第37話「新聞社襲撃事件。その一」
今夜は子猫のお迎えはないな。間違いない。
僕は心の声を小さく呟いた。暗黒騎士改め、人気イマイチの仮面勇者を出現させる。
そして静かに飛び上がった。
さて……。やるしかないでしょ!
月が厚い雲に隠れ、夜の王都は更なる暗闇に包まれた。好都合だ。
静かな夜だった。惨劇には丁度よい。
『どこに行くであるか?』
うわ、どうしたの?
ピンク子猫が僕より上を飛んでいる。なんて仕事熱心なんだ。この将来聖女は。
『どこに行くであるか?』
いやー、ちょっとトイレに行こうと思ってね。コンビニの。
『コンビニとやらはこの世界にはないである』
子猫の体がムクムクと大きくなる。全体が一周り二周り、三周りも拡大、筋肉が異様に盛り上がってきた。
これがホントの
『この
いやいや。答えさせていただきます。僕はこれから新聞社を尋ねてみようかなあー、と……
『なぜであるか?』
社会見学とでも言いますか。読者の声を届けようかなあー、と。
『本当であるか?』
ちょっと。ほんのちょっと文句を言うだけさ。ホント!
『信じるである』
凶悪な聖獣新とやらは、いつもの子猫に戻った。
別に俗に言う、お礼参りに行くとかじゃないよ。もちろんお礼をするつもりはないけど、どんな連中が僕の悪口書いてるのかなあと思ってさ。
『場所を教えるなど、しない方が良かったであるな』
聖女シャンタルの失敗だよ。僕は好奇心旺盛な中二なんだ。
『これからは注意する』
それはいけないな。監視者としては、僕にもいろいろ情報提供してくれないと。
『復讐――で、あるか?』
まさか! そんな大げさなもんじゃないよー。悪い事したら職員室に呼ばれて先生にこってり絞られるみたいなもんさ。これぞまさに惨劇。それの逆だね。
『よく分からない
王都ウイークリーの建物は、今夜も明かりがついていた。そんなに一生懸命人の悪口書いてどうすんの? 努力の方向性が違うでしょ。
さて。建物の中で残業しているのは三名。一番偉い人に面会を申し込みたいが、受付は当然閉まっているだろう。行っちゃえっ。
この体はすごく便利だ。どんな壁も簡単に通り抜けられるしね。一応、偉い人対応のキャラ作りをして交渉してみるか。
屋根からすーっと降りて、三階のフロアに立った。全員ここにいるな……。
その部屋の扉をすーっと通り抜ける。二人が机に向かい原稿を書いていた。フェイクニュース製造工場である。女性がこちらに気がついた。
「誰ですか?」
そしてもう一人も僕に気がつく。
「ゆっ、勇者仮面!」
「ご名答。少々話があるのだがな――」
「ひいっ!」
「――責任者を呼んでもらおうか……」
男性記者は逃げるように部屋を出て行った。残されたのは女子記者だ。
「あの、よかったらソファーにどうぞ……」
ほう……。なかなか肝の据わった新聞記者じゃあない。この暗黒騎士様を前にして、堂々としているね。
「うむ。座らせてもらおうか」
隣にピンク子猫も座る。やはり姿は見えてはいないようだ。
穏便な交渉が始まった。
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