第28話「猛獣警報の少女」
夜の我が居城。僕の執務室は暗黒の闇と人類の希望に満ちていた。
悪評もそろそろ、ほとぼりが冷めたにちがいない。人の噂もなんとやらだ。お父さんの話しぶりから、もう味方認定されて騎士や兵士から攻撃されることもなさそうだし。
将来聖女からのゴーサインもでた。魔力は満タン。久々に行きますか。
目の機能が、赤ん坊の体からこの具現体に移る。常人を超えた動体視力と、暗闇を覗き見る力。更に望遠に切替も可の優れ視覚。
たぶん目がキラリーン、と光っているに違いない。
視界の右隅が赤く点滅する。脅威反応だ。僕は進化している。
屋敷の屋根を抜けて、一気に上昇。直角に曲がり水平飛行に移る。
今夜の目標は遠距離移動にしよう。場所は森の先、魔獣阻止線。
いいよね?
『私も前線を知りたいである』
じゃ、行きますよー。
魔力放出を最小に絞り、高度を一定に保つ。制御とやらも慣れてきた。
僕も街からどれぐらい離れられるのか興味がある。試してみよう。
方向的にはこっちかな。
『そのまま行くである。戦闘は起こっていないが、何人かが待機状態である』
おっ!
魔力が一回ニ回、三回ときらめいた。ちょうど始まったみたい。
取りあえずそっちに方向転換。かなり手前で森の中に降りた。
そこから気配を探りながら戦闘地域に接近する。
正義の味方をやってるつもりだけど、一部には怪しいやつ認定されてしまっているから、やはり気をつけねば。
いたね……。
騎士三名が一体の中型魔獣と戦っている。苦戦しているみたいで、なかなかとどめがさせないでいる。どうやら低レベルの騎士たちのようだ。この人たちには近づかないほうがいいだろう。
やばっ!
大鹿の魔獣に体当たりされ、女子騎士が吹き飛ぶ。そのまま木に激突した。
すかさず男子騎士が間に割り込む。もう一人が横から剣を切りかけた。魔獣が首を振り。魔力の風が吹いてニ人もまた吹き飛ぶ。
やれやれ。
助けに行こうとするが、大鹿は倒れた騎士たちを無視し、街に向かって走りだす。僕の方に来るのではなく、ひたすら王都を目指しているのだ。
『脅威であるぞ』
それっ!
僕は魔力で高速移動し、一瞬で首を刎はね落とした。楽勝じゃん。
ったく。あいつら騎士見習いみたいだけど、こんなこともできないんだ。ホント、やれやれだね。
さて、せっかくだから木の陰から彼らを観察する。
一人の男子がもう一人の男子に食ってかかっている。胸ぐらをつかんでゆする。責任をなすり付けているんだろう。やれやれ。
やられた方も反撃を始めた。やれやれ。
女子が間に割って入り、取りなそうとしているが、やられていた男子が急に激昂した。女子の手を乱暴に払い除ける。
ぷぷっ。こいつら典型的なバカ貴族だな。
あれ? 男子たちはあの時、兵士に命令して僕を攻撃させていた二人だよ~。
やっぱ、バカ? あっ!
女子のハイキックが後頭部に命中。意識を刈り取った。
反射的につかみかかるもう一人に、強力な右フックが炸裂! アゴに入り足がふらふらに。
二人はもんどりうって崩れ落ちる。瞬殺(もちろん死んではいないけど)だ。
フッ。ざまあ。でも、なんて恐ろしいんだ。
女子は誰かに見られてはいないか、または本能からか周囲を見回す。
僕は気配を殺し、ゆっくりと木の陰に隠れた。静かにその場を離れる。あれってユルクマの時に幼女を保護してくれた女子騎士だ……。
あの女子に近づいてはいけない。僕も危なかった。猛獣警報級(クラスに必ず一人、ニ人はいるタイプ)だ。
たぶん男子二人をかばいながらイライラ戦っていたんだなあ。無能に命令されるって、一番ムカつくしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます