第22話「仮面の勇者」

 再びの夜になった。つまり夜遊びの時間だ。

 お迎えの気配がする。白スライムを出してまずは偵察。一部だけ屋敷の外に出して、周囲を確認をする。

 あれ? 黒い猫が現れた。ふーん。あれが、どこぞの使い魔ですか……。

 そこにピンク子猫がやって来て、誰にも見られないキャットファイトが始まる。

 黒猫ちゃんは無事に負けて、どっかに逃げてしまった。なるほど。ピンクの子猫(将来聖女)は働いてくれる。

 なかなか有能な秘書ですね。要は監視役なんだけど、異邦人の僕には後ろ盾は多い方が良い。今は深く考えず頼るとしよう。おかしな同級生もいるしなあ。

 僕は暗黒騎士の姿になり外に出る。

『今夜はどうしたいであるか?』

 と、一応僕の意見を尊重してくれるしね。

 まずはもっと空を飛んでみたいな。練習したよ。

『どのような練習をしたであるか』

 心の中で念じてた。飛べっ! てさ。

『それは素晴らしい練習方法であるな』

 ……バカにしてない?

『やっみれば分かるである』

 じゃあ――。飛べっ!

 おっ、飛んだ。それもスゴイ早さで。垂直上昇っ! 練習の成果だ。

 僕は異世界の夜空を駆け上がる。星はびっくりするほど無数に輝き、煌めきの一つ一つが鮮明に見える。月は一つだけで現実のそれと似通っている。

『視力は常人をはるかに越える』

 すごいなあ――。あっと、止まった……。

『活動限界領域である』

 さすがに宇宙までは行けないよなあ。うん、絶景だね。

 王城が東京都庁なら、城下の貴族街は新宿だ。で、あっちが渋谷で、こっちが池袋のよう。それぞれは庶民街のようだ。緑も多いし、公園のような空間、公共施設のような大きな建物も多い。すごくデカイんだ。この王都は。

 アバター化身具現がゆっくりと降下を始めた。念じなければこうなる。

 王城の横に広いデッキがあった。なんとそこには巨大な飛行船が二隻停まっている。更に中型が二隻。小型か三隻。これがここのファンタジー世界なんだな。要は空気より軽い何かがあって、それを密封できれば物は浮く。魔力のある世界じゃ、簡単なのかもしれないね。


 中心から離れてずっと先に飛んでみる。建物は小さくなり、畑なども見えてきた。その先には巨大な壁。これが街を守る街壁がいへきなんだ。

 高度が落ち始める。

 あれ? なんで?

『本体から離れれば魔力が届かなくなる。戻るである』

 うーん。僕の力はこんなもんなのか。

『いや。伝達量が多いゆえである』

 なるほど。量を絞れば遠くに届くか。力も増す? 分からない。いや、ホースから出る水みたいなものかな。量より勢いが力。

『ホースは分からないが、理屈はだいたい合っている』

 それが魔力! 簡単じゃあないか。

『簡単ではないである』

 あらら……。

 お母さんの強さ。あの葉っぱをバラバラにした力は、強大には感じられなかった。それであの力。これが制御なんだ。

 まっ、簡単ではないかあ。ドM令嬢は驚いていたし。


  ◆


 夜の散歩が癖になってしまった。とはいっても、さすがに毎日毎晩お出かけするほど体力、いや魔力がもたない。

 戦闘とかはどうするのかな?

 シャンタルはザックリと基本を説明してくれた。

 なるほどねえ……。

 剣に魔力を込めて振って飛ばす。魔撃。

 手など体の一部に魔力を溜めて飛ばす。魔力弾。

 魔力を溜めたまま切りつける、が普通の剣の使い方。

 飛行は後方に魔力を噴射させるイメージ。太くではなく細く絞るのが有効。

『つまり力を念じるのである』

 簡単に言うけどさー。ガバガバ設定って気が……。

『イメージするのである。自身の魔力範囲で叶うのである』

 分かるような分からないような……。まあ、やってみるかあ。太く短くより、中流の僕には細く長くが合っているよ。

 将来聖女のマルティヌス・シャンタルは、良き先生として振るまってくれた。

 僕の実年齢よりは年下なのだが、赤ん坊年齢から見ればお姉さんなのだ。そして、この世界では先輩。なんとも複雑な師弟関係となる。

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