第4話 現状把握 2
それからミレーに聞かされた話は、俺にとってはかなり理解しにくいものだった。だがミレーが言うには生徒たちは割とすぐに受け入れたらしい。異世界転移というものが若者の中では珍しい話じゃないと言うから訳がわからない。
元の世界に戻れない、そんな片道切符の旅で生徒たちがつらい気持ちになっていないか不安だったが、見る感じだとそういう悲壮感は感じられなかった。最初はそれなりにパニックになっていたようだが、昨日あたりにはかなり落ち着いたという話だった。
家族から離れて二度と会えない現実をそんなに簡単に受け入れられるか、納得できない俺にミレーは洞窟の祭壇で光を浴びたのを覚えているかと聞いてくる。
「ああ、俺は気絶してしまった程ですから。何か自分の中に色んなものが入ってくるような……」
「そうですね。一説によるとこちらの世界に来た人達が、こちらの世界にすぐにでも馴染めるように体や心を調整していると言われています。あれは神の光ともいわれていて、あの光を受けることで異世界に無い魔法の力や精霊の守護などを得られるのです」
「心も調整? ……それでなのか……確かに俺も日本へ帰れないという事に関しては……確かにあまり引っかかっていない……」
「それはどこの異世界から来た方も同じ様な感じですので、心の縁も切れる。そんなような作用が在るのだろうと言われているんです」
「なるほど……」
俺にだって親も居れば友だちもいる。冷静に考えると何故そこに関してそこまで心が苦にしていないのか不思議だ。むしろ一緒に転移してきた生徒に関して、ある程度守ってあげないとと言う気持ちばかりが勝っている。
なるほど、調整か……心を弄られるのは良い気がしないが、どうせ帰れないのなら過去に縛られるよりは良いのかもしれない。
それはそうと、今ミレーは気になることを言っていたな……。
「そう言えば魔法って言いましたよね? ……もしかして先程、堂本が俺に見せたやつですね、俺もそういった力を?」
「魔法などは個人差も強く人それぞれではあるのですが……その、実は光を受ける年齢が若ければ若いほど、力を受け入れやすいらしく、より強大な力を得られると言うのことがあるのです……そのシゲトさんは魔法どの程度を使えるかはまだ……」
「年齢? ……それはアイツらも知ってる話なのですか?」
「はい」
なるほど……アイツらの俺を見下すような見方はそれもあるのか。剣道部の前任の顧問との差での見下していた感情が、こういう状況で爆発したのかと思ったが……。子供というのは残酷な生き物だからな。
しかし、ミレーの反応を見る限り32という年齢は若いと見られないのか。教師という教育の現場にいると完全に駆け出し扱いであるし、生徒の親のほうが年が上のため若造扱いなんだ。気持ちでは完全に若いつもりでいただけに軽くショックだ。
他には……何から聞けばいいのか。取り敢えず地球では単なるオカルトとしての魔法だが、一体何ができるのか気になる。スティックを振って変身したりもするのだろうか……。
「その魔法の力……というのは、いや。まあ、俺が使えるかはわからないというか……その」
「後ほど神官長の所へご案内します。そこで得られた能力などを調べてもらえますので。直ぐが良ければすぐお連れしますが、先に軽く説明したほうがいいと思いまして」
「あ、ああ。そうですね。お願いします」
……
……
ここ、天空に浮かぶ島々は全てこの世界の神『GS』を祀る神殿だということだった。『GS』は唯一神ということだが、この世界にはこの『GS』を祀る宗教しかないというのも驚きだ。先程の知恵の実の件もあり神というのが地球と比べリアルな存在なのだろうと言うのは分かるが、八百万の神を祀る国で生まれた俺としてはどうしても一神教というものに警戒心を抱いてしまう。
厳密には宗派のようなものは分かれているらしいが、その接し方や儀礼的な所に差があるくらいで、結局は同じ神を崇めている。
それから決まりとして、異世界からこちらの世界に来た者は6日目には神殿から下界へと降りなくてはならないらしい。この天空神殿は異世界からの入り口の様な場所ということで、聖地の1つとして通常は許可なきものが入れない場所ということだった。それが異世界より転移した者は神に招かれた客人として扱われるのが6日間という日数だということだ。
