第10話 歴史の講義と武器選び
この世界には二つの大陸があるという。厳密には他の大陸が確認されていないという事なのだが。一つが「ユグドラシル大陸」、そしてもう一つが「イルミンスール大陸」と呼ばれている。その中でユグドラシル大陸には5つの国が、イルミンスール大陸には2つの国があるという。
二つの大陸は遠く離れているわけでなく、地峡によって繋がってはいるそうだ。北アメリカと南アメリカのイメージに近いのだろうか。ただ、二つの大陸の位置関係はアメリカのように南北でなく東西であるため、気候的には近い感じはあるのかもしれない。
この世界が色々な世界からの転移者の受け皿として神が利用する前は、この世界の主は魔物達であった。いや。今でも本当は魔物達が主であるのかもしれない。
どちらの大陸も、多くの土地は未だに魔物達の生活圏になっており、人間たちの生活圏はそこまで広いわけじゃないという。その為俺たちが居た世界のように安全な場所ではなく、戦闘技術の習得も必須になっているのだと。
「イルミンスール大陸は、割と新しく開拓された大陸のため初めはユグドラシル大陸へ行くことをお勧めします」
「元々人の生活圏はユグドラシルだったということですか?」
「はい、地表での転移者の祠があるエンビリオン大聖堂もユグドラシル大陸にあります。元々はそこが始まりの地ですので」
「なるほど。……ちなみに、もう例の雇用の声は来ているのですか?」
「はい、特に天現様、天戴様のご加護を頂いた3人はほぼすべての国から打診が入っております」
「そうですか」
きっと俺には声はかかっていない。これまでの流れでなんとなく察する。カリマーもそれを感じたのかなだめるように言う。
「しかしシゲト様にも声はかかると思います。戦力としてでなく異界の知識を持つものとして。特に元々教師ということは情報として伝えてありますので、知識層を求める国は必ずあります」
「ほ、ほんとうですか???」
「はい、ご安心ください」
なるほど、すべての人間が異界からの転移者の関係であれば、転移してくるものの知識というものを求める動きは無いわけは無い。冷静に考えればそうだ。だが、高校教師というものが専門家や、技術者と比べればどこまでこの世界に求められる知識を持っているか。しかも俺の専門は歴史だ……。
実際どの程度のものを求められるのかはわからないが少し不安になる。
この世界は様々な世界からの転移者で形成されているために文化はそれなりに発達しているようだ。魔法というものがあるために、例えば地球の科学技術を魔法と組み合わせたりして文明がなりたっているという。
ここの天空神殿の存在を考えると飛行機の様な技術もあるのだろう。それを尋ねると、あるにはあるのだが、空を飛ぶ魔物という危険な存在があるため、そこまで一般的ではないらしい。
この神殿は、数千年も前に大陸各地に出来た祠を、精霊たちが集めて回ったと言い伝えられているそうだ。ばらけて祠が出来てしまい、人が魔物のいる中に突如放り込まれるという事態が続いていたようで、神という割には仕事が適当だなと感じてしまう。
天空神殿と下界とは、転移陣と呼ばれる魔法陣で下界との行き来をしている。どうやって下まで降りるか不安があったのだが、高所恐怖症の俺としては魔法で一気に行けるなら助かる。転移陣の転移先はこの世界の各国に設置されている本神殿にあり、下界に降りるときは最寄りの本神殿を選ぶ形らしい。
しかし、人間がこの世界で生活圏を広げていると言っても、まだまだ魔物の世界でも在る。本神殿の中には、モンスターパレードと言われる魔物の集団での攻勢により滅ぼされた都市の物もあるらしい。
「シゲト様は、どのような武器を希望なされますか?」
昼食を食べると、武器庫へ連れられる。転移者は下に降りる前に1つ武器を提供してもらえるらしい。選んだ武器でそれに合った戦い方などを教えてもらえるようだ。
武器庫にはずらっと、見たことのあるもの無いもの、様々な武器が並んでいた。
当然、居合をやっていた俺としては日本刀が良いのだが……この世界にそんなものがあるなんて期待はしていなかった。
「これは……小太刀?」
それでも片刃の剣でもあれば御の字と部屋の中を見ていくと、一本の小太刀が立てかけられていた。周りを見ると少し周りに開いているスペースがある。ほかにも刀があったのだろうか。
「やはり……シゲト様もカタナを……。申し訳ありません、通常のサイズのカタナは先にあの子たちが選んでしまい、今は在庫がそれしか……」
「あ、いや。私たちの世界の武器ですので、彼らが選ぶのは当然ですので……そうですか、過去に転移してきた同郷の者がこの武器をこの世界に残したのですね」
「はい、下の世界でもなかなか人気のある作りですが。それなりに作り手を選ぶようで数が多いわけでは無いんです」
「下に行けば手に入れられるんですか?」
「はい。若干相場は上がりますが」
「そうですか。見てみても?」
「どうぞ、手に取ってみてください」
カリマーに言われて俺は小太刀を手にする。小さいながらもグッと手にかかる重さが刀を実感する。鍔に親指をあて、鯉口を軽く切る。ちゃんとハバキまで付いている。すっと刃を抜き目の前に掲げた。
……大したものだ……互の目か。ここまで綺麗な紋様を入れられるのか、この世界は。
若いころから日本刀は当たり前のように扱っていた。生徒もまったくいない無名な流派だったが。それだけに古い伝えを実直に守る祖父から常に真剣での稽古を言い渡され、大学進学で家を離れるまで刀に触れぬ日など無かった。
しばらく刃をチェックして俺はそれを鞘に戻す。戻りの感覚も良い。何度か抜いて収めてを繰り返す。鞘の走りも申し分ない。
小太刀も稽古はしている。
「これを頂いても良いですか?」
「小剣ですがよろしいので? いや。シゲト様を見る限り問題はなさそうですね」
「うーん。そうみえますか?」
「先の子たちは、同じように刀を求めましたが扱いを見ると、カタナがあっているのか少々不安で」
「ああ……でも、彼らの握りなどは刀に合わせたものですので、訓練を続ければ」
「そうですね」
ふむ。知識人という枠で受け入れてもらえるなら戦いなんてしなくても良いだろうし、武器なんてそこまで重要じゃないだろう。と言っても。見知らぬ土地に行くんだ。小太刀でも慣れ親しんだものが腰にあれば気分的にゆとりは出る。
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