スクナビコナと腰折れスズメ①―スズメが腰にケガを…?いったいスズメの身に何が??―

 スクナビコナとチュルヒコがハツカノミコトの許しを得て、ネズミの穴に住むことにした翌日のことである。

 早朝から一人と一匹はクエビコの元に出向き、これから自分たちが何をするべきかを尋ねる。

 スクナビコナたちにとってはただ単にネズミの穴にいても特にやることはない。

 それにネズミたちの食糧問題もまだ解決したわけではない。

 それゆえにクエビコの元を訪れるのはいわば必然のことである。


「クエビコ様、今日はこの辺りでは何か問題は起こってないかな?」

『問題か、…うむ、しばし待て……』


 そう言うと、クエビコは例によってその体を妖しく揺らし始め、同時にオオオオオオッ、と叫び始める。


『これを見るのは二回目だけど、まだ慣れることができない……』


 チュルヒコはクエビコの怪しい動きを見ながら、引き気味に言う。


「大丈夫だよ。何回も見ているうちに慣れるって……」


 対照的に、スクナビコナは特に気にする素振りも見せず、平然とクエビコのほうを見る。


『アアアアアアーッ、…よし、心得たり……!』

「僕たちは何をすればいいの?」


 スクナビコナは〝心得た〟らしいクエビコにすぐに聞く。


『うむ、ケガをしたスズメが非常に困っている、助けるべし』

「ケガをしたスズメか……」

『そのスズメは今どこにいるのかな?』

『わからぬ』

『…わからないのか……』

「そうか、じゃあスズメのほうはなんとか僕たちの力で探してみるよ。ありがとう、クエビコ様」

『うむ、頑張れよ』

「じゃあ、またいずれ」


 こうしてスクナビコナとチュルヒコはクエビコに別れを告げ、スズメを探しに出かけるのだった。



『ねえ、スクナ。スズメを探すあてはあるの?』


 チュルヒコはすぐ隣を歩いているスクナビコナに聞いてみる。


「ない」


 スクナビコナはチュルヒコの問いにきっぱりと答える。


『…ない、って…、じゃあ僕たちはいったいどこに向かって歩いてるの?』

「ネズミの穴さ。当てがない以上、とりあえずあそこに戻ってネズミたちにスズメのことについてなんでも聞いてみるしかないさ」

『…そうだよね……』


 その後、しばらくの間スクナビコナもチュルヒコも無言のまま歩く。

 そんなときである。


「…おい、なんだあれ……」


 前方に何かを見つけたスクナビコナがその方を指差しながら言う。


『…何かが倒れてる……?』

「とにかく近づいてみようぜ!」

『うん、そうだね!』


 こうしてスクナビコナとチュルヒコは小走りに〝倒れている何か〟に向かって行くのだった。



「…おい、あれは……」

『…スズメ……!』

『…チュン、チュン……!』


 スクナビコナとチュルヒコは倒れながら、鳴いているスズメを見つける。


「まったく、スズメのほうからこっちの前に出てくるとはな」


 スクナビコナは走りながら言う。

 スズメは身動きが取れないのか、その場でチュンチュン、と鳴きながら、苦しそうにもがいている。


『スクナ、かなりやばい状態みたいだよ。急ごうよ!』

「わかった!」


 一人と一匹はスズメに向かって全速力で走っていくのだった。



『大丈夫!』

「しっかりしろ!」


 スズメの元にたどり着いたスクナビコナとチュルヒコはそれぞれに声をかける。


『…チュン、チュン、…腰が……』


 スズメは腰の異常を訴える。


『…腰……?』

「…おい、腰の骨が折れてるんじゃないのか!」


 スズメの様子を近くでじっと見ていたスクナビコナがスズメの骨折を疑う。


「チュルヒコ、お前はこのスズメのそばにいてやってくれ!僕は〝あるもの〟を探しにいく」

『〝あるもの〟って何?』

「すぐにわかるよ!じゃあ行ってくるからな!」

『うん、わかった』


 スクナビコナはスズメとチュルヒコをその場に残し、近くの森に向かって走っていくのだった。



「よし、見つかったぞ!」


 しばらくすると、スクナビコナが木の切れ端を抱えて戻ってくる。


『スクナ、そんな物を持ってきてどうするの?』

「まあ、見てろって」


 スズメのすぐそばまでやってきたスクナビコナはそう言うと、切れ端をいったん地面に置き、おもむろに自分の着ている上着を脱ぎ始める。

 そして木の切れ端をスズメの背中に添えて、自分の上着でその切れ端をスズメの腰の辺りに結びつけて固定する。


「…さあ、これでどうだ」


 スクナビコナは倒れているスズメの顔をのぞきこむように見ながら言う。


『…チュン、チュン!』


 スズメは鳴きながらも、立ち上がろうと試みる。


『あっ、立ったね!』


 スズメが立てたことにスクナビコナもチュルヒコもほっと胸をなで下ろす。


『チュン、チュン。腰はまだ痛いですけど、なんとか立ち上がることができました。ありがとうございます』


 スズメはスクナビコナとチュルヒコを見ながら、嬉しそうに礼を言う。


「これはあくまで応急処置だからな。だから悪いんだけど、その状態じゃ空を飛ぶことはできないぜ」

『いえいえ、私のすみかはもうすぐそばにありますから。歩くことさえできれば十分に帰ることができます』

「そうか、ならいいんだけど……」

『そういえばまだ名を名乗っていませんでしたね。私の名はスズメヒコ。この近くの森に住んでおります』

「僕の名前はスクナビコナ。こっちはネズミタケルだ」

『よろしく、スズメヒコ』

『こちらこそよろしくお願いします』

「それにしてもなんだってこんな酷いケガをしてたんだ?」

『それについてはつい先ほど私の身に起こった出来事について話をしなければなりません』


 そう言うと、スズメは〝出来事〟について語り始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る