第27話「家庭崩壊?」
小康状態は長くはあまり続かなかった。魔獣軍団が再び進行を開始したのだ。シャンタル将来聖女のピンクの子猫が時々やって来て、状況を教えてくれた。
何よりお父さんの帰りが遅くなり、王城にお泊まりも多くなってきた。
お母さんはイライラぎみで、哺乳瓶を僕の口へ突っ込むのもぞんざいになってきた。ブラック労働は幸せな家庭をぶっ壊してしまうのだ。
戦いは一進一退の微妙な状況が続いているみたい。
おっと。久しぶりにお父様のお帰りだ。
「しばらくは厳戒体制と決まったよ」
「私も出るわ」
二人は話しながら僕の部屋に入って来た。ミルクの時間でもある。
「何を言っているんだい。アルのことを一番に考えてくれよ」
「ずるいわ――」
むむっ。何やら険悪ですな。どれどれ、僕が相談に乗りましょうかね。
「――あなたって、いつもそう」
「むぐっ」
お母さんは雑に、僕の口に哺乳瓶を突っ込む。
「いつもそうって何がだよ」
「いつもはいつもよ」
「君はそうやってすぐにごまかす。もっと具体的に言ってくれなくちゃ分からないって」
なるほど。お母さんは、すぐごまかす……っと。
「じゃあ具体的に言えば、あなたはそうしてるのくれるのかしら? 今夜、私も出るわ」
「だからそれはダメだって。危ないだろう」
息をつく暇もないくらいの、授乳無限地獄だ。
お取り込み中ですが、もう少し休み休みさせながら飲ませてくれる?
「だーっ、むぐむぐ」
「あらごめんなさい。お腹空いてると思ってちょっとサービスしちゃったわ」
「バブーブー……」もうお母さんは……。
授乳しつつ、心ここにあらずだ。
「とにかく家を守ることに集中してくれよ」
「仲間たちだって戦っているのよ。あなたが止めたって、私行くから」
「昔の仲間だろ? 気持ちは分かるけど、もうパーティーは解散したんだ」
「だからって私だけ知らんふりなんて、できないから」
「昔に戻りたいならそうすればいい。この家とアルを捨てて、勝手に行けばいいんだよ」
あらー。お父様、それを言っちゃあねえ。
「そうなれば、アルは連れて出て行きますから」
お母様。家出はどうかなあ。中学生みたいですよ。
「許さんぞ!」
お父さん。ここは下手に出なきゃなあ。
「私が産んだ子供ですっ!」
まずい。夫婦仲にバリバリと亀裂が。やべー!
ここは僕が。
「ウキーッ!」とりゃ!
思いっ切り、クマ人形を壁に投げつける。子供の怒りを? デモンストレーション(略してデモ)してみた。
「アル君は私に戦えって言ってる」
違う違う。なら。
「ウキー」どうだー。
勇者人形を投げた。
「あなた。捨てられたわ」
だーっ。違う違う
更に令嬢人形を投げた。
「君じゃないかな?」
「くうっ」
やばい。火に油だ。お互いに僕の行動を、自分に都合のいいようにしか解釈しない。なら……。
僕は【はいはい】して人形を回収。三体共抱きしめる。
「おとー、おかー」どうだっ!?
二人は無言になった。よしっ! 効果ありだ。
「とにかく外で戦うなんてダメだよ。この屋敷を守るのも戦いなんだから」
おっ、理論的説得が出ましたよ。
「……分かったわ」
お母さんは渋々同意した。
ふうっ。とりあえずは停戦だ。お母さんの気持ちも分かる。自分だけ安全な貴族街にいるなんて、耐えられないんだ。
お父さんは仕事で危機に当たっているから、ピンとこないんだな。
◆
――って訳でさ。強制家出赤ちゃんなるところだったよ。そっちの人たちもモメてるのかなあ。
夜立ち寄ったピンク子猫に愚痴ってみる。もちろん、他の組織の動向も気になるしね。それにお爺ちゃん司教様は元気かなあ。
『教団も教会も意見は色々とある。普通であろう』
モメてる?
『聖堂内で戦いが始まりそうなくらいである』
ヤバイじゃん!
『主戦派と守備派がつかみ合いする程度であるが……』
まあ、こっちはつかみ合いにはならないけどさ。
『八大聖女連は多士済々なのである。それぞれ人望もある』
だったら戦ってくれない、なんて場合も?
『それはないであろう。王政との調整も必要である』
ホント、色々あるよねえ……。
『ブラウエル・ベルンハルト責任司教は元気であるぞ』
あっ、そう……。
◆
昼間も貴族街は警戒体制へと移行した。使用人たちも全員武装し、交代で仮眠する。
前線に出て戦う、なんて言っていたお母さんの現実はそれどころではなかった。
周辺からひっきりなしに貴族や他の屋敷の人が来客。お母さんに教えを乞いに来るのだ。
そりゃ、戦いを知っている貴族夫人なんて少ないよね。
ご婦人や令嬢さんたちが、銃後の心得なんか聞きに来ているみたい。まるで戦争中だ。銃はないけど。
ところで異世界にも軍事オタクっているのかな? おっと。思考が逸れたね。
まんざらでもなさそうに、お母さんはテキパキと対応して動き回っている。さながら貴族街の軍事顧問だ。
お父さんはますます忙しく、あまり屋敷に帰れなくなってしまった。魔獣たちは夜やって来る。
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