無法者はエルフの少年

翌日

いつものように影の世界の海を放浪していると

船員の声が響いた。


「2時の方向に海賊船あり!

船長如何なさいますか!?」


船員の声に39はニヤリと笑い


「叩き潰せ!!」


と船員に叫んだ。


船員たちはうぉぉぉ!と声を上げ早速、同業者の船へ向けて自分たちの船を進めた。


「ほんと、元気な奴らだ」


彼らの様子を面白おかしく眺めくくくっと笑う。

笑ったかと思えば同業者の方を向き真面目な顔をする。


「こんなとこで海賊旗掲げるなんざいい度胸してやがるな…」


久しぶりの同業者との乱闘が出来ることに武者震いを起こす。


影の世界の海をナワバリとしてる39の名を知らぬものはほとんどいないため

39を恐れた影の海を海賊旗掲げ渡る者が減っていたのだ。


船員は船の灯りを最小限に抑えると速く闇の海を進む。


優秀な手練な船員はみな自分の手元が僅かに見えるかくらいの光と長年の感覚で船を操る。


波の音が穏やかではなくなってきた、何かが来ていると気づいた時には…


「かかれー!!」


39の大きな怒声と共に船にある大砲が火を吹いた。


遅かった。


見張りをしていたであろう相手の船の者は命こそ奪われてはいないが暫く動けぬくらいの怪我を負っている。

甲板で雑魚寝していた者は起き出し、船底からもわらわらと海賊は出てくるが39達の敵ではなかった。戦闘員が次々と海賊を蹴散らし、援護組は船から大砲を発射する。

残りの者はお宝を持ち出していると、船長らしき小柄な誰かが39めがけて飛び込んできた。

もちろん、暗闇の戦いに慣れてる39は奇襲ごときで傷を負うこともなく力任せに相手を弾き飛ばす。


弾き飛ばされたその者は甲板にある柱に叩きつけられ苦しそうに唸り声を上げる。


「お前がこの船の船長だな?

俺の事知らなくて海賊旗を掲げてたのか?」


「……」


柱にぐったり倒れた者は返事をしない。

39が仲間からランタンをもらい照らしながら近づいていくと39は息を呑んだ。



小柄で軽いなとは思っていたがまさか…



ランタンの明かりに照らされ現れたのはエルフの小さな少年だった。

いや、少年と言ってもエルフは人間より遥かに寿命は長く成長も老けるのも人間より遅い。

人によっては50年生きてるがまだ10歳くらいの見た目の者もいる。


「なぁ、聞いてるか?」


エルフの少年は気を失っているらしくぐったりとしている。


「船長、気を失ってるみたいっすよ?」


アインがいつの間にやってきたのかそこに立っていた。


「あぁ、そうだな…。よし、連れて帰って事情を聞くか」


「あいつら(敵船員)はどうしますか?」


「そう言えば、船員は全員で何人くらいいたんだ?」


「さぁ?ざっと見て30くらいっすかね?」


「30か…仕方ねぇな全員、船の牢に入れとけ

気を失ってるうちに傷が腐らんよう応急処置しとけ」


アインは少年を抱えた39を見て(またか)とため息をついた。

彼は無駄な殺戮をしないどころか自分たちで負わせた傷を少しは治してやるというお人好しなのだ。


39はそういう男なのだ。


見ィつヶタ



どこかで誰かが三日月のように口角を上げた。


エルフの少年は目を覚ますと辺りを見回した。


(なんだ…?ここはどこだ?)


少年は起き上がり動こうとするとちゃりっと鉄の音がする。

音の正体はすぐに分かった。


自分の手と足に少し長めの鎖が繋がっている。

比較的、身動きは取れるが部屋から出ることはできない長さになっている。


コンコンとドアを叩く音が部屋に響いた。

少年の返事も待たず鍵の解錠音が聞こえたあと扉が開く。

現れたのは顔の右半分が機械で出来ていることがわかる男だった。


「お?目が覚めたか?」


「え、エクスマキナ!!!」


少年は身構え戦闘態勢に入ったが全身の痛みのせいでベッドにうずくまる。

それを見ていたエクスマキナの男はハハハと呆れたように笑った。


「それだけ威勢よけりゃ十分、元気になったってことだな。

なぁ坊主、お前…名前は?」


少年は男の質問に答えない。


「おい、アイン。ガキの様子は?」


不躾にドアが開けられ今度は人間の男が入ってくる。

人間の男は少年に目をやると起きてたのかと呟いた。


「あぁ、船長。ちょうど良かった。

今から話を聞こうと思ってたところなんだ。」


人間は「ほぉ?」と笑い部屋にある椅子にドカッと腰を下ろした。


「あぁ、初めに名前を名乗っとくか。

俺はここの副船長らしき立場で動いてるアイン。

あいつは船長の39。お前は?」


少年は震える声で


「ま、マイキー」


と名乗った。


「そうか、マイキー。お前はこの影の世界にどうやってきたんだ?

この海に誰がいるのか知らなかったのか?」


マイキーは小さくこくんと頷く。


「僕、今まで眠っていたみたいな気がして

何も知らない…分からないんだ」


何も知らないという言葉にアインは眉を一瞬潜めた。

マイキーはゆっくり続ける。


「ぼ、僕ね。お父さんとお母さんと将来のことでケンカしたんだよ。

部屋に上がってからもずっとイライラしててだったら大人になんかなりたくないって思ったら声がしたんだ。」


「声?」


マイキーはアインの問いかけにコクリとうなづく。


「大人にならなきゃいいじゃないか。オレならその方法教えてあげられるから手を組もう。って」


「大人にならない?それは無理な話だろ。

エクスマキナじゃない限り100年生きようが500年生きようが体は大人になる。

生きる上で必要な世の摂理だ。」


39はすかさず言葉を発する。


「でも、本当に言われたんだ。その代わりキャプテンFを探す手伝いをする約束で。それで手を組むことってなんのことか分からなくて承諾するとすごく眠くなって気がついたらここに繋がれてたから。」


そこまで話すとマイキーはぽろぽろと涙を流し始めた。


「お父さんとお母さんに酷いこと言ったから捨てられちゃったのかな…」


そんな様子を見てた2人は黙って部屋を出た。


「アイン。どう思う?よく出た作り話みたいな内容っぽく思えるが」


「ふむ…脈拍や脳波をこっそり覗いて見たけど、嘘をついてる時の反応は見られなかったんだよな。」


アインの言葉に39はニヤリと笑った。


「分からねぇぞ?ガキってのは自分の作り話も本気であるかのように信じ込むことがある。

とにかく、ガキの親を探して話をつけよう。

しばらく空けるってあいつらにはお前から言ってくれねぇか?」


アインが難しい顔をする。


「長くなりそうなのか?」


「さぁな。まぁ1日2日じゃあ終わらねぇだろうよ。」


アインは黙り込んだ。

なんだかイヤな胸騒ぎがしている気がした。

エクスマキナの半機械の身体では胸騒ぎと言っていいのか分からないが39が行くのが不安になっている。


「…どうしたんだアイン?」


「あぁ…その、出発はいつなんだ?」


「本格的に探しに出るのは少し先のつもりで、まずは情報集めに2、3日だけ表に行ってからだな。

その間あのガキ頼めるか?」


「問題ねぇよ。2、3日くらいならな」


「約束する。」


「…分かった。信頼してるからな。」


数時間後39は小舟を出して表の世界へ向かった。

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