第19話 残された者達


 ――天空神殿


 楠木重人が転移し、静まり返る中、堂本恭兵が小日向明の方を振り向き膝をかがめる。堂本に気が付いた小日向は少しおびえた表情を見せた。堂本の動きに小日向を抑えていた神官が一瞬警戒するが、それに気がついた堂本は「大丈夫です」と手を広げて、何もしないといったしぐさをする。


「これは、いらないだろう?」


 表情も変えず堂本は、小日向の腰に差さっていた刀を抜き取る。そのまま少しだけ刀を抜き、状態を確認すると、満足したように自らの腰に刺した。


「きょ、恭兵???」


 小日向の声に答えず堂本は神官長の方を向く。


「明はどうなります? 俺たちとは一緒には?」

「はい……申し訳ないが別行動になってもらいます」

「……でしょうね」

「彼は危険因子として新大陸の方に送られます。開拓地に。そこでの様子を見て再び問題ないと判断されれば、また一緒に居ることもできるでしょう」

「……どのくらいの期間?」

「最低でも1年は……」

「なるほど……」



「か、開拓地???」


 小日向が神官長の言葉を聞いて顔色を変える。新大陸とはイルミンスール大陸の事だろう事はすぐわかる。自分たちが行くはずだったユグドラシル大陸と違い、まだ人間の生活圏があやふやで危険な場所が多いという。当然命の危険も多い。ここでの講習で皆その話は聞いている。


「ちょっ! ちょっと待ってくれ!!!」


 慌てたように立ち上がろうとするが、小日向は屈強な神官に抑えられ身動きが出来ない。「ど、どけよっ!」激高し、魔法を使おうとするが神官がすっと小日向の首に首輪のような物を付ける、その瞬間、小日向はガクッと力が抜けたように床に張り付いた。


「あぐっ……な、なんだよ……これ……」


 動けなくなった小日向をみて神官達はそのまま立ち上がる。


「恭兵! 助けろっ! 悪いのは結月だろ? なんで俺がっ!!!」

「明……ちょうどよかった」

「な……なに……がだ……?」

「俺も少しお前の扱いを悩んでいたんだ。もう少し大人になれ。自分の感情をコントロールできない奴は、必ず俺の足を引っ張る」

「なっ……」

「辺境でその心をまっすぐに矯正して貰え。そしてまともになって、俺を訪ねてこい」

「な……なんだと? 俺を……見捨てるのか?」

「違うな。お前が自分からハズレたんだ。俺の規格からな」

「ぐぅ……恭平!!!」


 堂本は小日向から視線を外すと、辻大慈と佐藤哲也の方を向く。この2人も堂本、小日向と3年間剣道部で一緒にやってきた仲間だった。しかしすでに2人も小日向の行動にはとてもついていけないと行った感じで、いや。堂本の意向に従うといった感じなのか、小日向には視線を合わせようとしなかった。


「2人とも……初めの計画からだいぶ変わって3人になってしまったが、それでも俺とくるか?」

「ん? 3人? まだ仁科と桜木がいるじゃないか」


 堂本の言葉に辻が何を言っているんだ? と返す。堂本は1年の2人が立っている方に話しかける。


「桜木、行先は変えるんだろ?」


 声を掛けられた桜木美希はビクッと堂本の方を向く。堂本と目が合うとおずおずと首を縦に振った。


「すいません……部長……」

「だが、そこから人を募っても、ギャッラルブルー神殿までついてくる人間なんて集められないんじゃないか?」

「それでも……先生は絶対結月先輩を助けるって言ってました!」

「出来ると思っているのか?」

「……なるべく、近くで待っていたいんです……っ! そうだっ。部長も一緒に――」

「悪いが分の悪い賭けはしない。君島が助かると信じてもいない」

「でも部長はっ! 先生に刀を……」

「あいつは、自分の矜持を貫いた。だからそれに答えただけだ」

「……」

「だがあいつがこの世界の規格で、決して成り上がれないことは分かるだろ?」

「……で、ですが……結月先輩だっていますしっ。」

「ギャッラルブルー神殿のあたりは上級クラスの魔物がゴロゴロいるという。結月の魔力を込めた槍でも中級クラスの魔物を切るのがやっとの状態だった。それがどういうことか解るだろ?」

「……でも……」


 堂本の問い詰めるような言葉に、桜木は目に涙を浮かべて黙り込む。


「部長。俺も……桜木1人じゃ心配だし……申し訳無いっすけど」

「鷹斗君……」


 話を聞いていた仁科鷹斗も、堂本に行先を変えることを告げる。堂本はそれが解っていたかのように、深くため息をつく。


「俺たちは初めの予定通りリガーランド共和国の冒険者ギルドに所属する。出だしの街として魔物の強さもちょうどよい。そして腕を上げればそれに合わせて場所も変えていくつもりだ」

「はい……」

「行先が解らなければギルドで聞け。解るようにしておく。お前たちならいつでも受け入れてやる」

「……わかりました」

「無茶をするなよ」

「はい」



 そして、残された6人はそれぞれが自分の決めた道を歩き始めた。

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