「6日……ですか? ちなみに俺の寝ていた時間は……」
「申し訳ありませんがカウントされてしまいます。こればかりは例外が認められておらず……しかし。下界の神殿の方でそういう方のためにフォローしていただくようにとお伝えることも出来ますし。国や組織に勧誘されればそこでの指導も行われますので」
「そうですか」
堂本たちが「時間がない」と言っていたのはこの事だったのだろう。今はそれぞれの資質に合わせて、魔法の使い方など戦い方の訓練をしているようだ。それからこの世界の文化や常識的な物もその間に教わる。
「戦い方? この世界は戦い方を学ばないと成らないほど危険なのですか?」
「そうですね、この世界には多くの魔物も居ます。国もいくつかに別れ、時には戦争もあるのです。当然身を護るすべはあったほうがいいと思います」
「そんな……」
「しかし、異世界よりいらっしゃって祭壇の光を浴びた方は一般の人々より神から与えられる能力が強いのです。ですから、普通に暮らしていく分にはさほど問題にならないと思います」
「それでも、僕のように年齢が高いと受け入れられる力も弱いと、そういうことですね」
「はい……。こうしてシゲトさんが目を覚ますのに時間がかかるのも、年齢が高い方ほどこの世界の力に馴染むのにより時間がかかってしまうからなのです。やはり3日も掛かったことを考えれば多くは望めない事が……多いです」
「そう、ですか」
「あっ。でもっあくまでも傾向ですので、後ほど神官長に確認していただくまでまだわからないと思いますのでっ!」
「ああ、ありがとうございます」
さらに、神殿から下界に降りた後の生活の話を聞く。
先程の話のように異世界(俺にとってはむしろこっちの方が異世界なのだが)からやってきた人間の能力の素養的なものは直接神の光を受けるため、この国で生まれた人間より高い傾向に在るという。その事から、優秀な人材として多くの国から登用の打診が来るらしい。
大抵はその条件を見ながら、好きな国に行ってそこで生活をしていくという。ただ、能力の発現もあまり見込めずにどこにも声がかからないと言うことも在るのだが、ミレーさんはあえて避けているように話していたが、きっと俺のように年齢の高めの人間がそれに該当するのかもしれない。
ただ、理由は解らないらしいが高年齢の者が次元の歪みに落ちてくるというのはそこまで多くなく、大抵は10代の若い世代の子がやってくるらしい。
話を聞くともしかしたら、俺はそんな若い生徒たちに巻き込まれたのかもしれないと思ってしまう。
問題は、俺が生徒たちと同じ国に行けるかだ。それと、皆同じ国に揃って呼んでもらえるのか。考え出すとそれはそれで不安が首をもたげる。
「そういうシステムがあるということは、やはりそこそこの確率でこういった異世界へ渡ってくる人が多いんですかね」
「そうですね……今回『余戸の祠』、あ、シゲトさん達がいらっしゃった祭壇がある場所です。そこは十数年ぶりに開いたのですが、他の祠を合わせれば年に数度は転移の方が参られます」
「そ、そんなに??? それじゃあ下界には日本人がいっぱいいるという?」
「いえ、地球の方は『余戸の祠』から参りますので、他の異世界からの転移の方がいらっしゃいます。それと今回のように一度に9人という多人数がやって来ることも珍しいんです」
「他の世界……それはすごいですね……だけど、世界によって価値観も違いますし危険な人とかも来るんじゃないですか?」
「確かに、危険な方も来ることもあります。特にそういった世界からの移転者が来る祠もありますね……もう百年以上開いていませんが、有名なところだと『赤百の祠』、と言う祠からの転移者には私どもも気をつけて接するように教育されております」
「なるほど……」
どうやら、この世界は異世界人の見本市のようだ。
そうこうしている間に食事も終わり、その他細かいことは、後ほどと言うことで、俺は神官長の所に案内してもらうことになった。
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