第36話「街道の様子」
僕は背中にピンクの子猫を乗せ、夜の王都を飛んでいた。
『どうした元気がないであるな』
戦いに意味を見出せないんだ。新聞には叩かれるし、やってらんないよ。
『この世界では、人は生きるために戦っているである。アルデルトの世界は違うのであるか?』
まあ、僕の世界もそうだったけどさ。でも実際に戦いなんてなかったしね。つまらないいさかいや、ネットのバトルはあったけど。
『新聞であるか……』
そう。ユルクマ
『あいにくローデン聖教は、そのようなことに興味はないである』
まっ、そうだよね。宗教だし。
今日の目的地は東の街道だ。王都の防衛部隊は街壁周りで手一杯。今日は行ける所まで街道の先に足を伸ばし。とりあえず魔獣がいたら討伐する。僕は自分の航続距離も把握したかった。
それに昼間街道に魔獣が出現し、輸送部隊の危険度が増しているからだ。輸送うんぬんって、前に聞いたね。物資が届かなければ、僕も教会の信者も困るし。つまりウィンウィンってやつだね。
王都の街壁を越えた。広い街道とその周辺にはいくつかの建物が見える。それと数人の兵士。
『魔獣の気配を察したである。森の中に魔導弾を叩き込むである』
いいね、叩き込むなんて。バトルっぽいよ。
家や畑を過ぎ、上空を飛びつつ気配を探る。両手を突き出して魔力のカの塊を叩き込んだ。
うじゃうじゃいるなー。
王都周辺に来るそれなりの大きな魔獣ばかり見ていたから、下のは小さく見える。小物はこんな所を徘徊しているのだ。これもまた集団になれば脅威である。
青白い光が地表を広がり、焼かれる魔獣を照らし出す。
この攻撃は、草木や普通の動物には影響しない。魔力が魔に反応し、その体を焼くのだ。
農地も少なくなってきた。道の真ん中に、荷馬車が何台かひっくり返っている。僕はそこに降りた。
『輸送隊が魔獣に襲われたであるな』
確かに足跡がいっぱい付いていて、それっぽいけど魔獣の数が少なくないかな。馬もいない。
『物資が盗まれたである』
人間の足跡が多い。野盗ってやつか……。
以前商会の人が、お母さんと話していたのを思い出す。魔獣を使う人間の仕業みたいだ。
火事場泥棒みたいなもんだね。治安組織は王都で忙しいから、その隙に物を盗んじゃう。
『ことはそう簡単ではない。
人間が魔獣を使うなんてなあ。それで泥棒なんて小物すぎだよ。
森の中に入り、襲ってくる小物の魔獣を掃討して回る。
もう殲滅って感じじゃないの?
『そうである。明日は街道も静かで安全であろう』
じゃあ帰りますか。
帰り道。飛びながらも、地上に気を配り敵がいないか注意する。
ところで聖教とか教会内での、僕の評判ってどうかな?
新聞を読んでいる信者もいるだろうし、当然働いている人だって読んでいるだろう。
『やはり森のクマさんが人気である』
まあね、ちっちゃな子供は好きだろうし……。
分かってはいたけどショック。
『聖女たちのあいだではどちらが強いか、などが話題になっているである』
それは僕が強いに決まってるでしょ。
『大聖女とではどちら強いか、なども話題である。会ったら決着をつけてやる、と言っている者もいるである』
味方同士で戦ってもなあ。大聖女さんは強そうだから遠慮しておくよ。
『手合わせを頼むと、依頼されたら断るである』
ちょっとは興味あるけど。
『相手にならないである』
そっ……。
やっと王都に戻ってきた。こちらは平和だったみたいだ。
『あそこが王都ウイークリーであるな』
こんな時間にまだ明かりがついてる建物があった。庶民街の中である。
締め切りとかなんとか、ブラック労働なんだよね。あの人たちって基本。現実世界と同じだよ。
あいつら直接僕に取材してくれればいいんだよな。そうすれば自身の潔白を証明できるんだ。いかに僕が正義感に燃えて戦っているか、小一時間ほど説明してあげるよ。
『あまり目立ってはいけないである』
そうだよなあ。
人気は欲しいけど、素性は知られたくない。この矛盾をなんとかしなければいけない。だけど私生活が謎多きや、素性不明のタレントなんて今はもう古いんだ。適当なキャラ作りをして、バンバン露出して目立たなければ勝負にならない。
暗黒騎士のキャラ設定がまずいのかな。
『変えられないである。変化は可能であるが』
そうだよなあ。変化?
『より強くなれば、それに合わせて具現体も変化するである』
お約束のパワーアップってやつだね。
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