スクナビコナとネコ退治⑤―ついにネコとの決戦!…っておい、チュルヒコ?大丈夫か!!―
『…いたよ……』
「寝ているみたいだな」
『うん、やっぱり今日も倉庫の入り口の辺りにいるね』
〝ネズミ皮〟をかぶってネズミに化けたスクナビコナとチュルヒコは、倉庫の入り口が見える草むらで息を潜めながら、ネコをじっと観察する。
今朝は起きてからハツカヒコやハツカヒメ以下、ネズミたちに見送られてネズミ穴を出た。
そして昨日のようにいきなりネコの目の前に出るのは危険すぎるため、今は近くの身を隠せる草むらからネコの様子を見ているのである。
『…それにしても、昨日はなんでいきなり殴ったりしたんだよ!おかげでハツカヒメの話をほとんど聞けなかったじゃないか!』
チュルヒコは昨晩にスクナビコナが自分を〝不意打ち〟したことに文句を言い始める。
「ふん、それは昨日お前がハツカヒメから逃げるように言われたあと、明らかに気持ちが揺らいでたからだよ」
『えっ、…そっ、それは……』
スクナビコナに痛い所を突かれて、チュルヒコは気を動転させる。
「お前にあそこで本当に逃げられたらたまったもんじゃないからな。だからああやって未然に〝逃亡〟を防いだんだよ」
『…う……』
スクナビコナの言葉にチュルヒコはぐうの音も出ない。
「…まあ、昨日はあのあとハツカヒメもお前の無事を祈ってる、って言ってたぞ。さあ、とにかく今はあのネコの野郎をどうにかすることだけを考えようぜ」
『…うん、わかった』
「さて、と、…〝作戦〟はおぼえてるよな?」
『うん、大丈夫。…けど……』
「けど、なんだ?」
『今だったらネコは寝てるんだから、すぐに退治できるんじゃ……』
「ふん、前にも言っただろ!それじゃあ意味がないんだ!」
『…確かに、スクナはそう言ったけどさ……』
「あいつを〝不意打ち〟で退治したってなんの意味もないんだよ!まずは僕が針でネコを軽く突き刺してあいつを起こす。そのあとネズミの穴の近くまで逃げる。そして追いかけてきたあいつをネズミの穴の近くで退治する。こうすればあいつは二度と倉庫からネズミの穴にかけての場所に近づこうとはしないはずだ!この作戦を変えるつもりは一切ない!いいな!」
『…わかったよ……』
スクナビコナの強い調子に押されたチュルヒコは渋々同意する。
「…さあ、行くぞ。お前は僕のあとからついて来い」
『…うん……』
スクナビコナとチュルヒコは草むらから出て、ネコの様子を注視しながら、慎重にネコとの距離を詰めていく。
そしてついには眠っているネコのすぐそばにまで接近する。
「…さあ、やるぞ。お前は逃げる準備をしておけよ」
『…わかった……』
スクナビコナとチュルヒコはネコを起こさないように、ひそひそと会話をする。
そしてスクナビコナは針を〝鞘〟から抜き、右手に持って慎重にネコの顔の辺りに近づけていく。
『…ギャアーッ!』
針の先端がネコの顔に触れた瞬間、ネコが叫び声を上げて目を覚ます。
「ははっ、おい、また来てやったぞ!こっちに来いよ!」
スクナビコナはそう言ってネコを挑発するやいなや、くるりと背を向けてその場から逃げ出す。チュルヒコもそれに続く。
そんな一人と一匹をネコも猛然と追いかけてくる。
スクナビコナは二本足で、チュルヒコは四本足で、昨日と同様にネズミの穴に向かって逃げる。
倉庫の床下に下り、ネズミ穴の近くを目指して全力疾走する。
「よし、ここを右に曲がれば穴だ!チュルヒコ、あと少しだぞ、頑張れ!」
『うん!』
そしてスクナビコナとチュルヒコが右に曲がろうとした、そのときである。
『うわああああーっ!』
右に曲がろうとしたチュルヒコが曲がりきれずに、床下に何本かあった木の柱の一本に激突してしまう。
