第20話 階梯

 1つ目の巨人を倒した後、その音、血の匂いで魔物を寄せ付けることを恐れすぐにその場を離れていく。それでも初めて魔物を倒した事で、2人ともそれなりに興奮しながらも、前向きな気持ちにはなっていた。



 しばらく走ると、妙に体火照ってくる。息も乱れ段々とキツくなってくる。

 俺は先を先導するように走っていたが、とうとう膝を付き息を切らしてしまう。


「はぁ。はぁ。……悪い。体力がついていけて無くて……」

「だ、大丈夫ですか?」


 呼吸を整えながらも周りの警戒を続ける。それにしても情けない。運動なんて大学を卒業して以来まともにしていなかったからな。それにしても……熱い。


「そこの家、あまり壊れていない処……少し休みませんか?」


 俺の様子に心配をしてくれているのだろうか。そう言えばさらに言葉が丁寧になったかもしれない。俺はそれに甘え、近くにあったこじんまりとした建物の中を覗く。


 ……うん。問題は無さそうだ。もう一度周りを見渡し、問題がないことを確認すると建物中に入る。


「奥に、行きますか?」

「どうだろう、あまり奥だと、いざという時に逃げられないかもしれない」

「そう、ですね。じゃあ、そこの陰のところで」

「ああ……」


 建物の中はもともと物が少なかったのかそこまで酷く荒れている感じではなかった。それでも椅子などは見当たらないため、陰になって外から見えないような場所に座り、壁により掛かる。


 君島はザックの中を探ると、手ぬぐいを取り出してそれを握りしめる。何だと思い見ているとすぐに手ぬぐいからポタポタと水が垂れ始めた。それをグッと一度絞ると俺に差し出してくる。俺はそれを受け取りながら聞く。


「……魔法、か?」

「はい、先生、顔がだいぶ火照って居ますので、濡れタオルのほうが良いかと」

「あ、ああ……済まない。木を操る魔法だけじゃないんだな。すごいな」

「水は木の魔法と相性が良いみたいなんです。木程は適正は強くはないのですが、少しなら」

「そうか……ありがとうな」


 ヒンヤリとした濡れタオルで顔を拭う。これはかなり気持ちがいい。俺はつい首筋の汗まで拭く。視線を感じて横を見ると君島がそれを見ていた。


「あ、いや。すまん……オヤジがお店のおしぼりで顔を拭きまくる感じだな……あっ、後で俺のタオル使ってないから渡すよ」

「ふふふ。大丈夫です。気にしないでください」

「そ、そうか……いや、それでも。さすがに……な」


 濡れタオルで一時的に火照りが楽になるが、なかなか静まらない。慣れない世界で風邪でも引いたのだとしたらヤバい。ここから逃げ出すのに体調不良とか、洒落にならない。内心、焦りながらも君島には大丈夫だという顔をする。


「それにしても、熱いな」

「そうですか? でも……あっ」


 突然君島が何かを思い出したような顔をする。


「どうした?」

「えっと。はい。もしかしたら、先生。階梯が上がったんじゃないですか?」

「階梯? ああ、ロールプレーイングゲームのレベルみたいなやつか?」

「そうです、確か階梯が上がる時に人によって反応が違うけど、熱が出たり、目眩がしたりって体調が崩れたりするらしいですよ」

「なるほど……いや、だけど俺は一匹倒しただけだぞ?」

「でも、ここってかなり魔物が強いって言っていたじゃないですか。ゲームでだっていきなり強い魔物を倒せばレベルが幾つも上がったりするじゃないですか。この世界のレベルっていうか、階梯って10までしか無いって言ってましたが、はじめの1つ2つは割と上がりやすいって言っていましたし」

「な、なるほど……そう、なのか?」

「神民カードで見れませんか?」


 君島に言われるまま、腕の神民カードを見るが、名前と数字しか乗ってない……あ、そうかこれは順位か、見てみると頭の数字が違う、順位が上がってるという事か! 俺は少しテンションを上げて数字を数える。


「階梯はわからないけど、順位が上がってるぞ……桁は変わってないが……3000万位まで上がってる! やっぱり階梯が上がったのかもしれない!!」

「やっぱりっ! ……でも3000万位なんですね……それであんな攻撃を出来るなんて」

「え? あ、ああ、俺のは元の世界からの持ち込みのスキルみたいな感じだからな。<剣術>というのだが、この世界で少しアレンジされている感はあるんだ。そういうのは順位には反映しないのかもしれないな」

「よその世界のスキルは基準が付けれないんですね、私たちの<剣術>も役に立てばいいんですが」

「ああ、剣道か……うん、あの足さばきは戦いにはかなり役に立つと思うぞ……ところで君島は何位くらいなんだ?」

「わ、私ですか? ……えっと……900万位くらいです」

「え?……あ、ああ……そうか……なるほど……」


 ……聞かなければよかった。若者の順位など。階梯が上がったのに桁が1つ違う君島に少し複雑な思いを抱いてしまう……。



 それからしばらくすると俺の火照りも収まってくる。少し落ち着けたのもあり2人で今後の予定を相談する。君島も生き残るために思考を前に動かし始めていた。その姿を見るだけで、俺がここにきて良かったと感じる。


「先生、ギリースーツって知っていますか?」

「ぎ、ぎりー? いや、知らないが」

「あの、スマホのゲームでサバイバルゲームみたいなのがあって、それで出てくるんですが」

「うん? 意外だな、君島、ゲームをやるのか?」

「え? あ、……明が……ゲーム好きでよく……」

「あ、ああ……」


 なるほど。余計なことを言ってしまったかもしれない。俺は君島と小日向が付き合っていたなんてことは知らなかったが、小日向が好きなゲームを彼女にもやらせるという話はまあ、普通にありそうだ。


「まあ、小日向の事は今は忘れよう、で、そのなんとかスーツというのは何なんだ?」

「あ、はい。体中に葉っぱみたいなのをくっつけて、その、迷彩服をもっと大げさにした感じの服なんです」

「なるほど……そうか、ツタか、君島の魔法で加工できそうなのか?」

「はい、そういうのとかも作ってみようかなって」

「うん、今は何でも出来ることはやるべきだな、頼む」




 その後、少し時間がかかってしまったが、ポンチョの様なツタの服を2つ作る。君島が作業している横で携帯食のセットを開いてみると、なんて言うかカロリーメイトの様な棒状の食品が7本入っていた。これ一本でどのくらいのカロリーが取れるのだろうか。

 君島にも食事を取るように言い、俺も携帯食を少し齧る、水に関しては君島の水の魔法で、お互いの水筒を満たす。君島に色々頼る感じになってしまい、ちょっとした風を起こせるだけの自分が恥ずかしくなる。


「でも、先生の話だと斬るときに持っている魔力を集中させて使っているんですよね?」

「ん? まあ、カリマーさんの見た感じだとそうらしい」

「十分ですよ。魔力を無駄使いさせないで下さい、大事な時のために取っといてくださいね」

「あ、ああ。そうだな」


 大事な時。


 このまま隠れたまま人里まで行けるなんて夢みたいなことを考えている訳ではない。おそらくまた奴らと戦わないといけない場面は来る。

 その時はまた、しっかりと君島を守れるように。だな。


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