スクナビコナとろくろ首⑨―ついに激突!スクナビコナV.Sろくろ首!!―

『大変だーっ』


 若い男の首が大声で叫びながら、馬小屋の前にいる四つの首の元に全速力で飛んでくる。


『何事だっ!』


 そのあまりに慌ただしい様子に、中年の首の男もただ事ではないと思ったのか、怒鳴るように言う。


『ネズミどもが俺たちの胴体をどこかに隠しやがった!』

『ええっ!』

『そんな!』

『きゃあっ!』


 若い男の言葉を聞いて女の首たちは一様に悲鳴を上げる。


『…うぬぬ…、我々の胴体を隠すとは…。これで我ら全員元の姿に戻ることはできぬ。…ゆえに我々は滅びるほかはない……』


 中年の男はうめくように言う。


『ああっ!』

『俺たちは死ぬしかないのか!』

『口惜しや!』

『なんてこと!』


 首たちは皆、泣き、わめき、嘆く。


『…ぐうう、もはや我らの死にゆく運命が変えられぬとなれば…、せめてあの小僧を亡き者に……』


 中年の男は歯ぎしりして悔しがりながら言う。


『そうよ!』

『全部あいつのせいだ!』

『あの小僧をぶっ殺す!』

『八つ裂きにしてやる!』


 首たちは口々にスクナビコナを呪う言葉を吐く。


『こうなったらあいつに復讐だ!小僧を探せ!』


 中年の男は全員にスクナビコナの〝捜索〟を命じる。


『小僧どこだ!』

『どこにいる!』

『隠れてもムダだぞ!』

『どこに隠れていようとも探してやるぞ!』


 首たちは方々に飛び散ってスクナビコナを探そうとする。

 しかしそのとき。


『待てっ!』


 中年の男の首が他の首たちを大声で呼び止める。


『なっ!』

『なに?』


 四つの首は驚いて飛び出すのを止め、中年の男のほうを見る。


『…何かにおうと思わないか?』


 中年の男は鼻をフンフンと動かしながら言う。


『…そういえば……』

『…確かに……』

『…このにおいは……』

『…人間のにおい?』


 中年の男に続いて、他の首たちも辺りを飛び回りながら、周囲に漂うにおいを確かめ始める。


「…ここにいるのが、ばれちゃったたかな……?」


 ずっと茂みの陰から首たちの様子をうかがっていたスクナビコナはつぶやく。


「…たぶん、風向きが変わったのが原因だろうな」


 スクナビコナがここに来たころは風が馬小屋からスクナビコナがいる茂みに向かって流れていた。

 しかし今は逆向きに、つまり茂みから馬小屋のほうに風が流れている。

 そのためにスクナビコナのにおいが今ろくろ首たちに嗅ぎつけられている可能性が高い、とスクナビコナは考えている。


『…これは小僧のにおいに違いない!』

『どこからにおってくる?』

『あっちだ!』

『あの茂みのほうだ!』


 首たちが一斉にスクナビコナが隠れている茂みのほうに注目する。


『おいっ!』

『そこに隠れているのはわかっているぞっ!』

『さっさと出てこい!』

『こそこそしおって!』

『卑怯者が!』


 首たちは茂みのほうを見ながら、口々に大声で罵る。


「…僕は逃げも隠れもしないぞ!」


 ついにスクナビコナは首たちの前に姿を現す。


『小僧め!』

『ついに姿を現しおったか!』

『貴様のおかげで私たちは死なねばならん!』

『みんなお前のせいだ!』


 首たちは憎しみのこもった視線をスクナビコナに向けながら、激しく罵倒する。


「黙れーっ!」


 スクナビコナは首たちの言葉に真っ向から立ち向かう。


「お前たちのせいでどれほどのものが苦しめられたと思ってるんだ!チュルヒコだけじゃない!多くの人が馬に変えられ、奴隷のように扱われ、中には命を落としたものまでいるんだぞ!そんなお前たちがここで命を落とすのは当然の報いだ!」


 スクナビコナは首たちの悪行を厳しく追及する。そして歩いて首たちのほうに向かって少しずつ前進していく。


『おのれーっ!』

『言わせておけば!』

『貴様だけは許さん!』

『死ねーっ!』


 首たちはスクナビコナの周りを包囲するようにグルグルと回りながら、大声で罵声を浴びせる。


「フン、いつでもかかって来いよ!それともお前たちが勇ましいのは口だけか?」


 スクナビコナは首たちを挑発する。


『ハッ、お前の望みどおりにしてやる!者ども、かかれーっ!』


 中年の男の首が号令すると、それを合図に首たちが一斉に飛びかかる。


「来たかっ!」


 スクナビコナも素早く藁の鞘から針を抜いて迎え撃つのだった。

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