ネバーランドの影
黒河内悠雅
迷子の少年と片目の海賊
海賊船長39という男
紅き月に照らされ潮風に髪を揺らし指針を片手に水平線を見据える男。
髪は長い間、潮にさらされ茶色く縮れたためかウェーブがかかり所々に赤のメッシュがアクセントになっている。
片手にはお気に入りのラム酒の瓶があり、男はそれを煽るように一口飲む。
「船長?こんなとこにいたんすね。
まぁいつも通りだとは思いますが」
顔右半分がロボットみたいな男が彼に近づく。
「なんだ、アインてっきり寝ているのかと思ったんだが…
どうしたんだ?」
ヘラッと彼は笑い男の方を1度見てから月に目をやる。
「船長こそっすよ。寝ないんすか?」
「なぁ、アイン何度も言ってるがそろそろそう言う言葉遣いやめてくれないか?
気色悪くて敵わないんだが…」
彼はエクスマキナの男、アインを見て苦笑いをする。
「いやぁ、これで生きてきちまったもんで
なかなか直せないんすよ…」
「しかしなぁ、俺の左目になるんだろ?」
アインは彼の言葉に困った様に視線を紅い月に向けた。
「船長…今日に限ってその話はやめましょうよ」
「アイン、今日だからしたくなるんだ
そこは目を瞑ってくれ…。
あと、船長呼びも今はいいじゃないか。昔なじみだろ?
なんか言いたいことあるだろ?」
「…… 39
いつまであいつを追いかけるつもりだ?」
「やっぱりその話か…」
39と呼ばれた男は深くため息を吐いた。
「何度も言わせるな…俺の左目を奪ったんだ。
それに……
いや、そう簡単に諦めるつもりは無い」
アインは39の静かな怒りを見て分かってたという顔をする。
「だけど、20年!!どんなに情報をかき集めようがしっぽすら掴めてないんだぞ!
そろそろ俺だって限界だ…
お前が掴めそうで掴めない何かに苦悩しているのを見るのが…!
何も出来ない俺が…情けなくて」
アインは俯き1粒の涙で頬に線を描く
「アイン…分かっているんだ。
これだけ探しても煙のように消えるやつを追うことの限界も。
もし俺について来れなさそうだと思ったら遠慮なく船を降りてくれ。
長いあいだ、ありがとうとも言うだから」
「違う!!!」
アインは39の言葉を遮るように叫んだ。
「違う!そんな言葉は聞きたくねぇんだよ!
ただ俺は……」
アインは39の顔を見て言葉が詰まる。
39とアインが出会った頃
39はまだ10代のやんちゃな少年であり、アインは30年以上生きてる男だった。
しかし、エクスマキナ属のアインは老けることなく500年1000年と生きるためエクスマキナからするとアインの生きた30年なんてまだまだ赤子と変わらない。
「悪をもって悪を制す!
それが俺の目標だ!!」
そう言った39の目の輝きにアインは惹かれ2人で20歳手前で出航を決断した。
「あの頃は俺らほとんど同じ歳だったのに…
いつの間にかお前はいいオヤジになってるじゃねぇか」
確かに39は45歳だ。少年の頃と比べると髭は生え、シワが少しずつ刻まれあと半世紀生きられるかと言った、当たり前の歳の取り方をしている。
「まぁな、でもいいオヤジだって目指すもん目指してたら死ぬまでにはいい思いできるとは思うけどな」
39は残りのラム酒を飲み干すと満足気に笑った。
その笑顔をみるとアインもつられて呆れ笑いが溢れた。
「全く…お前のそういう所は変わらねぇよな」
「身体は歳をとるが心まで歳をとってるのはつまらんだろ」
「お前らしい、何考えてんだか…
しかしお前の口からそれが聞けて迷いが消えたよ
この先何十年でも付き合ってやるか…
じゃあ、俺は先に休むぜ。」
アインは立ち上がり船員が雑魚寝している部屋に戻って行った。
1人になった39は自分の眼帯を取ると眼帯の裏にある小さな写真を取り出した。
そこには少年39ともう1人小さな女の子が写っている。
(まだ、時間はかかるが…必ず取り返してみせる)
写真を眼帯の裏のポケットに入れると握りしめたまま自室へ戻って行った。
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