第27話 道を探す

 夜通し鳴り響く滝の近くで、むしろその騒音が安心感を得られるのか……交代しながらでは有ったが2人とも割とよく寝れたと思う。狭い葉っぱのテントの中で、俺に寄りかかって眠る君島の寝息を聞きながら、昼間の事を少し思い起こす。


 あの風を纏った居合。想像を絶する威力が有ったように思えた。剣撃が飛んでいったのか、衝撃波が飛んでいったのか……滝壺の水が真っ二つになったのを思い出し、その威力はかなりの物だと感じていた。

 あれをちゃんと打てるように成ればより強力な武器になる。問題は、現状魔力を残しておかないと不安で練習などが出来ないということだ。


 それから君島。やはり話のように君島の魔力じゃ薙刀で戦うのは厳しいのだろうか。上級の魔物とか言われても正直何が上級かとかわからない。もしかしたらあのカバとかも中級位の強さだったりするかもしれない。オレたちの知識じゃわからないんだ。

 ただ、だからといってトライさせるほど無謀には成れない。命をBETするようなものだ。BETするなら俺の命だ、確か階梯も2つくらいは割と簡単に上がると言っていたな……。狩れる魔物がいれば狩って上げたほうが後々逃げるに良いかもしれない……。


 ……でも、なんとなく恐怖に慣れ始めてやしないか?


 恐怖は人間の生存本能を司る警報のようなものだ。もちろん恐怖が強すぎて……おれの高所恐怖症のように何も出来なくなるような状態になったらまずいが、無くなることも良くない。恐怖は覚えつつも冷静に行動できることが大事だ。ここから逃げるにはそのバランスが大事なんだろう。



 ふと空が白み始めるのに気がつく。荒れていた天気も今日は晴れそうだ。


 ――ブルル


 滝壺の方で魔物の唸り声が聞こえた。


 テントの葉っぱをそっとかき分け、水を飲むカバの魔物を見つめる。……あれは昨日滝壺にやってきたカバだろうか。慎重に周りを確認するが一匹だけのようだ。


 ……どうする? いけるか? ……ドッドッドッ、と鼓動がテンポを上げていく。立て掛けてあった刀に手を伸ばした時、そっとその手が掴まれた。


「駄目……」


 君島がささやくように呟く。起きていたのか……いや。起こしたのか……。俺が振り返ると、君島は俺がやろうとしたことを気づいていたかのように首を横にふる。俺は悪いことをしようとして見つかったような、そんな気まずい気持ちで「分かってる」とうなずいた。


 寄りかかっていた左の腕に、君島の腕が巻き付く。まるで無茶をしようとする俺を止めるようにギュッと腕にしがみついてくる。


 ……そうだな。俺が失敗して死んだら、また君島が一人になってしまう。


 ……


 ……



 日も完全に出て、昨日と打って変わった青空の下、俺達はようやく出発した。

 

 しばらく歩き、滝から離れて振り返ると、なんとなく街の城壁のようなものが見える。やはり街は山の中腹のあたりにある平地に作られていたようだ。街中に鍛冶場が集まるブロックもあったため、おそらく鉱山でもあったのだろう。

 ただ滝の在る崖の上に街の残骸が見えるには見えたが、実際は街の水路をかなり流されたので1~2kmは離れていると思われる。あの水流だともっとかもしれないが。地形から考えると川から東に向かって歩いていけば道にぶつかりそうだな……。


 俺たちは少し方向を変え、藪をかき分けながら道を探すことにした。


 川の周りは谷のようになっていて少し周りより低い土地になっているようだ。段丘というやつなのだろう。若干山を登るように進んでいく。道なき道を行くため、悩んだ末リュックから小太刀を出し、それをナタのように使いながら進む。きっと爺さんがこんなのを見たらメチャクチャ怒られるんだろうと思うが、仕方ないだろう。

 君島の魔法で、とも思ったがどれだけ進むのかもわからないし、魔力は無駄にするべきじゃない。手作業で出来ることは手作業で行う。

 君島の薙刀もこんなところじゃ邪魔になるので、結局カバンにしまっていた。


 とはいえ、魔物が何処に居るかわからない。少し進むごとにそっと耳を立て、周りで魔物の物音がしないかを確認しながらゆっくりと進む。


「はぁ、はぁ……それにしても人の手の入っていな山ってやつは……」


 大学の友だちの影響で、たまに登山などをやってはいたが、歩くのはちゃんと整備されている山道ばかりなので、こんな藪漕ぎしながらの登山などしたことがない。かなりキツイ。


「君島……大丈夫か?」

「はい、先生が道を開いてくれるので」

「そうか。何か魔物の気配とかしたら教えてくれよ」

「はい」


 モンスターパレードはこの世界の歴史上何度も起こっている現象だ。その理由はきちんとは解明されているわけではなく、その周囲の魔物のボスを怒らせたとか、呪われた遺跡を冒したとか色々と言われているが、このギャッラブルー神殿でのモンスターパレードは過去に類のない規模だという。街1つが壊滅することは何度かあるらしいが、国のこれだけの範囲が壊滅的な打撃を受け、しかも生息する魔物のレベルも上がり、殆ど取り戻せていないというからかなりの規模の災害だろう。


 ここホジキン連邦は、幾つかの小国が他国からの侵略に対抗するために連邦として一つにまとまった国だという。小国は州と名前を変え現在6つの州で一つの国が成り立っている。その為小国時代の名残で各州都に本神殿が設置されており、そのうちの1つデュラム州の州都がギャッラブルーということであった。

 デュラム州の領地は現在では殆ど残っておらず、残されたわずかな街や村に逃げ延びた人々が暫定政府をなんとか維持している状態であるという。



 

「少し考えたんだが、出来れば2人とも階梯を上げられないかってな」

「階梯を、ですか?」


 今朝は君島に止められたが、それでもやはりこの脱出劇をより安全にするには二人とも今よりもっと階梯を上げて強さのベースを上げることが大事だと考えていた。


「今の俺の魔力量だと、居合での抜刀も2発が限界だ。もし先日の街の中で囲まれたときのような状況になるとかなり厳しい。俺だって子供の頃はロールプレーイングゲームはやったんだ。レベル上げの感覚で少しでもレベルを上げることで、安心できないかって」

「……今朝も行こうとしてましたもんね」

「う……少し焦ってはいるな」

「……でも言いたいことはわかります。だけど私じゃここの魔物を倒すことなんて出来ないから……」

「もし……戦うことがあったら、何か攻撃はしてみてくれ。木の魔法でも水の魔法でも、経験値的なものが入るかもしれない」

「そう、ですね。……やってみます」


 実際初めて戦ったあの巨人の時も君島はツタを這わせて戦いには参加している。その後階梯が上がったのは俺だけだったが、もしかしたら経験値的な物は入っているのかもしれない。この世界もアタッカーやタンクやらヒーラーみたいな職業ごとの戦い方があるなら、そうでなくちゃバランスは悪いだろう。

 そういうのが積もればとどめを刺さなくても行ける気はするんだ。


 その後やはりチラホラと魔物の影を見るが、山の斜面での足場が悪い場所での戦いへの不安。それから見通しが悪く一匹なのか判断ができにくく、隠れてやり過ごす事が続く。


 やがて上り坂も終わり、高台の平地に出た。

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