倒れたチュルヒコがなんとか起き上がろうとしながら背後を見ると、そこにはもう目と鼻の先にまで迫っているネコの姿が。
『うわあ!スクナ、助けて!』
「くっ、あのバカ!」
倒れたまま完全にパニック状態になっているチュルヒコを救うべく、スクナビコナは引き返してチュルヒコのそばに駆け寄ろうとする。
『ニャアアアアアアーッ!』
だがネコのほうもチュルヒコに襲いかかろうと、すでに右の前足を振り上げている。
そして、まさにその前足がチュルヒコの頭上に振り下ろされんとしたときである。
『ギャアアアアアアーッ!』
ネコが前足に走った激痛に悲鳴を上げる。間一髪、ネコが前足を振り下ろそうとしている位置めがけて、右手に針を持ったまま飛び込んだスクナビコナの針の先端がネコの前足をとらえる。
「はっ、見たか、ネコ野郎!チュルヒコなんかにかまってないで、僕と勝負しろ!」
スクナビコナは素早く立ち上がると、自分に注意を引きつけるべく、ネコを挑発する。
『ウニャアアアアアアーッ!』
その挑発に乗ったネコは倒れているチュルヒコは無視し、スクナビコナを凝視する。
そんなネコをスクナビコナも
ネコはスクナビコナの数十倍の体の大きさを誇っている。スクナビコナにとっても決して勝てる保証はない相手である。
「…さあ、こっちに来い……」
スクナビコナは睨み合ったまま、慎重に後ずさりする。ネコをチュルヒコから引き離しつつ、ネズミの穴の近くまで誘導するためである。
ネコもウニャアー、と叫びながら、スクナビコナの動きに合わせて移動する。
そしてついに双方ともにネズミ穴の近くにまで場所を移す。
「…さあ、かかってこいよ!それとも僕のことが怖いのか?」
そのタイミングを見計らって、スクナビコナは再びネコを挑発する。
『キシャアアアアアアーッ!』
その挑発に乗ったネコがスクナビコナめがけて前足を振り下ろす。
「ふん、そんな攻撃が当たるかよ!」
しかし、スクナビコナはネコの攻撃をヒョイヒョイと、その軽い身のこなしでかわしていく。
『ウニャニャッ、いつまでそうやってかわせるかニャ!』
「なんだ、喋れるのかよ!てっきり頭が悪すぎて喋れないかと思ったぞ!」
『ニャンだと!ウニャア、本気で怒ったニャ!』
スクナビコナの言葉に激怒したネコは、いっそう激しくスクナビコナに対して前足を振り下ろす。
「うわっ、しまった!」
すると、スクナビコナがネコの攻撃をかわした直後に、滑って転んでしまう。
『ニャッハッハッハッ、これで終わりだニャッ!』
ネコは高笑いしながら、スクナビコナの頭上に前足を振り下ろす。
『やったニャッ!』
ネコが振り下ろした前足はしっかりと栗色の毛をしたネズミを押さえている。
『…ウニャ?』
ネコが目を凝らしてよく見ると、自分が前足で押さえている物は〝ネズミの皮〟に過ぎない。
「かかったな!」
そんなネコの視界にスクナビコナの姿が突然、飛び込んでくる。そう、ネコが押さえたものはあくまで直前にスクナビコナが脱ぎ捨てた〝ネズミ皮〟に過ぎないのである。
そしてネコが皮を押さえている隙をついて、スクナビコナは皮を押さえている前足の上を素早く〝助走〟し、その足の終点でネコの顔めがけて跳び上がる。
「もらった!」
そしてネコの眉間の辺りをその右手に持った針で思い切り突き刺す!
『ウギャアアアアアアアアアアーッ!』
ネコは周囲の全てのものを震わせるくらいの大きな悲鳴を上げると、そのままその場から走り去る。
スクナビコナは突き刺した針を素早く抜き、その場に着地する。
「…もう二度とこの辺りに近寄るんじゃねえぞ!」
スクナビコナは走り去るネコの背中に向けて、そう叫ぶのだった。
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