第36話 燃える鳥

 狼の魔物に襲われてから、更に警戒を強く進んでいく。

 幸運な事に、それから3日。まだ俺たちは生きていた。街道沿いには定期的に避難小屋が設置されていて、野営としては助かった。避難小屋に魔物が来ないわけじゃない。



「大丈夫か?」

「はい……すいません。また少し……休ませて……」

「気にするな」


 ようやく君島が二度目の階梯アップを迎えたようだ。やはり、実際にとどめを刺している俺と比べ上がり方はゆっくりなのだろう。3段階目の階梯アップは先かと思っていたが俺のほうが先にアップしている。それでもランキングは500万位程度で、上がりの少なさに寂しさを感じていた。


 階梯が上がる時に体調不良で動けなくなる際、流石に道の真ん中でというのは怖い。君島には少し頑張ってもらい森の中に入りそこで草木のカーテンを作ってもらう。


「ありがとう。頑張ったな。よく休め」

「いえ……よろしく……おねがいします……」


 いっぱいいっぱいだったのだろう、遮蔽物を作ると君島は意識を失った。


 これで……君島はもっとランキングが上がるんだろう。薙刀が通るように成れば助かるのだが。特に今、魔物にトドメをさせるのは俺の抜刀だけだ。それでも4階梯になったことで4発は打てるとは思うのだが、球切れのタイミングで魔物に襲われたら厳しい。

 まあ、そうは思っていても上級の魔物が跋扈する地域を50年間取り戻せないということは、上級と戦える人間も少ないというわけで。2階梯くらいでは魔物を斬れるようになるのは難しいだろう。


 ……なんで俺が斬れるんだ?


 持ち越しのスキルがいい感じで相乗効果を出しているのは分かるが、疑問もないわけじゃない。ただ、戸惑いがないわけじゃない。



 色々悩み魔力量の調節もトライはした。結果としては上手く行かなかった。無理やり消費を抑えようとすると、居合を使わないという手もあると言えばある。カリマーさんも言っていたが、正眼の構えからの動きもそれなりに集中は出来ているのだが、この界隈の魔物には使えそうもない。

 おそらくだが、魔力を集中させるというより自分の全ての要素を集中させているような状況のため、魔力が減るということは、他の要素、つまりスピードや力も総じて減ってしまうらしい。さらに動体視力的なものまで落ちるようで、魔物の速さにも対応できない。


 そんなこんなで、俺はひたすら魔力を温存しながら、魔力が全回復しているときにだけ単体の魔物を見つけると攻撃を仕掛けるような感じでやっていた。



 進んでいくと、最初のギャッラブルー以外にも街は有る。といっても、あれだけの大きな街は見かけないため村くらいのイメージなのかもしれない。そしてどこもかなりひどい状態になっていた。

 俺たちはギャッラブルーで街からの脱出に苦労をしたが、そのトラウマが強く残っている。そのため俺達は中までは入らず遠くから伺うのみだ。城壁で囲まれた街は、やはり入ると出口が限定されてしまうため、厳しい。



 今回も、半日近く君島は眠りについていた。俺のようにちょっとした体の火照りで終われば良いのだが、毎回階梯が上がるたびにこの状態になるのかもしれないと思うと少し可愛そうに感じる。


 君島が寝ている間は、時々居合の構えをすることで全体の索敵を行っていた。狼たちと戦った時に気が付いたのだが、面白いものでそうすることで回りの感知能力もけた外れに上がるんだ。

 そんな事を繰り返していると、何やら周囲に変化があらわれる。突如魔物の気配がやってきた。



 まずいな。


 どうする……今の所向こうはこっちに気がついている感じはない。


 ……。


 ……。


 未だに緊張はする。早まる鼓動を感じながら魔物の動向に注視する。一匹だけなのでここで対処も出来るが……どうする。

 いつもは血の匂いなどを警戒して斬ってすぐに場所を移動している。君島が眠っている以上それも出来ない……。


 ん?


 なんだ?


 少しずつ魔物の気配が薄くなっているような気がする。訳が分からない。魔物は一つの処で止まったまま一時間以上動かずにいるようだ……寿命でも迎えた魔物が死んでいく場面なのか。それとも傷ついた魔物でもいるのだろうか……なんとなく気配の薄まり方といい、そういう感じがする。


 パチッ……パチッ……


 ……ん? 火事かっ!?


 魔物の気配が完全に薄らぎ、消えるころ、何やらパチパチと物が燃え始めるような音が聞こえてきた。焦げ臭い匂いもする。……やばい。こんな処で山火事に巻き込まれたら眠っている君島まで巻き込まれてしまう。いや。背負って逃げれば良いのだが、そんな状況で魔物と鉢合わせたらさらに不味い。突然の異変に俺は困惑していた。


 くっそ。


 支えていた君島をそっと木に寄り掛からせ、俺のリュックと君島のカバンから水筒を取り出す。こんな物でも無いよりましか。


 そっと魔物の気配が消えた場所まで行くと、そこには真っ赤な大きな鳥が横たわっていた、その鳥から熱が発せられているようで、周りの木に火が燃え移り始めていた。慌てて水筒の水を掛けるが、こんなものは焼け石に水だ。周りの藪を切ってなるべく鳥に触れないようにしていく。付いた火は必死で踏んで消していく。


 周りの延焼をある程度止めると、今度は土を掘り必死に鳥にかけていく。しかし鳥はどんどんと燃えて炭のようになっていく。周りの木や葉っぱとの距離はだいぶ開けられたが、なかなか鳥の発火が止まらない。


「ええい!」


 もう俺だって階梯が3つ上がっている、素の力だって日本にいたころとはだいぶ違う。少し悩んだが鳥の足先をグッとつかむ。


「あっつ!」


 熱さに歯を食いしばり、そのまま鳥を引きずりながら坂を下る。ちょうどここの街道はだいぶ下の川に近い。俺は一気に坂を下り、その勢いのまま川に向かって鳥を放り投げた。


 ドボン! ジュゥウウウ~。


 なんなんだこいつは。川を見ると流されながらもジュウジュウと煙が立っていた。


 ……。


 そうだ。火事は???


 慌てて坂をよじ登り鳥が燃えていたところに向かう。かなりの熱量で燃えていたはずだが生木などが燃えるには接する時間は短かったのだろう、火はある程度消え、鳥が居たところがジュクジュクと湯気が上がる程度になっていた。


 それでもまた火が付いたら危ないと、足で怪しいところを踏んでいく。すると、何か土の下に硬いものが埋まっているのに気が付いた。


 ……なんだこりゃ?


 掘り出してみると真っ赤な卵が出てきた。昔見たダチョウの卵よりもう少し大きいサイズの卵だ。


 ……これを生んで死んだのか?


 まったく意味が解らない。だが、一応は周りの警戒はし続けていたが、あまり君島の近くから離れたままなのも心配だ。俺は水筒と卵を拾うと、葉っぱのテントに戻った。

 



※一章を10万字でと考えていたのですが、紺投稿で10万字とうたつしてしまいましたw 章は13万字くらいで納められる予定です。楽しんでいただけたら嬉しいです。

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