第24話 地下水路 2


「先生。先生?」


 君島に起こされて目を覚ますと、天井からいくつもの光の筋が降りていた。大抵の建物が破壊されているため余計入ってくる光は多い。特に一晩中この暗闇にいたため目も馴染んできている。


「ああ……悪い、だいぶ寝てたか?」

「いえ、でもそろそろ起こした方が良いかなって、大丈夫です?」

「ありがとう、問題ない」


 俺も体を起こし、グッと伸ばす。さすがに少し節々が痛い気がする。立ち上がってさらに体をほぐすと、今日もまた携帯食を少し齧る。女子高生の君島に夜番を頼んで寝るのは少々悩んだが、そんな事を言っていれば永遠に寝れなくなる。それはそれで危険だ。かなり限界が来た時点で君島を起こし交代してもらった。もし眠くなったらまた俺を起こせと。

 それでも結構寝かせてもらえたようだ。


 とりあえず今日は、この水脈沿いに進み、どこまで行けるか見るつもりだ。川は内陸から海まで繋がるのだろう、道が解らないならそういう進み方もありかもしれない。このまま最後までトイレの穴しか無いのなら水脈から出るのは厳しくなるが、予想だと街の外に出て、他の川と合流するはずだ。

 渡された地図に川の筋が書かれている以上人の居る場所に向かう大事な手がかりだ。


 水路は真ん中に水が流れ、周りの壁伝いに少し段差があるためそこを歩いていく。昨日落ちた時に濡れた服は気にならないくらいには乾いていた。


 2人でゆっくりと歩いていく。光が漏れ入ってくるが、水路の水の中までよく見えるわけじゃない。見えない物と言うのはそれだけでそれなりに恐怖心を感じる。おそらく川魚でもいるのだろう。たまにピチャっと跳ねる音にその都度ビクッと身を潜めた。



 ん?


 なんとなくトイレの穴から漏れてくる光が弱まった感じがする。やがて、ポタッポタッとトイレから水が垂れ始めた。


「トイレ……じゃないよな。雨か」

「みたいですね。ここなら濡れないから良かったですね」

「そう……だな」


 その後、雨も少し強くなってきたのかトイレからの水漏れが次第に激しくなってくる。確かにここなら雨に濡れないが……。

 やがて、街の中から抜ける場所に出たのだろうか、水路上に点々とあったトイレの穴が無くなり、先は少し暗くなってくる。俺たちはザックから懐中電灯の魔道具を取り出し、そのまま歩き続ける。


 時間なんてわからない、途中、なんとなくの感覚で壁により掛かるように座って休み、携帯食を再び齧る。今の所、一本で一日は行けるような気もする。いや、せめてそのくらいはカロリー補給出来るとたすかるのだが。


「大丈夫か? 疲れてないか?」

「疲れは、無いわけじゃないですけど。大丈夫です」

「そうか……まあ、無理はするなよ、動けてこそ逃げ延びれるというものだ」

「はい」


 なるべく座って動かないときは懐中電灯の魔道具も消している。電球のように使っていると切れてしまうのかなどわからないが灯りを点けるには点けている間ずっと魔力を流す必要があるため、魔力の節約のためにも無駄には出来ない。

 まあ、俺と違ってそれなりに魔力量のある君島が灯りを担当してくれてはいるが。


「……先生?」

「ん?」

「……なんか水の流れが少し激しくなってきていませんか?」

「……やっぱりそう思うか?」

「……はい」

「少し急ぐか……」


 まだ外は雨が降り続いているのだろうか、そもそも山のほうがどうなっているのかは分からないが、再び電気をつけ、出発の準備をする。水路の水を確認すると水位も少し上がってきている気がする。この歩いている場所まではそれでも1.5m位の高さはあるが……。


 大丈夫だろ? 流石に……。そう自分に言い聞かせ前に進んでいく。

 しばらく歩くと先の方で、ゴーと言う強めの水の流れを感じる音がした。音の場所まで行くと、右に同じような下水の水路が有ったようで2つの水路が合流していた。


 ……あれ……。


 街の配置を考えるとこういった水路が何本も縦に掘られているはずだ。俺たちは左側の壁つたいに歩いている。その為右側の水路との合流は問題ないが……。


 嫌な予感がする。


 それでも今は進むしか無い。更に進んでいくと再び水路同士の合流場所にたどり着く。今度は左側にある水路との合流だった。つまり俺たちの歩いていた左側の足場は合流地点で終わりそれ以上進めなくなる。


 くっそ……まずいな。


 合流地点は他にも右側からの水路も複雑に合流しており、水量も豊富に渦が巻いていた。合流した左側の水路の壁を見れば同じような高さに足場のような段差がある。


「ここから少し左の方を登っていくか?」

「それしか無いですよね」

「雨が止めばおそらく水位は、はじめのようにそんなにじゃ無くなると思うんだ」

「はい」


 ゴゥゴゥと複数の流れが合流する事で、異なる流れが渦を作り、濁流は魔物とも変わらない脅威に感じられる。俺たちは落ちないように壁に張り付きながら合流部分の壁を鋭角に折り返す。合流部分の足場はかなり薄くなっていて、思わず恐怖に身を捩る。

 

 無事に折り返し、水路に沿って少しづつ先に進む、だんだんと足場の広さも出てくる。少し気持ちが緩んだ。


 ガラガラガラッ!


「うぉおおっ!」

「先生っ!」


 突然俺が踏んだ足場の岩が崩れる。古くなり少し脆くなっていたのかもしれない、必死に足場のヘリを掴み落下は免れたが……膝くらいまでが濁流につかってしまう。


「うぐっ」


 流れに持っていかれそうになるのを必死に堪える。君島が必死に俺の腕を掴んで引き上げようとするが、まだそこまで足場が広く取れていないため無理な態勢になっていた……こ、これは無理だ……。


「き、君島……離せ……巻き込まれる」

「嫌ですっ!」

「ちょっと、本当に……まずいって」


 クッソ……流れる水ってこんなにヤバいのか。必死に足をあげて水から離そうとするが水流が俺の足を掴むように離さない。少しずつ水位も上がりつつ在る。


「絶対……離さないでくださいっ!」


 指の力がだんだんと怪しくなってくる。もう……君島の叫びにも応えられそうもない。


「川の先で待ってるから……お前はゆっくり落ち着いてから来れば……」

「嫌!!! 駄目っ!!!」


 君島が叫びながら足場に膝を付き、俺の脇辺りまで深くつかもうとする。


 ガラガラッ!


 その時、更に足場が崩れた。


 それとともに君島の足元の岩まで崩れ。


 2人は濁流に飲まれていった……。

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