第6話 能力検査 2
俺は神官たちに言われるがままに検査を続けていく。
はじめに触れるように言われた珠は、魔法の力の源に成る「魔力」という物を量を計るものだと言われた。魔法なんてものは子供の頃に友達の家でやったRPGゲームとかのイメージとか、ステッキで変身する魔法少女の様なイメージしか無いが、そういうものなのだろうか。少し緊張しながらその透明な珠に触れる。
どのように計るのかも分からず、どのくらい触っていれば良いのか分からずにいたが、神官がジッと珠を見つめる為に離すのも出来ずに触り続ける。しばらくすると珠の周りが仄かに光り始める。おお……。もしかして。
「ふむ。良かったです。多少魔力は定着したようですね。生活魔法くらいなら使えるようになりそうですよ」
「ほ、本当ですか? ……魔力って使えない方もいらっしゃるんですか?」
「この世界の住人では魔力を持たない者はいませんが、やはり魔法の無い世界から来る方もおられるので。そういう方で年配の方などは、神の光を受けても魔力が定着しないという事はあります」
「なるほど……じゃあ、良かった……と言うことで?」
「そうですね。ただ。戦闘で魔法を使うとなると、ちょっと心もとない量ですので、やはり必要な生活魔法などを覚えて日々の生活をより良くするということが良いかと」
「はあ……」
正直生活魔法とか言われても意味が分からない。俺は適当に相打ちを打つくらいしか出来なかった。
それから、今度は違う珠を触るように言われる。珠は何個かあり、話を聞くと俺の魔力の属性傾向を見るものらしい。図り方はかなりアナログで、例えば赤い珠を触ってそれがさっきの魔力を計る珠と同じように光れば、火の属性傾向がある。と見られるようだ。
今度はどんどんいろいろな珠を触っていくがなかなか変化が出ない。先程の光かたよりはだいぶ違うが、風の属性を見る珠が気持ち明るくなった程度だった。
「……属性の傾向は無属性ですな。多少風の属性がありそうですが、誤差でしょう」
「はあ……」
言ってることが全くわからない。だが、神官たちの反応や顔色を見る限り、あまり大した結果では無いようだ。こうして様々な道具で調べては何やら書き込んでいる。
やがて身体能力まで測る道具が出てくる。これらも魔法の道具というやつなのだろう。しかしどの道具の結果も「おお!」みたいな反応が出るわけでもなく、淡々と進んでいく。
聞けば、検査道具の光具合を見て、後は神官の経験でランクのようなものを付けているらしい。眩しい光なんてなく、ひたすら仄かな光……。なんら希望も持てない。
……
「はい、ありがとうございます」
一連の検査が終わったのだろう。資料を書き終えた神官が告げる。そういえば、堂本の順位がどうのこうのと言っていたが……。少し気になって尋ねる。
「その、俺の順位ってどのくらいだったんですか?」
「順位ですか? ああ。それはまだです。それはこの世界の神民登録をすることで出るのですが……今日やられていきますか?」
「え? 神民登録??? それってどういうものですか?」
「この世界に住むものの身分証の様なものです。国家の枠を超えてこの世界の殆どの方が登録しているのですが……異世界からいらっしゃった方だと警戒する方もいらっしゃるので、急いで登録しなくてもとは思っております」
「はぁ……」
「……それでも身元の保証になるので、下界に降りる前には登録を推奨しております」
ううむ。マイナンバーとか、体にチップを埋め込むとか、日本人の感覚で個人情報のようなものを握られる嫌な感じがするのは確かだ。でも生徒たちは順位を知っているような話だからおそらく登録してしまっているのだろう。アイツらが登録をしてしまった以上、俺も必要かもしれない。
その後神民登録の説明を聞いても、そこまで個人情報を握られるような物でもなく、罪を犯すと街の出入りでチェックされたときにバレるなど、どちらかと言うと治安維持には不可欠なシステムのようだ。悪いことをしないように神が管理している。そんな感じに思える。
