第53話 またシド
「実力……を?」
実力というと……やはり強さ的な物を見たいということだろうか。もしかして目の前のパルドミホフと戦ってみせろとか言うんじゃないだろうな? 焦ったようにパルドミホフを見ると俺の心を見透かしたかのようにニヤリと笑う。
「大丈夫ですよ。ちょうどここらへんには魔物も多い」
「は、はい」
「これから狩りにでも行きましょうか」
「はあ……」
な、なんだ狩りか……ホッと一安心する。が、よく考えれば魔物と戦えということか。何処まで行くのだろう。天位ということで上級を倒せと言われても、そんな奥だと泊りがけになりそうだ……。
「シゲト様は、セベックに乗れますか?」
「セベック?」
「はい、騎獣によく使われる魔獣です」
「ああ、あの角のある」
「ははは、まああれは角ではないんですけどね、そうです」
「えっと、乗ったことは無いですね」
「そうですか……まあ、セベックくらいは乗れるようになったほうが良いでしょう」
「はぁ……」
どうやら騎獣に乗ってさっと奥地のほうに行こうというつもりなのだろうか。地球にいたころも馬なんて乗った事は無い。この世界で階梯が上がった分身体能力的な者は向上している。なんとか成るのかもしれないな。
武器など何も持ってきていない。とりあえず宿舎に道具を取りに行こうと外に出ると、何やら再びあのシドの大声が鳴り響いている。
「ま、まてや。ワシは今まで生きていて……こんな美しい人見たことないんやっ!」
「だ、だからと言って!」
「お前はっ! こんな美人を2人も引き連れおって。恥ずかしいと思わんのか?」
「え? いや……恥ずかしいとは……」
「へへへ。美人だって~」
「美希ちゃん、知らない人の相手をしちゃっ――」
「かぁああ。知らんのか? ホンマにここは田舎やなあ。しゃあない。教えてやろう。我こそは瞬光雷帝こと、シド・バーンズや!」
「……」
「おおー。雷帝!!! 強そうですねー」
「み、美希ちゃん行くよっ」
「ちょちょちょっ! 姉さんちょっと待ってくれーや」
「はっ放してください!」
……頭が痛い。
今度は俺の生徒たちに声をかけているようだ。しかも君島の手を取っている。
イラッ。
思わず俺はシドに駆け寄り、肩をつかむ。
「やめないかっ!」
「せっ先生!」
「な、なんや! ……邪魔しよるな!」
ドン。とシドが俺の胸を押す。
え?
その押しの強さに俺の体が一瞬浮く。
……。
ドシン。
……。
「げほっ! げほっ!」
「先生!」
押すような感じだったが、そんなレベルじゃない。くっそ。胸を殴られたような痛みと共に一瞬呼吸が止まる、尻もちをついてむせこみながら必死に呼吸をしていると君島が血相を変えて近くに来た。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……なん、とか」
それにしてもやはりこいつは、なんて乱暴なん……だ……?
ん?
みると、シドも、周りのやじ馬もあっけにとられて俺のところを見てる。
「おま……ホントに、天位なんか?」
「え?」
「こんなちょっと押したくらいで……嘘やろ?」
ザワザワとした空気が流れる。ああ……そういえばそうだ。俺が天位のカートンを倒した実情について知っている者などいない。低位の精霊の守護を得て、神の光の力もあまり定着していない。そもそもの身体的な能力なんてたかが知れている。
それに対して目の前のこいつは三桁の猛者。そんなものがドンと押せば……当然耐えられるはずがない。周りを見れば、俺の体たらくに州兵たちも戸惑っている。
……このまま?
少し、このままの方が良いのではという気持ちが芽生える。過度な期待をされるより良いかもしれない。実際俺が抜刀できるのは良いところ5回。天位天位と持て囃されて過分なことを求められても困る。
……。
「人のこと押し倒しておいて、ちょっと押したくらいっておかしくないですか?」
え?
横で俺の胸に手を当て回復補助の魔法を流し込みながら、君島が怒気をはらんだ声で問いかける。俺は思わず君島の横顔を見る。
「いや、せやかて、天位が倒れる程の……」
「天位とかそういう問題じゃないんじゃないですか?」
「な、な。こいつが俺の肩を掴んだんやで!」
「それは貴方が私の手を掴んだからです」
「は? それはワシとアンタとの話やろ。こいつは関係――なっ!!!」
君島が黙ったまま右手で俺の左手を持ち上げ、腕輪を見せつける。それと同時に左手の薬指にはまった自分の指輪をシドに見せる。それを見たシドが見事に固まる。
仁科と桜木も、じりっと俺たちの後ろに来て一緒にどうだと言わんばかりにシドを見つめていた。
「くっ……せやかて……いや……」
「また揉め事か?」
その声に、シドが壊れた機械式人形のようにカクカクと視線をずらす。その先には能面のように表情をなくしたパルドミホフが立っていた。
「いえ……その……天位が……」
「テメエは俺の言うことが聞けんのか。このアホンダラ!」
「ち、ちがうんや! ちょっとドツイたらコイツが勝手に尻もち付いたんや! こんなん天位やあらへんで!」
必死に言い募るシドにパルドミホフがツカツカと歩み寄ると耳をつまみグッと持ち上げる。
「い、イタッ!」
「ほんまアホやな。シゲトはんがこの世界に来たのはいつや?」
「す、数週間と……」
「じゃあ階梯はどうなっとると思うん?」
「え? あ……!!!」
「はぁ……。言わんと分からん馬鹿をどう面倒見ると言うんや。せやろ? シゲトはんは特殊条件での能力持ち……素の状態で見るアホなんておらんわ」
「すっすいまへん!」
「それでなくても天位を落とせるんやで。これで階梯が上がったら……わかるか?」
「はい……」
「連邦の宝や。二度とくだらないことしてみろ。膾切りにするからな」
「だッ大丈夫であります!」
これは……そうか。周りの野次馬達の反応を見て気がつく。パルドミホフは周りに聞こえるようにあえて今の話を……。
ようやくシドの耳から手を話すとパルドミホフは「申し訳ございません」と倒れている俺に近寄り手を差し伸べて起こしてくれる。
「ボンクラな弟子を持つと、苦労します」
「ははは……」
やはり弟子……だったのか。
※ホグロフスさんの名前をパルドミホフに変えました。名前の意味はありません音的に適当に作りました^^;
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