スクナビコナと腰折れスズメ③―スズメたちの大歓迎!…えっ、贈り物?…大きいつづらと小さいつづら??…ということは…???―

「いやー、本当に楽しかった!」

『僕も!今まで生きてきた中で一番すごいものを体感したって感じだよ!』


 スズメたちの歌と踊りが終わったあと、スクナビコナもチュルヒコも異口同音にスズメたちのパフォーマンスを絶賛する。


『チュンチュン!それほどまでにお褒め下さるとは!我ら一同としても〝スズメみょう利〟に尽きるというものです!』


 スズメヒコもまた一人と一匹から送られた言葉に大喜びする。


「ただ、僕たちは何もスズメたちから歓迎されたいがためにここまで来たわけじゃないんだ」

『ほう、それでしたら何ゆえここまで足を運ばれたのです?』


 スクナビコナはスズメたちの前で自分たちがここまで来た経緯を説明する。


『…ふうむ、この辺りの問題を解決する……』

「そうなんだ、だからみんなも僕たちに少しでも力を貸して欲しいんだ。それは結局、ここのスズメたちのためにもなるはずだ」

『…そうですか、そういうことでしたら……』

『僕たちに協力してくれるの?』

『私もあなた方には命を救っていただきましたし、何よりもはやあなた方は私たちにとって他人ではありません。大切な友達です。そんなあなた方に協力しない道理はありません』

「そうか、ありがとう」


 スクナビコナはスズメたちに心からのお礼の気持ちを伝える。


『チュンチュン、我らの力がどれほどあなた方のためになるのかはわかりませんが……』

『実際に役に立つかどうかが問題なんじゃないよ。その気持ちが何より嬉しいんだ』

「ははっ、そういうことだ」


 チュルヒコの言葉にスクナビコナも同調する。


『…そうですか…、あっ、そう言えば……!』

「うん?何か思い出したことでもあるのか?」

『はいっ!あなたに上着をお渡ししなければ!』

「上着?確かに僕は今、上に着るものがないけど…。何しろ上着はスズメヒコの腰を固定するために使ってしまったからね」


 そう、実はスクナビコナはスズメヒコのケガの手当てをしてから、ずっと今に至るまで上半身裸の状態である。


『はい、ケガをしたこの私のためにスクナ様は上着を使われてしまいました。その代わりとして、私どものほうでスクナ様が今後も使えるしっかりとした上着を用意させていただきました』

「すごいな!いつの間に?」

『あなた方が我々の歌や踊りを見ている間にです』

『そういえば……』

「ん?チュルヒコ何か気づいたことでもあるのか?」

『うん。僕たちがスズメたちのことを見ている間にかすかにだけど、はた織りゃキコタン、機織りゃキコタン、っていう歌声が洞の隅のほうから聞こえたんだ』

『チュンチュン、ネズミタケル様が聞いたのはまさに我々が機で布を織るときに歌う歌です』

「そうなのか、僕は全然気づかなかった」

『ははっ、あなた方が歌や踊りを楽しんでおられる最中でしたので、その邪魔にならないようになるべく静かに布を織っていたのです』

「そうだったのか」

『はい、ではすでに我々の羽毛を使って織った布からあなたの上着を作らせていただきましたので、どうぞ着てみてください』


 スズメヒコがそう言うと、一羽のスズメがスクナビコナの前にやってきて、すでに完成している服を差し出す。スクナビコナはとりあえず服を受け取って、両手に持って広げてみる。


「…とりあえず見た目は僕のこれまで着ていたものとほとんど変わらないな……」

『はい、あなたの上着を参考になるべくそれに近いものを作ってみました。ではどうぞ、実際に着てみてください』

「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 スクナビコナはスズメヒコに言われるがままに、もらった上着に袖を通す。


「これ、すごいよ!服の肌触りもほとんど前のものと変わりないし、大きさもピッタリだ!」

『チュンチュン、気に入っていただけましたか』

「ああ、ありがとう」


 そう言うと、スクナビコナは持っていた袋の中から一時しまっていた帯を取り出し、上着とともに自分の腰の位置で締める。


『実はあなた方にはもうひとつ受け取っていただきたいものがあります』

『えっ、まだあるの』

『はい、では持ってきてくれ』


 スズメヒコの言葉とともに二羽のスズメがそれぞれに竹を編んで作られたつづらを持って現れる。そしてつづらをちょうどスズメヒコがいる位置のすぐそばに置くと、そのまま去っていく。つづらは、一つはスクナビコナやチュルヒコの体よりも小さく、もう一つは一人と一匹の体よりもかなり大きい。


『この二つのつづらのうち、どちらか一つを我々からあなた方への贈り物として差し上げましょう。さあ、どちらか好きなほうを一つお選びください』


 スズメヒコはスクナビコナにつづらを選ぶようにうながす。


『…ねえ、スクナ、どっちにする?』

「…うーん……」


 スクナビコナもチュルヒコもしばらくの間考える。


「…よし、こっちにしよう」


 スクナビコナは小さいほうのつづらを指差しながら言う。


『…小さいほうにするの?じゃあ大きいほうを諦めちゃうんだね……』


 チュルヒコは少しだけ未練がましく、大きいつづらのほうを見ながら言う。


「ああ、だって考えてもみろよ。こっちのつづらは僕たちが持つにはあまりにも大きすぎる。僕たちにはこっちで十分さ」

『…わかったよ。スクナがそう言うのなら……』


 スクナビコナの言葉を聞いて、チュルヒコも納得したという表情を見せる。


「じゃあ、スズメヒコ。そういうわけだからこっちの小さいつづらをもらうよ」

『小さいほうですね。わかりました』


 スズメヒコがそう言うと、またすぐに一羽のスズメが小さいつづらのそばにやってきてつづらを持ち、スクナビコナに手渡す。


「ありがとう。しかし今日は本当に至れり尽くせりだったよ。珍しい歌や踊りもあったし、おまけに上着やつづらまでもらってしまって…。正直悪いくらいだ……」

『何を言われます!あなた方は私の命を救って下されたのですぞ!これくらいは当然のことです』

「そうか。じゃあ、今日のところはこれで帰るよ。今後もここにやってきたりしてもいいかな?」

『もちろんです!あなた方ならいつでも大歓迎だ!』


 スクナビコナたちとスズメたちは極めて友好的な雰囲気に包まれたまま別れるのだった。

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