異世界から転移してきた人達にとっては、最強ランキングの順位を見るための道具くらいに思ってる人も居るという。
……ここまで来てゴネるのもなぁ。同調圧力に弱い日本人には耐え難い。
「もしよかったらお願いいたします。何度もあの吊橋を何度も渡るのもキツイので……」
俺がそう言うと神官はホッとした顔になる。やはりごねるのも居るのだろう。
その後俺は違う部屋へ案内される。歩きながら「いやあ、年配の方ほど拒否する人が多いので助かります」そういう神官の言葉に、再び30代はそんな年配じゃないのに……なんてじわじわとしたショックを受ける。
それにしても歩きながら建物中を見ていて、この建物が神殿のような感じはしない。むしろ何かの事務所のような感じだ。結局連れてこられた部屋も役所のような部屋だった。案内してくれた神官が声をかけると、すぐに女性の神官が対応してくれる。
「ん? どうなさりました? やはり登録は今度にしましょうか?」
とても神殿に見えない部屋で困惑してると、俺が迷ってるように思ったのだろうか。そう声をかけられる。
「あ。いや。なんていうか……僕らの神殿のイメージとだいぶ違うなあって思って……」
「ああ~。異世界から来た方だとそう言う方はたまにおられますね。おそらくイメージしてる神殿は下界にあるタイプなのだと思います。ここは一般の参拝の方などが来る場所ではないので、かなり業務的な施設になっているのです」
「な、なるほど……」
確かに……下界とここを別けているのなら、そうそうこんな天空の神殿に来られる物でも無いのか。礼拝堂みたいなイメージはたしかに集団に対する施設だもんな。ちなみに、こういった聖地的な神殿施設はこの世界にもう一つあり、そっちの方は下界に在るため、この宗教の総本山の扱いとして人々が礼拝に集まる場所となっている、そういう話だった。
俺が登録する気持ちに変わりないことを確認すると、女性の神官は「ここで良いですかね」と俺の左手を取り、袖をまくる。何をするんだろうと見ていると……。
「ちょっと我慢してください」
「え?」
その瞬間チクリと何かを刺される。そこまで痛いわけじゃなかったが反射的に腕を引いてしまう。ただ、残念ながら女性に抑えられた左手はびくともしなかった。
痛みは一瞬だったためすぐに落ち着いて腕を見る。すると腕に何やら光る文字が浮き上がり、グルグルと渦巻いていた。
あまりにも怪異な現象に言葉も出ずにただ見つめていると、やがてその文字の動きも緩慢になり、幾何学的な文様へと変わり始める。そして文字が動かなくなると、腕に入れ墨のように文字が定着した。
そこには俺の名前と、個人ナンバーなのだろうか、かなりの桁数の数字が書かれていた。
……
「こ……これは?」
「はい。神民カードの作成はこれで終了です」
「カード?」
なんか、この世界に来て俺はオウム返しで質問することが多い気がする。このついて行けない加減が年配者の感覚なのだろうか……。
女性は自分の神官服の腕をまくりあげると、俺が今付いたような入れ墨を見せる。
「これをこうして……」
入れ墨の角の方にある図形になった部分を指で押しながら摘むような動きをしてみせる。なんだ? と俺も見ていると、ぺろっと入れ墨がそのままカードの様に剥がれる。
「なっ!!!」
驚きに目を見開く俺を、楽しそうに眺めながら女性神官はピラピラと剥がしたカードを見せる。
「初めて見ると不思議ですよね。でもすぐなれると思いますよ。それではやってみてください」
俺は教わりながら自分の腕からカードを剥がす。やり方は至って簡単ですぐに出来るようになった。そしてそのカードは元の場所に貼り付ければまた元の入れ墨のようなものに戻る。
「大丈夫そうですね。それではもう一度カードを取って渡してもらってよろしいですか?」
「あ、はい」
渡したカードを機械……いや。魔道具と言うらしいが、その機械を通すとデーターが見られるということだった。
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