第9話 トレーニングの開始


  次の日の朝、遠くの方から鐘の音が聞こえる。

 流石に眠りが浅かったのかすぐに目が覚めた。ベッドから体を起こし窓からそっと外を見ると、少し遠くの方に大きな鐘の下がった島が浮いているのが見えた。何やら人がそこで紐を引っ張っているのでそれで時間を知らせているのだろうか。不思議な光景に窓に近づいていくが、下の方を見れば相変わらず高度感が強いため少しクラッとする。俺は慌てて窓から離れた。


 ……そういえば、朝起きたら食堂に行けと言われていたな。



 突然、世界が変わったのは昨日だ。心と身体をこの世界に調整するという光を浴びたとはいえ、ある程度受け入れている自分に驚く。それに、これからの悩みもある。生徒たちとの距離だ。昨日はなかなか寝付けず色々考えていたのだが、まずはここの教育プログラムのような物で、この世界のことをもっと知ってから判断しようと思う。



 食堂に行くとポツポツと生徒が食事をとっている。小日向はまだ来ていないようだ。俺が入っていくと1年の2人は黙ったまま軽く頭を下げてくれたが、他の連中は無視だ。


 ふう……。

 少し悩んだが食堂では生徒たちを刺激しないように、少し離れて食事を摂る。今日はミレーは居ないようだ。若い男の聖職者が食事を運んでくれた。相変わらず食事は日本から来た俺たちにも違和感のないものだ。少し酸味の強いサラダをポリポリと食べながら生徒の様子をうかがう。


 生徒たちは見たことも聞いたこともない魔法を教わったりと、どちらかと言うとこの世界を楽しんでいるように感じた。「俺も回復使えればよかったのに」そんな会話が聞こえてくる。そういうのを見ていると早く俺も魔法というやつを使ってみたくなる。たしか、生活魔法、というのは使えるだろうと言われたのだが。

 


 食事を終えると、生徒たちは食堂から出ていく。俺はこの後にこの世界の説明などを受ける話になっていたが……。先程の男性が部屋から出ていってしまったので、どうして良いか悩んでいると1人の……女性? いや、長髪なだけで男性なのか。が部屋にやってきた。


「おはようございます。シゲトさま。これからこの世界の特色など説明させていただきますカリマーと申します。宜しくおねがいします」


 む。やはり女性なのだろうか。少し声が……。いや。ジェンダーレスとかいうやつかもしれない。背格好は男性っぽいが......いや。まあ良い。

 その……男性に案内され、1階にある部屋の1つに案内された。狭くもなく広くもなく、だいたい剣道の試合のコートが1つ作れるくらいの広さだろうか。そこに2つ椅子が置いてあり、その1つに座るように言われる。


「シゲト様は、あの若者たちとは別でプログラムをと、ミレーさんに言われていますので、この部屋を普段使っていただくことになります。少し狭いですがお一人でしたら大丈夫だと思います」

「なるほど……いや。心遣いありがとうございます」

「いえ、私達は異界より参られる方々の為におりますので」

「本当に、色々な世界からやってくるのですね……」



 軽く雑談から始まった説明は、知らないことを知るという知的興味を大いに刺激される。


 まずこの世界の神は、いくつもの世界を同時に管理をしているという。その一つが俺たちがやってきた地球であると。「神は自分に似せて人間を創った」そんな神話だか聖書の一文があったが、それと同じように色々な世界で自分に似せて人間を創ったという。普通だったら受け入れがたい話も、こういう今の状況を見る限りそうなのだろうと受け入れるしか無い。

 その為、様々な世界から人間が転移してくるが、ほぼほぼ似たようなヒト型の生命体の為お互いに生殖行為も出来れば子孫も残せるという。まるで平行世界の人々のようだ。



 この世界が出来たというキッカケがまたぶっ飛んでいる。

 その『GS』神が管理する様々な世界で、時々次元に穴が空き別の世界とのルートが出来る現象が起こっていたというのだ。元々はその次元の穴に落ちた人間達は、なにもない虚無の空間に生き埋めの様な状態になってしまうことがほとんどだったらしい。そのために神が次元の歪みから飛ばされた人々を受け入れるために人間がまだ創られていなかったこの世界を、受け皿として使い始めたというのが、この世界の創世に関わる話だということだった。

 そのため、この世界の大陸には元から居た魔物と呼ばれる存在が多く居て、危険な未開の地も多くあるのだという。


 話は戻るが、その為今こうして話してくれているカリマーも、下界に居るという住人たちもすべて祖先をたどっていけば異世界からの転移者だということだった。驚くべき話だ。この世界は異世界から転移してきたもので文明が形成されているのだ。

 その中で、転生してきた人間が直接神の光の恩恵を受けるため、彼らの子供。つまりこの世界で生まれた人間はそれと比べると少し能力的なものが劣る傾向にあるという。もちろんあくまでも傾向で、この世界で生まれた人間の中にも天才と言えるような人材は多いらしいが。

 不可思議な話だが、筋が通るため違和感なく受け入れていく。



 ある程度世界の話をした後、俺は実際に神の光により授けられた魔法の使い方などを教わる。と言ってもまずは魔法の感覚をつかめるようにと生活魔法と言われるものだ。

 この世界の魔法は、いわゆる超能力の様な物と考えれば良いのだろうか。呪文を唱えて発動させるとか、そういう使い方ではないようだ。その中で生活魔法は、基礎魔法とも呼ばれ各属性の基本的な魔法で、化学反応のようなものを起こす。

 火属性だと火を灯す。水魔法だと水を湧かせる。風魔法だと風を起こす。そんな感じで属性と言うのは力の種類の事で、その力の種類ごとに得意不得意が在るという。


「シゲト様は風魔法と、無属性でしたね……」


 そう言われ、まずイメージをしやすい風の起こし方を練習する。無属性というのは属性が無いわけじゃなく、様々な属性を調べるテストでも分類しきれない少数の属性をひっくるめて無属性という扱いにしているようで、実際は属性があり、かつ、見極めにくいためひとくくりにしているようだ。

 逆を言えば、無属性はどのような属性効果のある魔法を使えるのかは分からないというのがネックなのだが、色々魔法の訓練をしながら代表的なものを試してくれるらしい。



 ……


 ……


「素晴らしい。そうです。風は起こせるようになりましたね」

「……でも、この風って何に使えるんです?」

「そうですね。火をおこすときや、髪を乾かすとき、それから……涼をとるなど……」

「な、なるほど……生活魔法の意味が分かりました」


 こんなちょっとした魔法でも、今まで感じたことのない不思議な現象であるためなかなか面白い。調子に乗っているとクラクラと目眩がしてくる。カリマーが「魔力切れですね」と一度魔法の練習は休憩することになった。





※説明回ばっかであれですが、間もなくです。間もなく話が進みだすので。まあ、おいらの読者さんは進行遅めのおいらの作風を知って下さるとは思うのですが。

ヨロシク!

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