スクナビコナと腰折れスズメ②―非道なり、アマノジャク!貴様の血は何色だーッ!!―
今朝、私は普段と同じように自分のすみかの近くの空を気ままに飛んでおりました。
するとあるところに一軒家があり、その入り口のそばに何粒かの米粒が落ちていたのです。
米は私の大好物ですので深く考えることなく、私は地上に降りて夢中で米を食べました。すると―
「…ん……」
突然家の入り口から住人が姿を現し、私の存在に気づきました。
『アーッ!アマノジャク様、こいつ俺たちの米を勝手に食ってますぜ!』
住人といっしょに出てきた灰色の毛のネズミが私を見て叫びました。
「なにっ!おい、お前っ!人の家の前で盗み食いとはいい度胸だな!」
『ち、違います!そういうつもりでは……』
『コイツ、ふざけた野郎だ!もうすでに俺たちの米を胃袋の中に納めたくせに!』
『い、いえ、この米があなたたちの物だと知らなかったのです!』
「ふん、下らない言い訳ばかり並べやがって!問答無用だ、復讐してやる!十倍返し、いや百倍返しだ!」
『チュ…、チュン、チュン!』
もはやこのものたちにはなんの言葉も通用しないと悟った私は急いでその場から飛び去ろうとしました。
『あっ、アマノジャク様!あいつ逃げる気ですぜ!』
「ふざけるな!」
『…チュ、…チューン!』
空中を飛んでいた私は突然腰の辺りに激痛を感じました。
『ハハッ、石が見事命中だ!さすがアマノジャク様!』
「ふんっ、ざまあみろ、この盗人が!」
『より正確に言うならば、〝盗人〟ならぬ〝盗スズメ〟といったところですぜ!』
私はあまりの腰の痛みに耐えられず、ふらふらと地上に落ちてしまいました。痛みの原因は、アマノジャクが私に向かって投げて命中した石でした。
そのあと私は腰の激痛を我慢しながら、なんとかしばらくは空を飛び続けました。
しかしついに力尽き、地面に横たわっているときに、あなた方がやってきて助けてくれたというわけです。
「…うーん…、確かに最初に米を盗み食いしたのはスズメヒコのほうだが……」
スズメヒコの話を聞き終えたあと、スクナビコナはうなりながら言う。
『何も石をぶつけて腰の骨を折ることはないよね』
『いずれにしても助けていただいて、私としてはあなた方には感謝の気持ちしかありません。ぜひとも私のすみかにあなた方を招待したい』
「すみか?」
『はい、私はこの近くの森に仲間とともに住んでおります。そこにあなた方に来ていただきたいのです』
「そうか、そういうことなら僕としてはなんの問題もないぜ。喜んで行かせてもらうよ」
『僕も』
スクナビコナもチュルヒコもスズメヒコたちのすみかに行くことを了承する。
『そうですか、それでは私の後についてきてください。もうすぐ近くにありますので』
そう言うと、スズメは森のほうに向かって歩き始める。
その後ろからスクナビコナとチュルヒコも続くのだった。
『ここです』
スズメヒコは森の中でも目立って大きな木の
「こんなところにお前たちは住んでるのか!」
『すごい大きさの木だよ!』
木も巨大なら洞の入り口もなかなかの大きさである。
『さあ、入りましょう。中で仲間たちが待っていますから』
スズメヒコは洞の中へと入っていく。スクナビコナとチュルヒコもそれに続くのだった。
『チュンチュン。お帰り、スズメヒコ』
『帰りが遅いから心配してたんだよ』
中では数羽のスズメたちが一行を出迎えてくれる。
「…結構広いな……」
スクナビコナは洞の中を見回してみる。中の空洞はスズメが百羽は住めそうなくらいの広さがあり、天井もスズメがある程度飛べそうなほどの高さがある。
『おや、この方たちは?』
『どなたたちです?』
スクナビコナたちのことを尋ねるスズメたちに、スズメヒコはスクナビコナたちと出会ってからここに来るまでの経緯を説明する。
『そうですか、そのようなことが……』
『この方たちはスズメヒコの命の恩人というわけだ』
『それでは我々としても歓迎しないわけにはいかないな』
スクナビコナとチュルヒコがスズメヒコを助けたことを知ると、洞の中のスズメたちは一様に歓迎ムードになる。
『それではスクナ殿とネズミタケル殿に改めてこのスズメヒコから言わせてください。スクナ殿、チュルヒコ殿、我らがすみか〝スズメのお宿〟にようこそお越しくださいました!』
このスズメヒコの言葉に続いて、周囲のスズメたちも一人と一匹を歓迎するようにチュンチュン、と鳴く。
「〝スズメのお宿〟って何?」
スクナビコナはいきなりのスズメたちの熱烈な歓迎ぶりに戸惑いつつも、スズメヒコに質問する。
『この〝スズメのお宿〟は我々スズメ一同の友人たちをお招きして歓迎するための宿でございます!もっともスズメ以外の方でここを訪れられたのはあなた方が初めてですが……』
「そうなのか……」
『それでは早速ですが我々はあなた方を〝おもてなし〟したいと思っております!』
『ささっ、こちらへどうぞ!』
スクナビコナとチュルヒコはスズメたちに言われるがままに、洞の中の中央辺りに案内され、座らされるのだった。
「いいぞー!」
『すごい!』
スクナビコナとチュルヒコは目の前で繰り広げられるスズメたちのアクロバティックな踊りと、それに合わせたチュンチュンという美しい歌声に歓声を上げ、拍手を送る。
そんな一人と一匹が座っている前には膳と器があり、器の中にはこの辺りで取れたと思われる様々な種類の山の幸が盛られている。
「ははっ、こりゃあほんとにすごいぞ!」
『こんなの生まれて初めて見たよ!』
スクナビコナもチュルヒコもおいしい料理に舌鼓を打ち、目の前で展開されるスズメたちのパフォーマンスを時がたつのも忘れて大いに楽しむのだった。
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