第16話 ギャッラルブルー神殿

 ここが、ギャッラルブルー神殿か? 周りを見れば壁にも穴が空き天井もすでに無くなっている。しかし天井が落ちていたが魔法陣の周りは瓦礫が撤去されていた。

 ……もしかしたら魔物たちに襲われた時に、生き残った者たちが何処からか助けが来るのかもと、ギリギリまで必死に瓦礫をどかしていたのかもしれないな。


「なっ……なんで先生が???」


 声に振り向くと、青白い顔の君島が立っていた。


「君島……大丈夫だ、さあ、人の居るところへ行こう」

「人の居るところって……な、何なの??? ここは何処なの?」


 俺は君島を宥めるように軽く言うが、事実を告げるのがこんなに辛いとは……。

 君島はここが何処かは知らない。しかしパニックになっている様子を見ると薄々感じているのかもしれない。それを告げることはガンの告知のようなものだろうか。俺も言葉にしようとして一瞬詰まる。


 ……俺はグッと君島の目を見つめ、告げた。


「ギャッラブルー神殿だ。50年程前にモンスターパレードで滅びた街だ」


 それを聞いた君島はヒッ! と言葉を失う。


「……噓……でしょ?」

「……事実だ」


 呆然とする君島に俺はなんと声をかけていいかわからなくなる。

 当然君島達もこの世界の説明を聞く中で、こういう事変があったことは聞いているだろう。小日向が石版をいじって、目的地をここにしたことから、それは疑いようもない。


 ここの現状は分からないが、とりあえず物陰にでも隠れて、君島が落ち着くまで待つほうがいいだろう。君島に物陰に隠れるように言うが、だいぶパニックになってしまっている。


「……ど、堂本君は? 神殿の先生たちとかは? 来るんでしょ?」

「……いや……来ない」


 君島の必死の願いにも似た問に、俺は首を横に振ることしか出来なかった。


「!!! だって……先生なんて……単なるモブだって……」

「それは……」

「ギャッラルブルー神殿って……モンスターパレードで生活圏が100キロ近く後退したって話じゃない……100キロよ!」

「頑張ろう」

「頑張るって、どうやって!?」

「なんとしても逃げ切る」

「……無理よ……無理……」

「やってみよう、な。諦める前に」





 俺はかろうじて残っている壁の陰で、君島が落ち着くのを待っていた。こういう時に何もフォローらしきことを言えない自分は本当に朴念仁だなと自嘲する。かといってボーっと待っているわけにもいかない。俺は堂本から渡された刀を腰に挿し、位置などを調整する。


 鯉口を切れば、小太刀と同じように日本で扱っていた刀に近い感覚が得られる。ハバキの抵抗感も問題ない。なんとなく、小太刀と同じ作者なのだろうと感じる。

 ……よし。とばかりに数度刀を抜いては戻しを繰り返し刀の長さの感覚も整えていく。やっぱり小太刀と比べて長さがある分安心感がある。


「何……してるの?」


 少しは落ち着いてきたのだろう、俺が刀をいじってるのを見た君島が聞いてくる。


「ここに来る時に堂本が自分の刀をよこしたんだ。俺が持ってたのは短い小太刀だったからな、気を使ってくれたんだろう」

「堂本君が?」

「ああ、みんなを連れてこれなくて悪いな。だが、出来る限りの事はやるつもりだ。希望を捨てないでくれ」

「……だけど……」


 君島の方を見ると、泣いて少しすっきりしたのだろうか。いや、表情としては諦めに近い感じに思える。少しは希望を持ってくれたのならいいのだが、俺が来たことじゃ希望に繋がらないのだろう。だが話しかけてくれたのを期に、君島の装備や魔法などの事を把握しておこうと質問する。



 君島の武器は短槍だった。最初は刀を選ぼうとしたらしいが、中学生までは地元の老婆が開いていた道場で薙刀をやっていたらしい。そのせいか得られた持ち込みスキルは「剣術」「槍術」の2つ。

 それもあり、もしかしたら長い槍のほうが使えるかもと思ったようだ。ただ、薙刀の様なデザインの長槍が見つからず、短い槍で薙刀の様に薙ぎ払えそうな形のものがあったのでそれを選んだらしい。

 力のない女性ならこの選択肢は有りだろう。槍なら間合いも刀より遠くに取れる。戦闘未経験の女性ならこの方がより危険は少ないかもしれない。


 俺が偉そうなことを言って良いのか分からなかったが、少しでも前向きになればと武器の選択などを褒めていく。


「魔法は、どんなのが使えるんだ? 俺はからっきしでな」

「魔法? ……植物を操れるわ。それが一番適正が高かったの、戦い向きじゃないのよ」

「戦闘向きじゃない? ……いや。でも……俺達はこの世界に来たばかりで階梯とか言うのも全然上がってない。こんなところでいきなり魔法の攻撃でどうこうしようとしても意味が無いだろ?」

「……じゃあ、どうすればいいのよっ!」

「シッ。あまり大声は出さないで。……良いか? 植物を操れるのならツタや雑草で身を隠したり、花の匂いで俺たちの匂いを隠したり出来るかもしれない」

「隠す?」

「そうだ。あくまでも戦うのは最後の手段だ。ひっそりと。魔物に見つからないように。そっと人の居るところを目指す。そう考えれば、良い魔法じゃないのか?」

「魔物に見つからないように……」


 実際俺には魔物がどんな感覚を持っているのかは知らない。物音や、匂い、魔力、何を目印に獲物を探しているのかも。でも、少しでも身を隠せるような魔法であれば、それは有効になりそうだ。



 それから君島を元気づけられるかと思い、カバンから携帯食を1つ取り出すと君島に渡す。


 「桜木が自分の分を分けてくれたんだ」


 それを聞いた君島は、ギュッっと携帯食パックを抱きしめてる。しばらくして何かを決意したかのようにそれをカバンにしまう。君島は肩から下げるタイプのカバンを選んだようだ、そっちも俺のザックと同じように中が広くなっているようだが、間口はザックよりも大きいからもしかして使いやすいのかもしれない。

 俺はそんな君島を横目で見ながらザックに入っていた地図を開いた。


「今は朝方だから、太陽は……あっちだろう。てことは……」


 かなりいい加減かもしれないが太陽の方向を見て、おおよその方角を推測する。

 あくまでも前向きに。あまり不安を見せると君島の生きる希望まで削ることになる。大丈夫だと諭すように笑顔を見せながら計画を練っていく。

 正直地図も2つの大陸が書いてあるような、いわゆる世界地図だ。細かな地形などが分かるわけではない。まっすぐ南へ降りるのが近いのかもしれない。その程度しか読み取れない。


「どうだ? 落ち着いたら動き出そう」


 正直食料だって、桜木と仁科の2人からもらった分が増えた程度だ。あまりゆっくりはしていられない。周りの様子を探りながら、俺たちは建物の出口を探し始めた。

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