スクナビコナとろくろ首⑧―ネズミたちの“成功”!今ろくろ首の秘密があらわに!!―

『おい、どうなってるんだ!』


 若い男の首が痺れを切らしたように突然怒鳴る。


『いったいいつになったら小僧はここに現れるんだ!』


 若い男は再び怒鳴り散らす。


『…うーむ……』


 その言葉を聞いた中年の男がうなりながら何かを考えているような表情をする。


『…確かに遅いな。いい加減ここに現れてもいいはず……』

『ねえ、ひょっとしたらまだ家にいるんじゃないのかい?』

『そうだよ!こんなに待っても来ないなんておかしいよ!』

『うん、そうに違いないわ!』


 老婆がスクナビコナがまだ家にいるのではないかと主張し始めると、他の二人の女もその意見に同調する。


『…うーん、そうか…。よし、お前!今から家のほうに行って様子を探ってこい!』


 中年の男は若い男に家へと向かうよう命じる。


『ああ、行ってくるぜ!』


 そう言うやいなや、男の首は家のほうへと向かって飛び去っていく。


(…フッフッフッ……)


 スクナビコナは首たちの会話を笑いをかみ殺しながら聞く。

 何しろこの者たちはすぐ近くにいる自分を探そうと無駄な会話と努力を必死に行っているのだ。

 これを笑わずにいられようかという話である。


 あとはチュルヒコとネズミたちが家のほうで全てを〝うまくやっている〟ことを祈るだけである。

 そう思いながら、スクナビコナはまだ馬小屋の前にとどまっている四つの首のほうを見つめるのだった。



『よしっ、これで全ての胴体を運び終えたぞ!みんな本当によく頑張ってくれたよっ!』


 最後の胴体を家の外に運び出したあと、家の中でチュルヒコはネズミたちにねぎらいの言葉をかける。


『…ふう、ずいぶん大変でしたが、なんとか終わりましたな』


 ハツカノミコトがそう言うと、他のネズミたちも、チュー、やったね、などと歓声を上げる。


 チュルヒコと百匹ほどのネズミたちは皆で力を合わせて、胴体が置いてあった部屋と家の入り口との間にある全部の戸を開けた。

 さらに五体の胴体を全て部屋から家の外へと運び出した。


 そして今はもともと胴体があった部屋まで戻ってきている。

 それは小さなネズミたちにとっては本当に重労働であったがゆえに、〝作業〟を終えたあとのネズミたちが感じる達成感もひとしおである。


『…これであの者たちも二度と元の姿に戻れないわけですな』

『うん、そのはずだ』

『ふう、まあいずれにせよこれで我々にできることは……』


 そのときである。

 チュルヒコたちの背後から突然、アーッ、という耳をつんざくような大きな叫び声が聞こえる。


『なっ、なんだ!』


 チュルヒコたちは驚いて一斉に声がした方向を見る。

 そこには絶望にその表情を歪める若い男の首が。


『お前らなんてことをしてくれたんだーっ!』


 絶望。憎悪。憤怒。

 男はあらゆる負の感情を秘めたような表情でチュルヒコたちを見ながらほえる。


『お前らっ、俺たちの胴体をどこに隠したっ!』


 男はなおも大声でチュルヒコたちにわめき散らす。


『フン、そんなことはお前たちに教えるわけないよ!これでお前たちは二度と元の姿には戻れないぞ!覚悟しろ!』


 チュルヒコも正面から男のほうを見すえながら叫ぶ。ハツカノミコト以下ネズミたちも男をにらみつけながら身構える。


『元の姿に戻れない?それどころじゃねえよ!』


 男はなおもネズミたちを見ながらわめき続ける。


『それどころじゃない?』

『そうだ!俺たちは胴体と首が離れちまったらもう長くは生きられねえ!』

『なんだって?』

『俺たちが生きられるのはもう今夜中までだ!夜が明けて朝日が出たら俺たちは完全に消滅しちまう!』


 男は空中を飛び回りながら、狂ったようにわめく。


『…そうなのか……』

『これもみんな小僧とお前たちネズミどものせいだ!お前らをみんなまとめて食いちぎってやる!』


 男は再び負の感情のこもった目でチュルヒコたちを見る。


『なにーっ!』

『やる気か!』

『かかってこい!』


 男の激しい言葉に全てのネズミたちが反応する。

 そしてしばらくの間、双方のにらみ合いが続く。

 しかし男は根負けしたのか、突然ネズミたちから目をそらしてしまう。


『フンッ、お前らを噛み千切るのは後回しだ!まずはこのことをみんなに報告しなければ!』


 そう言うと男はくるりと後ろを向いて、部屋の外へと飛び去ってしまう。


『…ふう、助かった……』


 男が飛び去ったのを見送ったあと、チュルヒコはほっと一息ついて、つぶやく。


『ははっ、我々に恐れをなして逃げ出したのでは?』


 ハツカノミコトが少し冗談めかした調子で軽口を叩くと、その場のネズミたちがどっと沸く。

 恐れをなしたのかどうかはわからないが、大勢のネズミを相手にするのは面倒だ、くらいのことは思ったかもしれない、とチュルヒコは思う。


『まあ、これで我々のできることは全てやりました。後のことはスクナ殿にお任せしましょう』

『うん、そうだね。スクナならうまくやれるはず』


 チュルヒコはハツカノミコトの言葉に同意する。そして他のネズミたちとともに男の首が飛び去った、部屋の外のほうを見つめるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る