつもりは無いよ。僕が来た世界ではファーストネームに信仰する神から頂いた名前が付くんだ。俺の場合はレグレス。でもこの世界は神はGSだけだろ? 転移してきた時には消えていた。それだけだよ。でも俺はレグレスの名前を捨てたつもりは無いから、今でもそう名乗ってる」

「なるほど……」

「ま、偽名にも丁度いいとは思ってるよ」

「ははは……」


 そこまで話すと、もう良いだろうとレグレスが立ち上がる。


「さて、そろそろ帰らないと。遅れると君の生徒たちが大変なことになる」

「え? それも未来視で?」

「うん。賢者のおっさんにも約束しちゃってるからね。急ぎ気味で帰るよ」

「は、はい」


 鉱山の外出ると、まだまだ外は明るい時間だ。すぐにジェヌインに乗り込むと来た道を戻り始める。まだ僅かに体の火照りを感じながら、目の前で鼻歌を歌いながらジェヌインに揺られるレグレスをボーっと見つめていた。




※週末泊まりで上京などいたしますので、もしかしたら、どこかで数日のお休み頂いちゃうかもしれません。それか、新章始まる前に、一週間程度のお休みを頂くとか?

実は、ほとんど次の章の事考えていなかったり。ちょっとだけイメージがあるだけで。だから、少しさらに苦戦するかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る