第38話「強襲! 王都ウイークリー」
雑然とした事務所は、現実世界の新聞社もこんなものだと思わせる。女子記者も対面に座った。
「ところで……、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あの記事を書いたのは君かな?」
「あの記事? 私は、【お宅の赤ちゃん探訪。いつもお母さんといっちょ】の取材を手伝っています」
……それはたぶん、お母さんが一番先に読んでいる記事だな。話を戻そう。
「とぼけてもらっては困るな。私の記事についてだよ」
「ああっ! あれ、勇者仮面の糾弾記事ですね。あれは私じゃありません。まだ下っ端なので記事なんてとても――。何度書いてもボツばかりなので、私って才能ないのかなあー、って落ち込む毎日です。編集長はスクープ取って来いってそればかりで。でも私はもっと生活に密着したホッコリする記事を書きたいんですよね。やっぱり読む人を幸せにするような――」
話が終わらない……。このまま永遠に聞かなくちゃならないの? まあ、メガネっ
「ちょっと待て。勇者仮面の誹謗中傷記事についてだ」
男性記者が戻って来た。
「編集長が、まだおりました。こちらに参りますので……」
その男性記者もソファーに座る。交代するように女性記者が立ち上がった、
「お茶を入れてきます」
「どうぞお構いなく……」
「いえいえ。渦中の人物に人独占インタビューができるなんて。こんなスクープのチャンス滅多にありませんよ。どうぞごゆっくりくつろいで下さいねっ!」
「……」
文句を言うつもりで来たのに、なんだか話がおかしな方に向かっている。とにかく自分の主張をしなければいけない。
「私の記事を書いたのは君かな?」
「あれを書いたのは編集長でして……」
男性記者が重い口を開く。ついに犯人が判明した。
なんと、編集長自らこの僕の記事を執筆したのである。それなりに、この僕に重きを置いている証拠でもあるな。内容はさておいて。
「どうぞ」
女性記者がお茶をテーブルに置いた。
しまった。仮面をかぶっているのに、お茶って飲めるのか? そもそも
「あっ、熱い。なんとも熱いお茶だな」
「普通の温度だと思いますが……」
「茶の心が全く分かっていない。話にならんなっ!」
「はあ……」
最近舌が、すっかりミルクの温度になれきってしまっていた。これは僕の問題だな。
「いや、失礼した」
つまりこれは、食事もできるってこと? すごい発見だ!
「ではまず、いくつか質問をさせていただきますね。今付き合っている人はいるのですか?」
はあ? どんな新聞だよ……。女子記者はこれだから……。熱いバトルには興味はないのかっ!
「ノーコメントとさせていただこうか」
ほどほどのプライベート露出は人気の秘訣だ。しかし、それは僕の最高級国家機密なのだよ。
「あれ? いるのですね。そのような答えはイエスと同じですから」
「いない。私は戦士なのだよ。女性のことを考える暇などないぞ」
しかしラノベは表紙の露出度で買う。
「どのようなタイプがお好みですか?」
「そうだね……。いやいや。今夜は理不尽な中傷記事に対して、抗議に来たのだよ」
「それならば事前にアポを取っていただかないと」
こんな格好でそんなの取れないって。この女子記者は僕の立場を分かってるのか? なんて仕事熱心な記者だ。
「確かに多少ユルクマの方が活躍しているかもしれない。しかし御社の記事からは、まるで俺が全く役立たずのような印象を受ける。いや役立たずとはっきり書いているだろう。これは誤報なのではないか? いや悪質な捏造報道だっ!」
ついノリノリの気分になり、拳でテーブルを叩いてしまった。
まずい。ピンク子猫がこちらを見ている。恫喝ととられては、抗議活動は即刻中止されるであろう。紳士的に振る舞わねばならない。
「森のクマさんですね。我々は、一年以上に渡る彼女の目撃証言を取材しております。それに比べて仮面勇者様の登場は、まだ二ヶ月ほど。ベテランとぽっと出の新人とを比較すれば、たいして役には立っていない、との結論になります」
「一年……」
「はい、それほど活動期間に差があれば、致し方ないことと存じます」
「裏を返せば勇者仮面様にはまだまだ可能性があるんです。我ら編集部一同、あなた様の活躍、大いに期待しておりますよっ!」
男性記者は身を乗り出した。この目は本気だ。
「まあな……」
まずい。なんだかうまく乗せられているみたいだ。
だけど一年も前って、本当なの?
『クマは確かに一年ほど前から、噂を聞いていたである』
正体は同級生だと思っていたけど、そんなに早く
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